18 許さない。
「はぁ…」
まさか弟におんぶをしてもらう日が来るなんて思わなかった…。私は大きな溜め息をついた。
「どうかしたの?大丈夫?」
「う、ううん…なんでもないの!でも私重くない?無理しないで下ろしてくれていいんだよ?」
うっ、自分で言って悲しくなってきた。こんなことならダイエットしとけばよかったな…まぁ竜二のことだからどうせ、
『え?なら下ろすわ。てかマジ重いし(笑)』
とか言ってくるんだろうな。よし、そう言われたら竜二の頭をぶっ叩こう。私はいつでも竜二を叩けるように身構えた。
「別に重くないよ。怪我してるんだからもっと自分を大事にしなよ。」
「えっ!?」
予想していた言葉とは全然違う返答につい声が出てしまう。
「急に変な声出さないでよ。驚くだろ?」
顔は見えないがどうやら笑っているようだ。
「あ、えと、ごめん。」
…どう考えてもおかしい。いつもの竜二ならもっと私に対して反抗的なはずだ。それにいつもはこんな話し方をしない。こんなに優しくない。なんだか死んだ竜一お兄ちゃんみたいな話し方だ。
私は竜二が手を差し出してくれたときのことを思い出した。
さっき竜二が死んだ竜一お兄ちゃんに一瞬見えたな…竜一お兄ちゃんは私に何かあったらいつも助けてくれた。私が転んだときはよくさっきの竜二みたいに手を差し出してくれた。そういう竜一お兄ちゃんの優しいところが本当に大好きだった。
竜一お兄ちゃんと過ごした日々が頭の中で昨日のことのように思い出される。しかし…楽しいことだけではなかった。竜一お兄ちゃんの最期が鮮明に思い出された。体のあらゆるところが赤く染まり、小さい子供ながらもこれはもうダメなんだと見た目でわかる絶望的な血の量。ゆっくりと閉じていく瞳。トラウマだ。思い出すと背中がぞわぞわした。
ぞわぞわするといえば…さっき私は誰かに道路へ突き飛ばされたんだよね…?下手をしたら私は死ぬところだった…誰がそんなことをするのだろう。思い当たる人なんて…考えたら血の気が引いた。…まさか、ね。…今は考えないでおこう。するとふと彼氏のことを思い出した。
彼氏はなんで私を助けてくれなかったの?竜二が近くにいたから助かったもののもしもいなかったら…私があのままトラックに轢かれていてよかったの?本当は私のこと好きじゃないのかな…?私は竜二に『好きな人』ってさっき言っちゃったけどもうわからないよ…
急に頬に冷たいものが伝った。その冷たいものは次から次へと左右の目から溢れる。あぁ、最近の私って感情出しすぎじゃないかな?なんでかな?
「ひっく…」
少し声が出てしまった。しかし竜二は何も言ってこない。どれだけ今日は優しいのよ…全く…
私は今日の竜二の様子にいくつかの疑問を覚えつつも優しさに安心していつの間にか眠っていた。
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「すぅ…」
さっきまで泣いていたようだけどどうやら眠ったみたいだな。
俺はとても可愛らしい桜の寝息を懐かしく感じる。桜が小さい頃はよくおんぶをしたものだ。そしてこのようによく俺の背中で眠っていたな…
思い出に浸りたいという気持ちもあったが今はそれどころではない。何とかしなければならない問題が大きく分けて3つもある。
まずは桜を突き飛ばしたやつに関して。女ということ以外わからない。しかし明確に桜を狙っていた。つまり…桜の知り合い?…しばらく注意しなければな。また何かあるかもしれない。
2つめは桜に彼氏ができたこと!俺が記憶を取り戻す前になぜあんなにモヤモヤしていたかがわかったぞ…!大事な大事な桜に彼氏ができるとか…!そりゃモヤモヤするわ!1周回って泣くわ!しかもあの彼氏、トラックに轢かれそうな桜を助けなかった…本当に信じられない。あいつ、いつか覚えとけよ…!
ふぅ、少し落ち着こう。3つめは桜との喧嘩。きちんと俺が謝らないと…。お互い気持ちの整理ができたときに謝った方がいいな。それにしても桜のツインテール…!すごい惜しい!あぁ!俺が大人げなかったばかりにせっかくのツインテールが…!でもツインテールじゃなくっても桜は大事な妹…姉だ。
俺は頭の中でどうにかしなければならないことを整理した。俺の学校生活のことも含めると…春香のこともだな。まぁそこはおいといて今この3つの中でもっとも何とかしなければならないことは桜を突き飛ばしたやつのことだな。
桜を突き飛ばしたやつを特定してやる。俺の可愛い桜を傷つけたやつは絶対に許さない。




