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未だ咲かぬフリティラリア  作者: 逸見玲
3/5

03

 何を受けるにもやはり武器の一つは必要だろうと、ギルドで聞いた武器屋へ向かう。大通りに面したその店は年季が入っているが最低限の清潔感は保たれており、入るのに抵抗はなかった。店内に入りぐるりと見回せば壁や棚に様々な種類の武器が並べられている。だがどれも使ったことなどないし、ギルドで言われた通りここはダガ―で様子を見るのがベストだろうと、ダガ―の並べられた棚へ向かう。

「ダガ―とは言っても結構あるんだな。お金も……無駄には使えない」

 実家暮らしと言えど自分の小遣いは自分で稼いでいた。お金のありがたみは分かっている。叶はぎゅうと金の入った麻袋を握りしめてダガ―へと目を凝らした。武器の良し悪しなど分からない。店員に聞けばいいと思うだろうが話しかけるなオーラを纏っているので却下である。そうして叶が選んだのは包丁に似たサイズの刀身が青白いダガ―だ。不思議と惹かれたそれを手にカウンターへと向かう。

「すみません、これください。あと腰に付けるベルトみたいなのもあれば……」

「ん。合わせて2000ゲニだ」

「はい」

 きっちり払い、店を後にする。ドアが閉まったのを確認して叶はふぅと息を吐いた。

「武器は買った。荷物は今のバッグ使えばいいとして……替えの服とか買っとくべきだよな」

 そうと決まれば目指すは服屋。大通りにならあるだろうと目星をつけて歩くと、それらしき看板を発見する。そうして目的の物を買いそろえた叶は気づけば、もともと持っていたバッグが小さかったのもあり、バッグが一つ増えていた。

 教会に戻るころには日が傾きかけており、子どもたちが中に入ってくのが見えた。今日の依頼を終えて戻ってきたのだろう。受け入れてもらえればいいのだけど、と少しだけ後ろ向きになりながら叶は教会の扉を開く。中ではシスターが笑顔で迎えてくれた。

「おかえりなさい。登録はできましたか?」

「はい。あとダガ―と着替えなんかを買ってきました。明日、受けられる依頼がないか見に行こうと思います」

「無理はしないでね?まだ慣れないでしょうから」

「正規登録できる歳ですし、このままだと甘え過ぎてしまいそうなので。そうだ、何か手伝うことありますか?」

「そう……なら夕食の準備を手伝ってもらおうかしら」

「はい」

 一度、宛がわれた部屋に案内され、荷物を置いてから厨房に向かう。今日は手伝える子がまだ帰ってきていないらしい。ここにいる子ども達には夕食のときに紹介してくれるという。

 シスターは手慣れた様子で野菜の皮を剥いていく。叶もそれくらいならばできるので言われた通りに剥いたり切ったりと隣で手伝う。カフェでのバイトしていたことが意外なところで役に立った。火はガスコンロなんてものはなく、薪を燃やすかまどだった。どうやって火をつけるのかと見ていたら、シスターは薪に手をかざし小さく呟いた。そうすると淡い光が薪を包み、じりじりと燃え出す。ギルドでも見たがやはりこの世界には魔法があるらしい。自分にも使えたら、とほのかな期待を抱き、叶はシスターへと声をかけた。

「今のは魔法ですか?」

「ええ、私には素質がなかったから使えるのは簡単なものだけれど。試してみる?」

「素質……なかったら使えないんですよね」

「大きな魔法は使えないけれど、今みたいな小さな火をつけたり水を注いだりはできるわよ」

「じゃあ……お願いします」

「なら水で試してみましょうか」

 そう言うとシスターは大きな鍋を用意した。

「煮るのにお水が欲しいから、これでやってみましょう。まずは鍋に手をかざして……」

 具体的な呪文はなく、どれだけ強くイメージできるかが大事らしい。シスター曰く言葉にすることでより具体的にイメージ出来るから言葉にするだけで、無詠唱でも問題ないとのことが。小恥ずかしさを感じていた叶としては是非とも無詠唱でいきたい。幸いゲームや小説、漫画などの娯楽のおかげでイメージ力だけはある。

 鍋に手をかざしゆっくりと水が満たされるのを想像する。すると手の平がじんわりと温かくなり不思議な感じに包まれる。そして今まで見たように淡い光が現れ、鍋の中にゆっくりと水が生み出されていく。

「おーすげぇ……」

「あら、素質があるみたいね。一回目からこんな上手く想像できる子は少ないのよ。もしかしたら前はよく魔法を使っていたのかしらね」

 ゲームでは使いまくってたおかげです、なんて言うわけにもいかず叶は乾いた笑いを零した。そうして途中途中にささやかな魔法を使いながら調理を済ませ食堂へと運んでいく。大きな鍋には薄味の野菜スープ、それから黒パン。質素だがそれが定番のメニューだという。

 食堂には十人の子どもたちが集まっていて、年長らしい子が水や皿の準備を指示していた。皆、叶の存在に気づくと静かになり、シスターへと視線を向ける。シスターは黒パンの入った箱を置くと手を叩いてから口を開いた。

「今日から一緒に暮らすことになったカナエ君です。記憶喪失でジノさんが保護して連れて来てくれたの」

「カナエです。よろしく……ギルドには登録してきたんで、そっちも色々教えてくれると助かります」

 そう叶が言えば子どもたちは次々に自分の名前を教えてくれる。最後は指示を取っていた少女が近づいてくる。勝気な瞳が印象的な、十五、六歳ぐらいの少女だ。

「あたしはリゼ。ギルドランクはEよ。同い年くらいだしあなたもでしょ?」

「うん、色々聞くと思う。よろしく」

「ええ、明日からさっそく依頼を受けましょう!いいですよね、シスター」

「はい、怪我はしないように」

 シスターが微笑み、そこで自己紹介は終わる。そうして食事へと移り、片づけをして一日目は終わった。

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