9 姉と俺のすれ違い
目が覚めると朝の6時20分だった。…また、夢?さっきの夢はいったいなんだったんだ?そして、姉に不幸なことが起こるってどういうことだ?話を聞く前に目が覚めてしまったからわからない。なぜかあの忠告はとても心に響いたな。もしかしたら本当に夢じゃないのかもしれない。
…とりあえず心に留めておこう。
「ギュルギュルギュルゥゥウ」
なんともいえない音が腹から漏れた。そうじゃん、昨日ご飯食べずに泣きながら寝たんだった。かっこ悪いな…いや、それよりも腹が減ってもう限界だ…
俺は食べ物を求めてキッチンへと向かった。
「…朝からなんなのよ。いい加減にしてくれない?私は告白されたし前から好きだったからOKしたのよ。あなたが明久君のこと好きだなんて知らなかったし。」
姉の部屋から声が聞こえた。なんだか機嫌の悪い声だ。何かあったのか…?俺は耳を澄ました。
「…もういい、切るから。じゃあね。あーもう!なんなのよ!」
どうやら何かしらトラブルがあったようだ。しかも内容的に昨日できた彼氏のことでらしい。
「こういうときは顔を洗うのが1番ね!洗面所に行こう!」
一人言をぶつぶつと言う姉。傍から見るととても不気味だな…いや、そんなことはどうでもいい!まずい、姉が来てしまう!と思ったときにはもう遅かったようで姉は扉を開けた。そして俺の顔にぶつかった。
ドンッ
「うっ、痛ぇ。」
「竜二…こんなところで何してるの…?もしかして電話の内容を聞いてたの?」
「…。」
あ、やらかした。姉はさっきの電話で今はとても機嫌が悪い。現に般若が姉に乗り移ったのではないかと思うほどの殺気を放っている。ここでさらに俺が盗み聞きをしたという要素が加わってしまったので姉の怒りは天井知らずだ。
「やっぱり聞いてたのね?勝手に人の話を聞かないでくれるかなぁ?盗み聞きとかすっごくムカつくんだけど?いつからこんな子になったのかしら?本当に腹立つわ。」
「…。」
確かに盗み聞きに関しては俺が全面的に悪い。悪いけれどもここまで言われるとこっちも腹が立ってくる。反論したいが…くそ、なんなんだよ…!今日の姉のツインテール、寝癖でぴょんってなってて可愛すぎだろ!!
まだ髪を手入れしていないのかいつも以上にはねている。このツインテールはレアすぎる…
「ねぇ?人の話聞いてるの?まさか…こんなときまでツインテールのこと考えてるの!?信じられないわ!!状況を考えなさいよ!今怒られてるのよ!?」
姉はいつも以上に声を張り上げた。俺はここまで声を張り上げて怒鳴る姉を見たことがなかったのでとても驚いた。
「もう駄目、許せないわ…!竜二のそのツインテール狂いにはもう飽き飽きしていたのよ!いつもいつもツインテールばかり見て…!こうなったらツインテールをやめてやる!!」
そう言うと姉は自分の部屋へ戻り、机の上からハサミを持ってきて2つに結んだ髪をほどいた。
「…!や、やめろ!やめてくれ、それはっ!」
ジョキッ…
嫌な音がした。俺の、俺の大好きな…あぁ。髪が…姉の髪が…
「ふふふっ…!スッキリしたわ!これでもうストーカーみたいに竜二!あんたから見られることはなくなるのね!!」
姉は肩に掛からないショートヘアーになっていた。そしてざまあみろと言いたげな顔を俺へと向けた。
「…くそ姉が!そこまでする必要ないだろ!?まじでふざけるな!」
「竜二がいけないのよ??というかツインテールでそこまで怒るなんて本当に気持ち悪いわ。」
姉はゴミでも見るような目で俺を軽蔑した。違う、俺が怒っているのはそこに関してじゃない!
「くそが!俺が怒ってるのはもっと自分のことを大事にしろってことだ!髪は女の命なんだろ!?その髪を怒りに任せて衝動的に切るなんてマジでありえないんだけど!?」
「うるさい!うるさい!!黙って!全部あんたのせいなんだから!あんたなんて大っ嫌い!」
泣きながら姉は部屋の中へと戻った。
ごめんな。もっと俺が配慮していれば、素直に早く謝っていたらこんなことにはならなかったのかもしれない。本当にごめんな…もしかしてこれが神が言っていた不幸なことなのか?
「なぁ神様?これがその不幸なことなの?」
静かな廊下で声に出して言ってみた。だがもちろん返事などない。そして俺は姉が姉自身で切った髪を拾い上げ、そっとごみ箱へと捨てた。
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私は何をやっているんだ…竜二に関係ないことまで怒りをぶつけて…盗み聞きをされたことに対してだけを怒ろうと思ったのに。あれはどう考えても言いすぎだし最後に全部あんたのせいなんだからって言っちゃったわ。
私はさっき竜二に言ったことに対してひどく後悔した。涙が溢れて止まらない。
それに竜二がツインテールを見ているなんていつものことなのに…仕方ないことなのにそのことに踏み込んで自分自身の髪を切っちゃうとか私ってどんだけ短気なの!?あとなんと言っても竜二に私のことを心配させてしまったこと。私はツインテールをやめてツインテール狂いの竜二に復讐をしようと思っただけだった。でも、私が思った反応とは違った。竜二は…
『もっと自分のことを大事にしろ』って。そう言ったんだ。私は怒りに任せていたというのに竜二は私のことをちゃんと考えていた。ごめんね、こんな姉で。ごめんね…
とりあえず涙が止まったら顔を洗いに行こう。きっとひどい顔をしているはずだ。
「竜一お兄ちゃん、私はお兄ちゃんみたいにはなれないや。」
兄のような優しさが私にあれば…私は心の整理をして涙が止まるのを待つことにした。




