19 懐かしくて安心する
私はぐっすりと竜二の背中で眠っていた。目が覚めると、いつの間にか家のリビングにいるのだからとても驚いた。
そんな私を見て、竜二は暖かい目で微笑んでいた。いつもだったら嘲り笑っていると感じるのに、今日はそうは思えない。純粋に微笑んでいるように見えた。
「…痛っ!!」
急に足に激痛が走る。自分が思っていた以上に、足の怪我はひどかったようだ。足を見ると、腫れがひどくなっていることがわかった。
「足、痛いよね?湿布持ってくるからちょっと待ってて。」
竜二は急いで湿布を取りに行った。
…絶対におかしい。いくら私が怪我をしたからといっても、性格が変わっているのではないかと思うほどの言葉遣いに表情。何が何やらわからない。
考え込んでいると、竜二が走って戻ってきた。
「ふぅ、さてと。足を見せてもらえる?俺の膝に怪我をした方の足を乗せて。」
そういうと、竜二は立て膝になった。そして、ポンポンっと膝を叩いて合図をした。
「あ、ありがとう…」
私はお礼を言い、竜二の言った通りに足を乗せた。
それにしても…なんというか、私への扱いが、幼児と同じような感じがする。これは気のせいなのか?
何を話せばいいかわからなく、私は黙ってしまう。
…静かな時間がしばらく続いた。竜二は丁寧に私の足を湿布で包み、さらに包帯を巻く。
私はその光景をボーッと見ていた。
「姉さん、そういえばさ。」
処置が終わったので、お礼を言おうと思ったときに、竜二の方から声を掛けてきたから、私は少しびっくりした。
「ふぇっ!?あ、え?何?どうしたの?」
変な声が出てしまった…。少しだけ恥ずかしくて、体温が上がった気がした。
「悪いことは言わないからさ、彼氏選びはきちんとしなよ。」
「……。私はさっき言った通り、彼氏のことが好きなの。だから、私は別に助けてもらわなくても構わないの。」
竜二に嘘をついた。本当は助けてもらえなくて辛かったのに。正直彼氏のことが好きかわからなくなっていたのに。
「…。下手したらさ、姉さんは死んでたんだからな?まぁ、姉さんがそういうなら仕方ないけど…。でも、俺はあいつを姉さんの彼氏とは認めないから。」
真面目な顔で竜二はボソッと言った。
「…確かに私は、もしも竜二に助けてもらっていなかったら、死んでいたわ。でも…それでもなお好きなのよ。」
竜二はとても悲しそうな表情をした。私の胸がズキッと痛む。竜二の言いたいことは、わかっているのに…。
なぜかまた、嘘をついてしまう。なんで私は、彼氏に固執しているの?離れたくても離れられない…。
私は無理矢理、笑顔を作って話始めた。
「ふふっ。それにしても、竜二はお父さんみたいなこと言って…面白いなぁ。」
「ぜ、全然お父さんじゃないし!」
悲しそうな顔から急変し、慌てているようだ。この様子がとても愛しく感じる。
しばらく、私と竜二は久しぶりに話をした。そういえば、ここ最近は喧嘩をしていて、話していなかった。
なんだか、今日の竜二と話していると、懐かしくて安心する感覚がある。なぜかはわからないけど。
「竜二…さっきは助けてくれてありがとう。あと、喧嘩のこと、ごめんね…。」
竜二は少し驚いた顔をした。そしてその直後、頬が赤く染まる。
「…助けたのは家族だからさ、当然だよ。何かあったら、絶対に俺は姉さんを助けるから。」
「竜二、本当にありがとうね。」
感謝してもしきれない、命の恩人である私の大切な弟。本当は私が、竜一お兄ちゃんみたいに、守らなければいけないのに…。不器用すぎて守れない。ごめんね、竜二。
「あと…喧嘩のことに関しては俺の方が悪いから。先に謝ろうと思ったのに、姉さんに先に謝られちゃった…。」
竜二はしゅんっと、小さくなってしまった。
「ううん。喧嘩のことは、私はお互いに悪い部分があると思ってるよ。私はカッとなって髪の毛をこんなふうにしちゃったしね…」
少し前までは、腰まであった長い髪…今では肩にも届かない、ショートボブになってしまった。自慢の髪だったのだが、自分で切ってしまった。
「でも、その原因を作ったのは俺だよ。姉さん、本当にごめん。」
頭を下げて謝る竜二。こんな風に謝られるのは初めてのことだった。
「あ、頭を上げて!?ツインテール好きの竜二をね、困らせようと思ってやったことなの…私って大人げないね。」
竜二はゆっくりと頭を上げて、悲しそうな、切なそうな表情で話始めた。
「姉さんも知っての通り俺はツインテールが好きだからね。でも俺はさ、ツインテールのことよりも姉さんが自分を大切にしなかったことが、一番辛かったな…。それと…」
竜二は、力強く言葉を発した。
「姉さんは、大人げないなんてことないよ。」
あぁ、そんなこと言われるとまた泣いちゃうじゃない…
「竜二…ありがとう…」
どうしても、もう一度伝えたかった言葉を言った。
私は、優しく接してくれた竜二への感謝と申し訳なさ。命の危険があったのに、助けてくれなかった彼氏へのやるせなさ。
そして…道路へ誰かに突き飛ばされた事実。全てを吐き出すように、泣き崩れた。
竜二は、そんな私をぎゅっと抱きしめてくれた。
昔、私が泣いていたとき、竜一お兄ちゃんもこんな風に何も言わずに抱きしめてくれたな。いったい何回泣けばいいのやら…。
愛しい弟、竜二の温もりを感じて、私はとても安心して泣くことができた。




