24 いじめ。
「うっ…」
誰かとぶつかって、そのまま反動で尻餅をついたようだ。体のあちこちが痛む。
「いった~…あ!ごめんなさい!!」
「あ、大丈夫ですよ。」
ぶつかったのは声の高さでわかっていたが、女の人だ。肩にかかるくらいの髪の長さで、容姿は可愛いというよりも美しい。
本当は、全然大丈夫じゃない!と、言いたいところだけど、きちんと謝ってくれたので、特に何も言わないことにした。
「えっと、ネクタイの色が緑色だから…君は1年生?本当にごめんね!!」
そういえば…色で学年が分かれているんだったな。今は緑が、1年生の学年カラーらしい。言い方的にこの人は2年生、もしくは3年生の先輩なのだろう。
それならば、言葉遣いに気をつけた方がいいな。
「気にしなくて大丈夫ですよ。」
感じが悪くならないように、俺は笑顔で応えた。
「ありがとうね。ん、あれ?そういえば、この辺に1年生が来るなんて…こっちには2年の教室しかないと思うんだけど?
私は3年なんだけど、2年の知り合いに用があって来てたの。あなたは何の用事?」
女の先輩は、不思議そうな顔をして尋ねきた。
どうやら俺は今、2年生の校舎にいるらしい。
ちょっと待て、2年生の校舎って桜の学年の校舎とは全然違う方向じゃなかったっけ?しかもこの女の先輩…俺を少し怪しんでる感じがする。
「実は3年生に姉がいるんです。その姉に、忘れ物をしたから教室に取りに行ってこい、と言われたんですよ。
でもまだ学校の構造がよくわからなくて…迷って2年生の校舎に来てしまったようです。」
咄嗟に思いついた嘘にしては、なかなか現実味のある嘘をつけた気がした。
女の先輩は、苦笑いで応えた。
「そうだったのね。そのお姉さん、弟使いが荒いわね。お疲れさま。よかったら私が案内するわよ!お姉さんは何組なの?」
女神のような発言…!ぶつかってくれてありがとう…!
「ありがとうございます!確か…A組です!」
「いいのよ。ぶつかったお詫びだと思って!それにしてもあなたのお姉さんは、私の隣のクラスの子かぁー!あ、私B組なの!」
俺と女の先輩は話ながら3年生の…桜の学年の校舎へと向かって歩き始めた。
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話をしていると、あっという間に桜の教室の前まで着いた。それにしてもこの先輩、話すことが好きなんだな。
ここに着くまで、途切れることなく話をしていた。こちらからは話をかけづらいので、正直ありがたい。
「さて、着いたわ!たぶん鍵は空いてると思うよ。」
「本当にありがとうございます。なんとお礼を言えばいいのか…」
「いえいえ、じゃあ私は自分の教室に戻るわね。」
そう言うと女の先輩は隣の教室に入った。
あの人なら桜と友達になれるんじゃないか?教室を調べたら、会いに行ってみよう。
そんなことを考えながら、A組の教室の扉を開けた。
ガラガラッ
教室へ入り、周りを見渡してみると…教室のある場所だけ、明らかにおかしいことがわかった。そのおかしい場所のすぐ近くまで歩き、立ち止まる。
「…。」
これはあまりにもひどすぎる。ゴミが机の上にも、その周りにも散りばめられている。
そして机の上には…『有園うざい!!』 と大きく書かれていた。この机が、桜の机だということが一瞬でわかる。桜が最近、ずっとこんないじめを受けていたのかと思うと、苛立ちを覚えた。
こんなことをするのは、いったいどんなやつなのだろうか。こんなことをして、それで気分がよいのだろうか。
「チッ」
俺は、桜をいじめている誰かに対して舌打ちをした。
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机の上があんな風だったら、ロッカーも荒れているのかもしれない。そう思ってロッカーを見ると、案の定中は悲惨なことになっていた。とても見ていられない状態だ。
この教室では、桜がいじめられているということが、事実だということしかわからなかった。
俺は教室を出た。




