ぼくアキ○えもん
ぼくはタヌキじゃない
※ステータス画面に「鑑定」の技能を追加しました。
風呂から出た俺は、ふらふらしながらも何とかベッドに辿り着き、横になる。のぼせてしまったから動くのがだるい。そのまま裸で少し熱が冷めるのを待つ。
しばらく経って復活したので、さっきまで着てた服を洗うことにした。大自然の中をまるまる2日くらい着てるから、ちょっと汚い。泥とかしっかり落とさないとな。
風呂の残り湯に突っ込んで、がしゃがしゃと撹拌してしっかり揉み洗いする。洗い終わった服はちゃんと絞った上で、室内に作った物干し竿にかけておいた。外はまだ明るいし太陽もしっかり照ってるんだけど、万が一風とかで飛ばされたら着るものが無くなっちゃうからな。地球から唯一一緒にやって来た大事な服だし、スペアの服も無いからしばらくは部屋干しになりそうだ。
さて、乾かしてる間に外のティラノサウルスも何とかしないとな。そのままにしてたんじゃ、いくら夜はまだ寒いとはいえいずれは腐ってしまう。あの巨体が腐ったら臭いも半端じゃないだろうし、何よりそれにつられてハイエナみたいな野生動物が沢山来たら目も当てられない。それにあんなに美味しい肉、もっと沢山食べたいしな。
というわけで、異世界に定番のアイテムボックスを作ろうと思う。早速俺は始原の力を発動して、アイテムボックスの具体的なイメージを浮かべる。これは難しい。現実に存在しない未知の概念だからちゃんと詳細にイメージしないと。
まず容量は無限、時間はデフォルトで停止、オプションで進行速度の調節可、内部での技能行使、すなわち技能の並行使用が可能、フォルダ分け機能、検索機能、索引機能、記憶補助機能付き、あと思考操作機能と収納出し入れ口サイズ限界無効の機能も欲しいな……。
結果、出来上がったのはファンタジーによくある無限収納スキルだ。某ネコ型ロボットもびっくりの高性能である。もちろん四次元空間にアクセスする例のポケットより使い勝手はいいだろう。何というか、人の想像ってこうも業が深いんだなぁと実感させられる技能だよね。というわけでほい。
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名前:神坂 景 (Kohsaka Akira)
年齢:19歳
性別:女(心は男)
体力:152/152
魔力:∞
知力:145
身体:10
能力:始原の力
技能:火球、身体能力100倍、水生成、拠点製作、布団作成、鑑定、無限収納(NEW)
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実際に使ったわけじゃないけど、ちゃんと習得出来たみたいだ。これも「拠点製作」みたいな感じで使っていく内に慣れていくタイプの技能なんだろう。早速使ってみよう。
俺は一応危険を確認してから外に出る。拠点の目の前にはティラノサウルス改めタイラントリザードの死体が転がっている。特に何か動物に荒らされたような形跡はない。それにしても相変わらず凄い威圧感だ。よくこんなの倒せたな……。
俺はタイラントリザードに手をかざし、収納のイメージをする。するとタイラントリザードのあんなに大きかった体が一瞬で俺の手に吸い込まれて消えていった。
「やった!」
ファンタジーに必要不可欠なアイテムボックス、ゲット!
それにしてもこの無限収納、収納のされ方が視覚のトリックみたいで違和感が半端ない。
「無限収納」を確認してみると、ちゃんとそこにはタイラントリザードが収納されていた。時間経過設定は特に弄ってないので、デフォルトの停止のままだ。取り敢えず取り出せるか確認してみる。手を前に出してタイラントリザードを出したいイメージをすると、目の前の地面に自然と置かれる感じで出てきた。空中に放り出されるとかじゃなくてよかった。
その後、何度か入れたり出したりして感覚を掴んだので、安心して俺は拠点に帰った。ちなみにこの間、ずっと裸だった。死体を無事に収納出来て、森の中で一人喜ぶ裸の若い女。完全にヤバイ奴だ。
さて、タイラントリザードも片付いたし、洗濯物を干してる間は特にすることもないので部屋に戻ってダラダラ過ごすことにしよう。そうだ、暇だしちょうどいい。萩本さんに連絡してみるか。
「もしもし、萩本さん。聞こえますかー?」
萩本さんに伝わるように、強く念じながら空中に語り掛ける。気分的に、より天界の方向の近い(?)空に向かって。
しばらく経ってから、ザザッと通信が繋がったみたいな感じの音とともに、萩本さんの声が聞こえてきた。
「…………はーい、聞こえますよ。神坂様、こんにちは。異世界はいかがですか?」
「いやぁー、途中死にそうになったけどね。案外楽しいですよ。飯も美味かったし」
「危ないと感じた時なんかはプライバシーどころじゃないですから、こっちからもちょくちょく覗かせてもらってたんですけどね。二日目でもう既にそこまで始原の力を使いこなしてるんですね。凄いです」
「でしょ?もうなんとなくこのまま生きていけるような気がしてきましたよ」
「そうですね。最初のステップ、生き残るという目標は多分もう大丈夫でしょう。後は権力とかを色々つけて、地球に帰る手段を探すだけですね!」
「ですねー。でもやっぱりせっかく異世界に来たんだから、この世界も楽しみながら探したいな。必死になって帰る手段を探すだけじゃ気も滅入っちゃうだろうし」
「それがいいと思います。私が言うのもなんですけど、やっぱり神坂様には幸せになって欲しいですから」
「あはは、そりゃどうも。まあゆっくり確実にやっていきますよ。自分のペースでね」
「異世界に行ってもお変わりないようで少し安心しました。もしかしたら慣れない環境で不安定になってるかもって心配してたんですけど」
「まあぶっちゃけ環境は慣れなさすぎですけどね。今まであんな怪物と戦うどころか、命のやり取りだってまともにしたこと無いわけだし。……でも無事、まだ元気に過ごせてますよ」
「本当に色々申し訳ございません……。それなら早めに街に出たほうがいいかもしれないですね。一応その森を出ると、南に10キロくらい行ったところにヴァルツィーレと言う比較的大きめの街があるみたいなので、そこを目指すといいかもしれません」
「本当!そりゃよかった。あとどれだけ進めばいいのかわかんなかったんで助かります」
「神坂様が降り立ったのが森の東のほうだったので、今は中央からやや東寄りを歩いている感じですね。その森、とても大きくて中心から東西南北に100キロくらい広がってるんです。抜けるのにはちょっと時間がかかるかもしれません」
直径200キロか。そりゃ大きいな。富士の樹海よりも大きいじゃんか。首都圏がまるまる入るか入らないかくらいの広さだ。大森林じゃないか。
「凄い大きいんですね」
「ええ。ですから神坂様が始原の力を使いこなしてるのを見てほっとしてます」
「まあ何とかティラノサウルス倒せましたしね」
「この調子で頑張ってくださいね」
「はい。……あ、そうだ萩本さん」
「どうしましたか?」
「当然だとは思うんだけど、この世界ってもちろん日本語通じないですよね?異世界の言葉なんて俺知らないんだけど、これ言語チート的なのってついてこないの?」
「あっ、すみません!そういえばそうでしたね。失念していました。問い合わせてみますね…………えーと、『ただ今翻訳ソフトを絶賛作成中』ということだそうです。じきに出来上がるそうなんで、もうちょっとお待ちいただけますか?」
翻訳ソフトて。なんか随分と現代地球っぽいシステムだなぁ。
「それはまあ天界の業務を管理してる人間に地球出身の者が多いですからね」
そうなんだ。
「一応、異世界出身の人も出向という形で居なくもないんですけど、あんまり数はいません。今回は現在神坂様のいらっしゃる世界出身の者と色々協議しながら翻訳ソフトを急遽作成している途中みたいです。直接の担当じゃないんで詳しくはわからないんですけど、向こうの世界も地球同様に多言語・多文化世界ですから翻訳も一筋縄じゃあいかないんだと思います」
「どこも大変なんすね」
「ええ。今回の言語翻訳ソフトはサービスという形でお渡し致しますのでご安心下さい」
「いいの?」
確かもう一個チートの受取枠があったような。
「それはまたの機会に取っておいて下さい。いつ何時必要になるかわかりませんから」
「じゃあありがたく」
「いえいえ、お気になさらなず」
いいサービスだなぁ〜。
その後、することも無くなったのでごろんとベッドに転がる。異世界の言語か。どんな風なんだろう。漢字風なのかな?それともテンプレなアルファベット式なのかな?テンプレ世界って言ってたしやっぱりアルファベットかな?でも多言語・多文化社会って言ってたし漢字っぽい文字もあるのかな?
なんてことを考えていたら、少し体が冷えてきた。風呂から上がってずっと裸だったから湯冷めしちゃったかもしれない。俺はそばにあった毛布と布団を手繰り寄せて胸までかぶる。直接肌に触れる毛布が温かかった。
風呂上がりにずっと裸でいたら普通は風邪をひきます。