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ジュラシック・アナザーワールド

はじめてのたたかい

 最悪の目覚めだ。ドシンドシンと何かが揺れる音を聞いて目が覚めたと思ったら、どうもこの拠点自体が揺れているらしい。尋常じゃない揺れ具合なんで、気になって恐る恐る覗き窓から外を覗いてみたらそこにいたのはティラノサウルス。意味がわからない。ティラノサウルスって異世界にもいたのかよ。しかも絶滅せずに現役で。冗談キツイぜ。

 そこまで考えて、ふと思い至る。これ出る時どうすんだよ。ティラノサウルス(仮称)は最初は見知らぬ金属光沢を発する謎の物体が気になって攻撃を仕掛けてた(ふざけんな畜生)らしいけど、さっき覗き窓から外を覗いた時にバッチリ目が合っちまったんだよ。そしたらもう完璧ロックオンされたのがわかった。あいつはここから俺を引き摺り出して捕食するまで絶対にここを離れない。対するこちらは食料は何も無い。あるのは堅牢な要塞のみ。

 確かに要塞は破られないと思うよ。その自信はある。いくらティラノサウルスが強いからって、野戦砲ほど攻撃力があるわけでもない。けど要塞が攻めにくいってのは地球の武将なら皆知ってることだ。だから皆、攻める時には兵糧攻め、根比べをするのである。先に飯が尽きたほうが負けだ。そして攻める側は外にいるからいくらでも食料を補給出来る。対する攻められる側ってのは食料の備蓄が尽きたらお終いだ。要するに籠城戦をしなきゃいけない時点でもうだいぶ詰んでるってことだ。

 そして今、俺は思いっきりその状況に直面している。こちらは籠城中。対するティラノサウルスはいつでも飯を補給出来る外にいる。勝ち目が無い。


 唯一可能性があるのは、あいつが腹を減らして俺以外の食料を探しに行ったタイミングでここを抜け出すことだが、それだっていつになるかわからない。ついさっき別の獲物を食べたばっかりとかだったりしたら確実に我慢比べでこっちが敗北する。肉食獣って一度食べたらしばらくは食べなくても平気って言うじゃん?人間、数日食べないだけでかなり体力失うんだぜ。無理だろ。詰んでやがる。

 異世界初日はなんだかんだでトントン拍子に進んだのに、2日目にしてこれかよ。昨日のは何だったんだ。ビギナーズラックかよ。

 畜生ー……、面倒なことになったなぁ……。どうやって抜け出そうか。さっきからずっとドシンドシン煩くてまともに考えもまとまらない。ティラノ君暇かよ。もっと俺以外の簡単に捕獲出来て美味そうな獲物を探せよ。何金属製のドームに体当たりかましてんだよ。頭打って怪我しても知らないぞ。

 まったく、異世界ってやっぱり色々桁違いだな。現代地球の生態系がちゃっちいものに思えてくる。今まで動物園でマウンテンゴリラとか虎みたいな猛獣に目の前で威嚇されたらけっこうびっくりしてたんだけど、もう絶対怖く感じることは無いと思う。全長10メートル級の大トカゲに目の前で威嚇されたらわかる。このサイズはヤバイよ……。動画に撮ってアップしたら一瞬で1億回再生間違いなしだ。きっと広告収入だけで一生食っていける。


 現実逃避をするのはやめよう。真剣にどうやって脱出するか考えるんだ。

 まずティラノサウルスの特徴について考えよう。ティラノサウルスは、大型の肉食恐竜だ。顎が異常に発達していて、噛まれたら一発でアウトだから決して捕まるわけにはいかない。そして意外なことに、走るのが遅い。最近の研究によれば、せいぜいが人間の走る速度くらいで、時速20キロ台後半がやっとだとか。それ以上になると、体重が重たすぎて衝撃で足の骨が砕けてしまうらしい。ここは異世界だから多少は魔力的なモノで強化はされてるだろうけど、それはこっちも同じこと。お互いがお互いに強化されてるとして、しかもこっちは始原の力によってであることを考えれば十分に逃げきる算段はつく。万が一捕まりそうになっても、逃げる余裕を稼ぐだけの力はこっちにもあるだろう。

 なんだ、見た目と迫力にビビったけど、冷静に考えたら意外と勝機もあるじゃんか。大丈夫、いける。たかが大きいだけのトカゲだ。人類の叡智の前にはなんてことない木偶の坊の筈。死亡フラグ?……この作品にそんなのあるのかな。

 おおっとメタ的に過ぎたな。……逃げる算段はついた。後は、出来るだけ相手を弱らせて少しでも逃げられる可能性を上げることに勤しむとしよう。


 さて、異世界のティラノサウルスよ。要塞って飯が無けりゃ役に立たない牢獄に変わり果てるけどな、それを鑑みてもなお()()から皆使うんだよ。じゃあ何で強いか知ってるか?そのちっぽけな爬虫類脳で精一杯考えてみろ。まあわからんだろうけどな。それはな……守りながら中からも攻撃出来るからだよ!!


 俺は魔力(この世界に来てから感じ取れるようになった。始原の力とはまた違う感じ。始原の力がエンジン製造工場だとしたら、技能がエンジン、魔力がガソリンみたいな感じ?まあ、上手く設定出来ないけどそのガソリンみたいなもんだ)を練り上げ、かなり強めの「火球」を生み出す。そして覗き窓から外のティラノサウルス(仮称)に向けて一気に叩き込んだ。火球はティラノサウルスの横っ腹付近に直撃し、奴は盛大にぶっ倒れた。


「ギャアアアアアアアアアア!!!」


 ティラノサウルスが耳をつんざくような悲鳴(?)を上げる。凄い。振動がビリビリと伝わってくる。流石は生態系の頂点だ。悲鳴の迫力もピカイチだ。というか初めて声聞いたな。君、声出せたんだね。爬虫類だから声出せないのかと思ってた。

 転がっていていい的なので、取り敢えずもう一発撃ち込んでおく。


「グギャアアアアアッ!!」


 悲鳴の大きさと切迫感からするに、そこそこのダメージは与えられているらしい。これ、このままワンサイドゲーム出来ないかな……。

 そんなことを考えていたらティラノサウルス君が起き上がってきて、また再度突進を始めた。見ると体の左っ側が焼け焦げている。うわぁ、そりゃ痛いわ。やったの俺だけど。

 さて、ティラノサウルスがドシンドシンと突進するのに夢中になっている隙に俺は反対側から脱出したいと思う。幸い覗き窓はいくつかあるので、反対側の危険の有無もしっかりと把握済みだ。

 俺はこっそりと出入り口を開け、拠点から抜け出す。ティラノ君はまだドシンドシンと突進を続けており、気づいてる様子はない。あいつが馬鹿でよかった。

 そのまま音を立てないように気をつけながらも小走りで、すぐ近くに生えてた木の向こう側、ティラノサウルスから死角になる位置まで移動する。取り敢えず第一関門はクリアだ。かなりドキドキした。こんな体験もう二度としたくない。まあ、この世界にいる限りそんな機会はいくらでもあるんだろうけどな……。やれやれだ。

 幸いまだティラノサウルスはドシンドシンやっている。奴が突進に夢中になっている内に出来るだけ距離を稼がなきゃな。

 俺はまた次の木を目指して走る。次の木に着いたらまた次の木へと、決して見つからないように気をつけながらも段々と走る速度を上げていく。この辺りから身体能力も何倍かに上げておく。

 かなり走った辺りで、一旦止まって奴の様子を見る。もうかなり小さく見える。随分遠くまで逃げてきたな。これなら何とかなりそうだ。

 と思った次の瞬間。ついにティラノ君が、拠点に誰も残っていないのを発見してしまった。気づかれた!いくら馬鹿でも流石にこれは時間の問題だったかな……。

 怒り心頭のティラノ君は、探るように辺りを見渡す。匂いか何かを辿ったんだろう。一直線にこっちに向かって走り出してきた。畜生バレてる!! 何でだよ!しかも思ったより速い!確かに車ほどじゃないけど、地球の人間が走って逃げても追いつかれるくらいには速い。色々強化されてるってのは間違いないみたいだ。

 俺は隠れることをやめて、身体能力を100倍まで一気に上げて全速力で走る。さっきまでのゆっくりめな逃走と違って、ぐんぐん景色が流れていく。ティラノサウルスなんかよりもよっぽど速い。奴を一気に振り切る。


「グルアアア……!」


 小さく咆哮が聴こえる。もうかなり距離を取れたみたいだ。今のは流石に少し疲れた。身体能力100倍とはいえ、少し息が乱れてる。


「ふぅ……。もう大丈夫かな」


 俺はひとまずの安全を確保出来たので、一息着くことにする。まだ完全に逃げ切れたわけじゃないとはいえ、しばらくの間は安全だ。

 さて困ったことになった。さっきはしっかり距離を取ったし、今も相当な距離を逃げてきた。けど、さっきあいつは俺のことを見てないのにも関わらず迷わずこっちに向かって追いかけてきた。あいつは目じゃなくて、おそらく鼻でこっちの匂いを辿って追いかけてきてる。これがどういうことを意味するかというと、この広い森において、どれだけ距離を稼いだところでいつか必ず追いつかれるということだ。史上最凶の名は伊達じゃないらしい。

 ということはだ。いつか必ず追いつかれるということは、いつか必ずあいつと戦わなければいけないってことになる。遅かれ早かれ、あいつに見つかった時点で戦う運命だったのだ。キツイな。まだ異世界2日目なのに。さっきも思ったけど、いくらチートがあるからって2日目で与えられていい試練じゃない。せめてもうちょっと自分の意思で、念入りに準備をした上で自分から攻めさせて欲しかった。こんな偶発的な遭遇戦じゃあ勝てるもんも勝てないって。あっちは生まれながらにして強大な牙と顎を持ってるし、なんなら爪とか尻尾だってそれなりに強力だ。さらに言えば、大きいってのはそれだけで武器になる。対してこっちは爪も牙も無い、丸腰の身軽な人間だ。女になってるから男の時よりもさらに体重は軽い。ティラノサウルスと比べたらそれこそ200倍くらい違うかもしれない。まあ男か女かなんてこの場合じゃ些細な問題かもしれないけど……。

 とにかくだ。人間と恐竜は、戦っていい組み合わせじゃないってことだ。なんで恐竜が地球の支配者だった頃に哺乳類が進化しなかったかなんてはっきりしている。正面から戦ったって食われるからだ。進化して大型化する余地が無かったんだ。そもそも哺乳類は、色んな環境に適応するって意味じゃ恐竜よりは上かもしれないけど、基本的に戦闘力は低めだ。まともに戦ったら間違いなく勝てない。幸いにしてまだこっちには逃げるという選択肢があった……筈なんだけど、今回に限って言えばそれも期待出来ない。だから戦うしかない。さらに言えば文明の利器も期待出来ない。ここは地球じゃないし、始原の力も具体的なイメージが無ければ上手く発動は出来ないから、詳しい構造を知らない爆弾とか重火器みたいな文明の利器を使ってワンサイドゲームをすることは出来ない。こちら側が今使える遠距離攻撃は、覚えたての火球のみ。後は近距離戦しか残されていない。対するあちら側は近距離戦しか無いけど、近距離でなら圧倒的なアドバンテージがある。向こうは何度か攻撃を食らったって死にはしないけど、こっちは一度でも(かす)ったら地獄へまっしぐらだ。絶対に攻撃を食らうわけにはいかない。

 けどな、ティラノサウルスよ。喧嘩ってのは、ただ近くで殴り合うだけじゃないってのを教えてやるよ。武器は無くてもまだ俺には知恵がある。土壇場の、作戦とも言えないようなちゃちな代物かもしれないけどな。その極小サイズの脳味噌をフルにつかって理解してみな。人類の叡智を思い知れ!!

本物の恐竜を目の前で見たら多分怖くて何も考えられないですよね。

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