20 俺が犯人を見つけてみせるから。
「すぅ…」
可愛らしい寝息が、俺の隣から聞こえてくる。桜は、泣き疲れて、眠ってしまったようだ。それもそのはずだ。今日桜は、誰かに突き飛ばされて、危うく命を落としてしまうところだったのだから。
「こんなに大きくなって…」
俺は桜の頭を撫でながら、小さな声でボソッと言った。
俺が竜一だったときの桜を思い出す。ヨタヨタ歩きだった頃なんて、恐ろしいほどに可愛さの魔力が掛かっていたな。
髪の毛が伸びて、ツインテールになったときの感動も忘れられない。
あと…俺が死ぬ直前に、名前を呼び続けてくれていたことは、本当に嬉しかったな…。
あの頃、桜は俺にベッタリしていた。そして今も俺…『竜二』ではなく、『竜一』のことをとても尊敬しているようだ。
…!?そういえば桜は竜一お兄ちゃんみたいな人がタイプなの!って言ってたよな!?つまり、俺はずっと桜から直接…えっ、すごい恥ずかしいじゃん…
自分の顔が、どんどん熱くなっているのがわかった。と、同時に死んでもなお俺のことを忘れずにいてくれる桜に、俺は感動した。
しばらく竜一の頃のことを、振り返ってみた。すると、桜があのくそ彼氏と付き合ってしまった理由が、なんとなくわかった。
あの桜の彼氏、『竜一』とどことなく容姿が似ている。桜はきっと、そこに惹かれてしまったのだろう。
「だけど性格はくそだった。ってことだな…」
つい声に出てしまった。桜が起きてしまっていないか見ると、すやすやと眠っている。よかった…。
それにしても…容姿のせいで、あの彼氏を気に入ってしまったのか…。『竜一お兄ちゃんみたいな人がタイプなの!』とは言っていたけど見た目か…。
なぜかショックを受けてしまった。見た目で彼氏を選ぶなんて…まぁ桜らしいと言えば、桜らしいのかもしれないけど…。
桜は昔から、何事も目に見えることを信じて、中身を見なかった。だからたまに痛い思いをしていた。
例えばノラ猫を見て、可愛いからと近づいたときがあった。桜が触ろうとすると猫は手を噛んだのだ。俺はあのとき、遠くから見ていなさいと言ったのに。『可愛いから大丈夫』と、桜は言った。
きっと今回付き合ったのも『竜一お兄ちゃんみたいな雰囲気だ…きっと性格も似ているんだろうな!』みたいなノリに違いない。少々桜の教育を、怠ってしまったようだな…
とにかく、あの彼氏…なんとかしないとな。それと…桜を突き飛ばした女のこと。最近桜に何かなかったか…?
俺は、最近何があったか整理をした。
そうだな…最近は桜と喧嘩をしていたせいで、全く話す機会はなかった。
…そうだ、思い出したぞ!喧嘩したことのきっかけは、俺が桜の電話を盗み聞きしていたことだ。
あれは確か、桜と誰かが言い合いをしていた。話に出てきた人物は…桜は『明久君』と言っていたな。そして話を聞く限り、それは桜の彼氏のことだったはず…。
俺の今持っている情報だと、桜と言い合いをした相手が1番怪しい。とりあえず調べてみるとするか。
「桜、絶対に俺が犯人を見つけるからな。」
桜を起こさないように俺はそっと囁いた。




