「僕も、人を殺したことがあるんです」
「あなたは人を殺したことがありますか?」
部屋の前で、黒服の男が聞いてきた。
「ありません」
「本当にそう言いきれますか?」
「……ええ」
即答できなかった。
男が口を開く。
「あなたはいい人ですね」
その言葉が心を割いて、涙が溢れた。
「……本当は、殺したかも……」
「どなたをですか?」
抑揚のない声が聞いてくる。
「友達……。もう、何年も前……いじめられてたあの子の話を、ちゃんと聞いてたら、もしかしたら」
あの子はまだ、生きていたかもしれない。
笑っていたかもしれない。
私みたいに、一人暮らしをしていたかもしれない。
「あなたは悪くありませんよ」
どうして、あなたも責めてくれないんだ。
「本当に悪いのは、忘れ去ることです」
そんなことはない。だってあの子を追い詰めた。
あの子の話を聞かなかった。
見て見ぬふりすらしていた。止めなかった。
「ありがとう、覚えていてくれて」
男の背後で、少女が言った。
「もういいよ。やっと見つけたね」
男の頬に、涙が伝った。