後藤紅璃1
転生前のヒロイン。
思っていたよりちょっと長くなってしまいました。
そもそも今日は朝からおかしかった。
目覚まし時計は必ず3つはセットして寝坊しないようにしてたのに全部電池切れで止まってるし。
目覚まし時計が止まってることに気づかないで寝ていたら耳元でフライパンとおたまで騒音鳴らされて頭ガンガンさせられたし。
「うるせぇー!! 」って飛び起きたら目の前にいたうちの家の中で最強の破壊力のある肉布団の顔がニッコリと微笑んでいた。
……もう朝からお腹いっぱいすぎ。
「おジョー、おはようごいやす! 」
「……おはよう」
着替えてから部屋を出てふぁっとあくびを漏らしながら出会ったヤツらに挨拶をする。
これはうちの家訓の一つでもある。
『挨拶しないもの食うべからず』
……誰が考えたのか知らねぇけどアタシはこれに賛同する。挨拶は1日の大切な活力の一つだ。
これ考えたヤツ、マジ最高。
「紅璃、遅いぞ」
「……すみません」
ダイニングに着きゃ一発目に嫌味をぶっぱなしてきたくそしジジィ。
挨拶なしにそれかよ。家訓サボってんじゃねーよ。
「組長、そろそろよろしいですか? 」
心の中で散々毒づいていたらくそジジイの右腕の若頭でもあるミキさんがいいタイミングで声をかけてくれた。
あっぶね。もう少しでマジで文句言ってやろうかと思ってた。
ミキさんナイス!
「……いいだろう。頂きます」
『いただきやす! 』
「……いただき……マス」
くそジジイの号令の後、みんなで手を合わせて号令をする。
これがうちの朝のルール。
基本、ここには全員揃って食べるのが鉄則だ。
「……おジョー、今日は私が送っていきますね」
「いいって……ワリィし」
「ご遠慮なさらないで、あなたは私達『後藤組』の大切な一人娘なのですから」
……そう。なんの間違いかなんなのか。
うちの家は極道だ。
しかも日本でも5本くらいの指には入るくらいの超有名『後藤組』だ。
しかもアタシはそこの組長であるくそジジイの一人娘。
よって家の者……いや組員たちに蝶よ花よと育てられ……いや、ゴメン。今のはちょっと盛りすぎた。
実際は蝶なんかじゃなくゴリラのように扱われ(日々の訓練と称したタイマン)、花なんか知らねぇぜ話(下ネタやら男女の修羅場)を聞いて見てきたからもう正直自分でも自分は女じゃなくて男に生まれてきたんじゃね? くらいの人生を過ごしてきた。
それでもまあ、やっぱり年頃に成長すればある程度女を扱うように接してはくれっけど元がまあ、さっきのアレなんで。今でも口喧嘩は当たり前。
そのお陰かもうすっかりと口が悪くなっちまった。
元々極道という家柄の手前、友達なんか出来やしなかったけど、学校のグループ学習とかの時でもアタシは至って普通に話してんのに周りを怖がらせて当時のセンコーから理不尽に説教されたこともある。
今ではハブられはしなくてもボッチ一直線だ。
「おジョー? どうされましたか? 」
気がつけばきょとんとした顔でこっちを見ているミキさん。どうやらトリップしすぎて会話の途中で止まっていたようだ。
「……何もねぇよ。それよりミキさん、アンタ仕事忙しいんじゃねぇの? 別に送ってくれなくても「仕事よりもおジョーの方が大事です。私の宝物ですからね」……あ、そう」
一件見た目は優しげな顔をしているミキさん。
決して顔はいいって訳じゃないけど今のちょい強引なセリフは優しい顔と相まって……ちょっとクラっときそうだ。
「ハイハイはーい! なら俺は今日はおジョーの護衛になるッス!」
元気よくいいながら陽気に右手をあげて主張してくるのは舎弟である哲夫。愛称はテツだ。
「ならそれで行きましょう。おジョー、早く準備してください。遅刻しますよ? 」
ミキさんはテツの言葉に頷いてから車の鍵を取りに行った。……どうせ車だから誰よりも早く着くっての。
ミキさんは優しいから口には出さねぇけど正直もう車での通学は本当にもう嫌だ。
だが、家が家だからしなくちゃならねぇってことも分かってる。
分かってはいるけど反発するのは反抗期のお約束だろ?
「……おジョー」
「……分かってるって! 今準備してくる」
テツにも促されてアタシは渋々いつもの様に準備をして車内に乗り込んだ。
……今思えば今日くらい反発したらよかったんだ。
じゃなきゃミキさんは血だらけになんかならなかっただろうし、テツだってボロボロにならずに済んだのに。アタシだってこの世からいなくならずに済んだのに……ゴメンな、2人とも。
ミキさんはイケメンではありませんが極道向きではない優しい顔をしています。
だけど若頭なんで腕は確かです。
哲夫は正直適当に考えました。
たぶん顔は至って普通。