3歳になりました
お待たせいたしました
3歳編はじまります
チャオっす! オラの名前はルージュ=ラピスラズリ=フェルティア!
実はオラ、転生者! 前世の名前は後藤紅璃ってんだ。天下の極道後藤組の一人娘!
んでもって隠れオタク! 死ぬ間際までハマってたのは専ら乙女ゲーム! イケボチョー最高。
ある日の朝の車登校中、なんとうちの組と敵対してるところから不意打ちに攻撃され死亡。
となってるけど本当は展開の神たちの片手間の遊びによってオラは天に召されたらしい。
そこでなんとかそれを隠蔽したい神たちが救済処置として別世界に転生した。
━━━━━というのがそもそもの経緯だ。
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転生し、新たに生き直すことになったアタシ。
そんなアタシの現世での名前はルージュ。
この名前の由来は今世のアタシの母親、ルビーさんが同じく今世の父親であるアランさんにプロポーズされた場所に似せて作ったうちのでっかい庭に咲いている薔薇の色からとったらしい。
そんなアタシは本日祝3歳になりました。
そうです、ハピバです。
春の陽気が少し遠くなり、ちょっと蒸し暑い季節。
そんな温度でも過ごしやすさは変わらない。
アタシは暖かな空気を感じながらそっと湯気がほんのりと立つ紅茶に口をつける。うん、美味い。
「いかがですか、ルージュ様」
「……とってもおいしい、っです!」
アタシがそう答えると仮面をとってつけた真顔の中にほんのり笑を浮かべる黒髪貴公子ことシルカさん。
この人滅多に笑わない……と言うか表情筋が固まっているのか笑ってるやら怒ってる顔をこの家で過ごして3年の間あまり見たことない。
まあ3年の付き合いだからちょっとずつ表情の見分けがついてきたよーに思う……たぶん。
ちなみにシルカさんは公爵家に仕えてる使用人。
つまり、アタシは公爵家のお嬢様。
ちなみにその事実が分かったのが今から約半年前。
当時のアタシは子供だからと馬鹿にせずちゃんと大人の対応をするシルカさんにすっかり懐いていた。
まあ居心地よかったんだよな、この家の奴らはみんな子供だからと甘く対応されて正直辟易していた。
そりゃあ構ってくれるってことは大事にされてんのは分かんだけどやれお菓子を渡すやらやれ所狭しと褒めちぎるとか。
更にはこんな年齢にも関わらずドレスやら宝石やらプレゼントが与えられる。 誕生日でも祝い事もないのに。
……ありえねぇ。
とまあ紅璃時代の庶民感覚が強く居座るアタシにとってそれはそれは毎日が疲れる。
ところがこのシルカさんだけはどうにも様子が違っていた。
ダメなことはダメとはっきり言うし、アタシがお菓子がありすぎて困っていたらさり気なくシルカさんはメイド達に注意してるし。
普通の3歳児ならたぶんメイド達のことを支持し、シルカさんを嫌っていただろう。
だがアタシには女子高生として生きていた前世の記憶がある。
それなりに人としての常識を持っているとアタシ自身自負している。
そうなってくるとこの家はあまりに教育によろしくないし、正しいことを言っているシルカさんの方が信用出来る。
よってアタシはシルカさんに付いて回るようになった。
そうすることで感じたふとした疑問。
シルカさんって何者なんだ?
今のいままで全くっていうほどそれになんの疑問を持っていなかったのも変な話だけど(にぶいって訳では無い……はず)とにかく気になりだしたら聞かずにいらずすぐ様シルカさんに聞いてみた。
「私はこの家の使用人のひとりですよ。 敢えていえば旦那……いえ、公爵様に仕えています。
つまりあなたのお父様に雇われた身です」
その時の衝撃ったら今でも凄い。
こ、こうしゃく~っ!? って声に出さないでいたアタシを誰か褒めてもらっていいくらいだ。
まあ驚きすぎて引き攣りながら「……へ、へぇー」とろくに心がこもってないのが丸わかりな返事をしてしまい、シルカさんが少し眉をぴくりと動かしたのは記憶が新しい。
兎にも角にもアタシは今世でもおジョー様にならないといけないらしい。
「……さま? ……ルージュ様?」
「は、ハイッ!」
はっと声が聞こえて思わず思いっきり返事に力が入った。
やっべ、ちょっと回想しすぎたな。
「お疲れですか?」
「……ああ、大丈夫だ…です」
思わずどもってるせいでいつもの口調で応えそうになるが慌てて言い換える。
一応今世では落としやか路線で生きている……いまの所は。
何しろこの家みんな口調が丁寧だし、多少崩れているアラン父さんでさえ紅璃より丁寧だ。
ということで絶賛猫かぶり中だ。
まあこんな説明はさておき、アタシの否定は嘘だと思ったらしいシルカさん。
やんわりと促されあっという間にアタシは自室へ連れていかれた。
「夜までお時間ありますのでゆっくりなさっていて下さい。
また後程お伺い致します」
シルカさんはバタンとドアを締めると足音が遠ざかっていった。
もう聞こえないことを確認してから「ふぃーっ!」と謎の奇声をあげながら思いっきりベッドへダイブをした。
へへっ! ベッドですぞ、憧れのプリンセスベッド!!
ゲヘヘと今世では一番見られない顔でぐるんぐるんとアタシはベッドの上で動き回る。
アタシがベッドではしゃぐ理由はひとつ。
紅璃の家は最初に話したとおり昔から続く極道だ。
従って住んでいた屋敷も代々受け継がれていた。
つまり、全室和室。
もう超日本の屋敷ですっ!
って感じだから当然ベッドなんて置けず、専ら敷布団を毎晩の如く引いて寝ていた。
だからベッドに対しては否応にも強く憧れていた。
まあアタシの小さな乙女心ってやつだな。
だが今世ではどうだ! 自室に大きなひとりベッド。
ひとりベッドなんて、なんて素敵すぎる響きなんだ……!!
2歳の誕生日、プレゼントは何がいいのか聞かれた時アタシは「自分の部屋が欲しい」とルビー母さんとアラン父さんにおねだりしてよかったと心底思ってる。
その時ベッドも備え付けで与えてもらえてあの時の感動と言ったら、天にも登るような気持ちとはまさにこの事だと思った。
『天にも登るって1回登ったことあるじゃないですか』
「そうそうアタシ1回天に召されてたっけ……ってなんでいるんじゃボケぇぇ!!?」
いきなり天井から逆さを向いたように目の前に現れたのは、もちろんアタシにとって厄介者のG様だった。
てかホントに天井にぶら下がってる……?
まるで天井を地面として立っているかのようだ。
『ルージュさん、猫がもはやヘドロに落ちてますよ』
G様はそんな状態でもいつものようにヘラヘラと笑っていた。
キリがいいのでここで一旦切ります