1 全ての始まり
人生って呆気なく終わるんだな。全身が血まみれになっている。それもそのはずだ。妹の桜を庇ってトラックに轢かれたのだから。
「…ちゃん!…お兄ちゃん!竜一お兄ちゃん!嫌だ死なないで!!」
泣きながら小さな体全体を使って俺のことを揺すっている。
ごめんな。でも桜が助かってよかったよ。澄んだ青い瞳、俺のことをずっと呼びかけている態度。俺の妹はなんて可愛いんだろうか。
それになんといっても、高めの位置で二つに結んだ髪型!ふわふわな金色の髪!金髪ツインテールの妹とか可愛い以外の何物でもないだろ!俺は全身痛いはずなのに微笑んでしまう。
「竜一お兄ちゃん…なんで笑ってるの…?あぁ、嫌だ!!目を開けて!!竜一お兄ちゃ…!……」
あぁ、意識が遠退いていく。桜の成長とツインテールを見れないのは残念だけど生きてくれるだけで俺は幸せだよ。桜、大好きだよ。
「…ぷっ。あーーはっはっはっは!なにこれシスコン感半端ないんですけど!!というかシスコンか!『ツインテールを見れないのは残念』とか何それ笑い止まんないしお腹痛いんだけど!!!さっすが面白さを司る神が面白いと認めたネタで作った番組なだけあるわ!!」
俺の人生で体験してきたことがさっきまでテレビで放送されていたのだ。目の前にいる女性は、俺が人生最期に思ったことをショートコントを観ているかのように大笑いでコメントを付けてくれた。どうやら面白さを司る神様とやらがきっかけで、この番組を作ったらしい。非常に腹立たしいことである。
「神様…失礼ですがそういうの本人の前で言うのどうかと…」
この女性も神様である。転生を司る神様だとさっき彼女自身で言っていた。
「面白いから再生しよっと!」
そう言うと、転生を司る神様は再生ボタンを押した。するとまた俺がトラックに轢かれる場面から始まった。
「ちょ、人の話聞いてますか!?というかもう一度はやめてください。トラックに轢かれた痛い記憶も思い出しますし、なんといっても恥ずかしいですから!
それに俺こんな思いをするために来たわけでもありませんし!!」
この転生の神様にある『お願い』をするのが俺の目的なのだが、話を聞いてくれるのか不安になってきた。
「あ、そうだったね。ついつい面白くて目の前に本人いるのに存在忘れてたよ!竜一君最高!」
そんなこと言われても知ったこっちゃないんですけど…と思いつつも今からお願いをする相手にそんなことは言えないから、グッとこらえた。
「あはは…それよりも今日は折り入ってお願いがあるんですけど聞いてくれませんか?」
俺は少し真面目に話し始めた。すると転生を司る神様はきちんと聞いてくれる姿勢になった。
「いいわよ。転生に関することなら、この転生を司る神になんでも言ってみなさい。」
張り詰めた空気が流れた。俺は一呼吸置いて目的を伝えた。
「もしも生まれ変わらせてもらえるなら是非ともツインテールの女の子が側にいる環境にしてほしいんです!どうかお願いします!そうじゃなきゃ俺、生きていけません。」
転生を司る神様がポカンとしている。俺は真面目に伝えたし特に変なことを言ったつもりはないのだが…
「ぷっ。あーーはっはっは!本当に竜一君最高だよ!!ツインテールどんだけ好きなの!?わかったわ、ツインテールの女の子が側にいる環境ね?心当たりがあるからすぐに転生させてあげるわ!」
また大笑いされてしまったがまさかこんなあっさりとOKが貰えるなんて…それにすぐに転生させてくれるなんて思っていなかったからとても驚いた。と、同時に喜びに満ち溢れた。
「あ、ありがとうございます!!神様本当にありがとう!!」
普段他人の前であまり表情を出さないのだが、こればっかりは顔に出ずにいられなかった。
「いいよいいよ気にしないで!竜一君はまだ死ぬ予定じゃなかったけど、私の知り合いがミスをしたことが原因で死んじゃったからね。なにかしらでお詫びしようと思ってたからちょうどいいわ♪」
なんて優しい神様なのであろうか!…ん?ちょっと待て?『私の知り合いがミスをしたことが原因』ってどういうことだ?
「え、神様?俺死ぬ予定じゃなかったの…?それってかなりやばいんじゃ…説明してください!」
「細かいことは気にしないの!次の人生はもっと楽しめるといいわね!せーの!」
神様がそういうと俺の足元に穴が開いた。ふわっとなり、空を飛ぶときっとこんな感覚になるんだろうなと思った。しかし次の瞬間…
「うわぁぁぁぁぁぁあ!!!!!!」
俺は急降下していた。まじで死ぬと思った。死んでるけど…
「神様ぁぁぁあ!!知り合いのミスって説明してくれないと納得できないんですけどぉぉおお!?」
そう叫んだのだが転生を司る神様は笑顔で手を振っている。というか落ちている場所…ここってまさか…!