表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
20/53

19 懐かしくて安心する

 私はぐっすりと竜二の背中で眠っていた。目が覚めると、いつの間にか家のリビングにいるのだからとても驚いた。

 そんな私を見て、竜二は暖かい目で微笑んでいた。いつもだったら嘲り笑っていると感じるのに、今日はそうは思えない。純粋に微笑んでいるように見えた。


 「…痛っ!!」


 急に足に激痛が走る。自分が思っていた以上に、足の怪我はひどかったようだ。足を見ると、腫れがひどくなっていることがわかった。


 「足、痛いよね?湿布持ってくるからちょっと待ってて。」


 竜二は急いで湿布を取りに行った。


 …絶対におかしい。いくら私が怪我をしたからといっても、性格が変わっているのではないかと思うほどの言葉遣いに表情。何が何やらわからない。


 考え込んでいると、竜二が走って戻ってきた。


 「ふぅ、さてと。足を見せてもらえる?俺の膝に怪我をした方の足を乗せて。」


 そういうと、竜二は立て膝になった。そして、ポンポンっと膝を叩いて合図をした。


 「あ、ありがとう…」


 私はお礼を言い、竜二の言った通りに足を乗せた。


 それにしても…なんというか、私への扱いが、幼児と同じような感じがする。これは気のせいなのか?

 何を話せばいいかわからなく、私は黙ってしまう。


 …静かな時間がしばらく続いた。竜二は丁寧に私の足を湿布で包み、さらに包帯を巻く。

 私はその光景をボーッと見ていた。


 「姉さん、そういえばさ。」


 処置が終わったので、お礼を言おうと思ったときに、竜二の方から声を掛けてきたから、私は少しびっくりした。


 「ふぇっ!?あ、え?何?どうしたの?」


 変な声が出てしまった…。少しだけ恥ずかしくて、体温が上がった気がした。


 「悪いことは言わないからさ、彼氏選びはきちんとしなよ。」

 「……。私はさっき言った通り、彼氏のことが好きなの。だから、私は別に助けてもらわなくても構わないの。」


 竜二に嘘をついた。本当は助けてもらえなくて辛かったのに。正直彼氏のことが好きかわからなくなっていたのに。


 「…。下手したらさ、姉さんは死んでたんだからな?まぁ、姉さんがそういうなら仕方ないけど…。でも、俺はあいつを姉さんの彼氏とは認めないから。」


 真面目な顔で竜二はボソッと言った。


 「…確かに私は、もしも竜二に助けてもらっていなかったら、死んでいたわ。でも…それでもなお好きなのよ。」


 竜二はとても悲しそうな表情をした。私の胸がズキッと痛む。竜二の言いたいことは、わかっているのに…。

 なぜかまた、嘘をついてしまう。なんで私は、彼氏(あいつ)に固執しているの?離れたくても離れられない…。


 私は無理矢理、笑顔を作って話始めた。

 

 「ふふっ。それにしても、竜二はお父さんみたいなこと言って…面白いなぁ。」

 「ぜ、全然お父さんじゃないし!」


 悲しそうな顔から急変し、慌てているようだ。この様子がとても愛しく感じる。


 しばらく、私と竜二は久しぶりに話をした。そういえば、ここ最近は喧嘩をしていて、話していなかった。

 なんだか、今日の竜二と話していると、懐かしくて安心する感覚がある。なぜかはわからないけど。


 「竜二…さっきは助けてくれてありがとう。あと、喧嘩のこと、ごめんね…。」


 竜二は少し驚いた顔をした。そしてその直後、頬が赤く染まる。


 「…助けたのは家族だからさ、当然だよ。何かあったら、絶対に俺は姉さんを助けるから。」

 「竜二、本当にありがとうね。」


 感謝してもしきれない、命の恩人である私の大切な弟。本当は私が、竜一お兄ちゃんみたいに、守らなければいけないのに…。不器用すぎて守れない。ごめんね、竜二。


 「あと…喧嘩のことに関しては俺の方が悪いから。先に謝ろうと思ったのに、姉さんに先に謝られちゃった…。」


 竜二はしゅんっと、小さくなってしまった。


 「ううん。喧嘩のことは、私はお互いに悪い部分があると思ってるよ。私はカッとなって髪の毛をこんなふうにしちゃったしね…」


 少し前までは、腰まであった長い髪…今では肩にも届かない、ショートボブになってしまった。自慢の髪だったのだが、自分で切ってしまった。


 「でも、その原因を作ったのは俺だよ。姉さん、本当にごめん。」


 頭を下げて謝る竜二。こんな風に謝られるのは初めてのことだった。


 「あ、頭を上げて!?ツインテール好きの竜二をね、困らせようと思ってやったことなの…私って大人げないね。」


 竜二はゆっくりと頭を上げて、悲しそうな、切なそうな表情で話始めた。


 「姉さんも知っての通り俺はツインテールが好きだからね。でも俺はさ、ツインテールのことよりも姉さんが自分を大切にしなかったことが、一番辛かったな…。それと…」


 竜二は、力強く言葉を発した。


 「姉さんは、大人げないなんてことないよ。」


 あぁ、そんなこと言われるとまた泣いちゃうじゃない…


 「竜二…ありがとう…」


 どうしても、もう一度伝えたかった言葉を言った。


 私は、優しく接してくれた竜二への感謝と申し訳なさ。命の危険があったのに、助けてくれなかった彼氏へのやるせなさ。

 そして…道路へ誰かに突き飛ばされた事実。全てを吐き出すように、泣き崩れた。


 竜二は、そんな私をぎゅっと抱きしめてくれた。


 昔、私が泣いていたとき、竜一お兄ちゃんもこんな風に何も言わずに抱きしめてくれたな。いったい何回泣けばいいのやら…。


 愛しい弟、竜二の温もりを感じて、私はとても安心して泣くことができた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ