後藤紅璃2
前回の続きです
車内に乗り込んでミキさんの安全運転でいつもの見慣れた景色を進んでいく。
……なんて言うか……いつも思うけどやっぱ暇だな、この時間。
退屈しのぎにとアタシはこっそりといつも仕込んでいるゲーム機を取り出して電源を入れる。
こう見えてアタシは相当なゲーマーだと自負している。
ひとりじゃ退屈だと買って貰って始めたゲームだけど、これがまぁハマった。
お陰でボッチに更にエンジンかけて加速させていった。
アクションはもちろん、ほのぼの系のゲームや、冒険ものも今ではお茶の子さいさいだ。
そして今アタシがハマっているのが乙女ゲーム。
最初は「こんなゲーム気恥ずかしくてやってられっか!」って思ってたけど、なぜか先に乙女ゲームにハマっていたテツの猛烈なアピールで推されて始めたのだが……堕ちてしまった。
何しろ3次元には居ない2次元の超絶的にイケメン達のラブアタック。友達がいない寂しさも相まって余計にのめり込むようにハマってしまった。
今じゃ後藤組の中でテツと2人で攻略対象者のイケメン達の話を昏昏と他の舎弟たちに聞かせている。
……だがいつもアイツらうまーく言って逃げてっちまう。
ちゃんと話を聞いてくれるのはミキさんくらい。
でもミキさんは若頭で忙しいから大体テツとスチルのああだこうだを話している。
……ちなみにテツはキャストの声優のファンがキッカケらしいがまあアタシとしては話が合うならどっちでもいい。
そしてアタシは今、猛烈にハマっているタイトルが『愛の結び糸』っていうヤツだ。
タイトルは一件古風な日本のものかと思えるが全然違う。
舞台はクリュデン王国。中世のヨーロッパな感じって思ってくれたらいい。
んで、そこに住んでいるヒロインのクラリス。
クラリスちゃんの家は辛うじて貴族と呼ばれるけれど見るに堪えないひもじい生活を送っている。要は貴族なのに貧乏ってわけ。
もちろん貧乏貴族な訳だから暮らしていくにも働かないといけない。
クラリスちゃんも家の為、毎日いろんな家に働きに出るんだ。
ある日いつもの様にある自身の家より格上の貴族のメイドの仕事を慎ましく働いていた時、クラリスちゃんのの中に眠っていた魔の力が暴走しちまう。
それがキッカケであれよあれよのうちに王国随一の魔法学院『聖紅珠学院』に半強制的に入学させられて、って所でゲームがスタート。
まあこのゲームのがなげぇなげぇ。
正直先週までプロローグやってたからな。
疲れたのなんの。
まあそれからとりあえずメインヒーローである第一皇子を今攻略中。
いやぁ皇子、むっちゃかっこいい。
ただコイツ終始甘々だから途中で休憩挟まねぇと心臓もたねぇ。
落としたら胸きゅん大爆発してくるからさ。
んで、今落とした後通称山あり谷ありストーリーに入ってて攻めるかここは一旦引くところか超際どいだよね。
ここの選択肢間違えたら一気にバッドエンドだからね、慎重に選ばねぇと。
ゲーム画面には昨日の夜進めたところので選択画面が映っている。
この選択画面の『皇子に相談する』か『王に交渉しにいくか』ってところなんだけど無難に行きゃ『相談する』一択なんだけどなぁ……。
悩んでんのはSNSではなかなか予想外なところを突いてくると情報が回っててそれすこーし引っ掛かってる。
……やっぱテツにも状況伺いでもするか。
大抵最初は自分でやって他にも無いかどうかはお互いに暫く時間をかけてやってからとなんとなく決めてはいる。
けどそんなの別にこだわってねぇし。
ちょうどテツも今日は隣にいる事だしな。
「テツあのさ、ここの選択が……「おジョー、すみません」……んぐっ」
画面から顔を上げてテツに話し掛けようとしたらいきなり口を塞がれた。
なんだよ、急に!
「おジョー、頭下げてくだせぇ。……襲撃です」
テツは今にも消えそうな声でそっと囁いた。
……襲撃だって? まさか、ありえねぇだろ。
そう思った瞬間『バンッ』と響き渡った銃声音。
そこからはとてつもなく、早かった。
いきなり車は急停止してドリフトするし、銃弾は容赦なく窓ガラスに向かって放たれる。
そしてそれに対抗するようにミキさん、そしてテツもが銃を打つ。
あっという間の出来事にも関わらず、アタシの目にはその時だけ何故ゆっくりとスローモーションのように見えた。
お互いに決死の撃ち合いの中、一つの銃口がテツに向けられているのに気づいた。
2人とも死角でそれに気づいてない。
そう思い立った瞬間、アタシの体は立ち上がってふたりの前に立ち塞がった。
バンっと耳元近くで大きく耳鳴りの様に響く銃声。
ゴメン、2人とも。
……守ってくれてありがとう。
ミキさんとテツの悲鳴に似た叫び声が最後に耳に届くとゆっくりとそのまま闇に落ちていった……はずだった。
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『ハーイ!紅璃さん、ボンジュール? 』
「……ボンジュールじゃねぇよ!だからひとの思考に入ってくんなって言ってんだろが!!」
こんな金髪にボケられるなんて聞いてねぇぞ。
次回神様とのコントに戻ります