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王城からの使者②

最近涼しくなってきましたね。おかげで執筆作業がそこそこ捗ります。

「それでは、彼らの身柄は私達が責任を持って預かります。王都に着き次第、正式な裁判と刑が下されるでしょう。それとバルツァー様におかれましては、国王陛下による正式な伯爵への叙爵の儀が行われます。つきましては、裁判と叙爵の儀に出席していただく為バルツァー様とコウサカ様、それとイェルガー様には王城まで来ていただきたいのですが」


 オリヴィエ達簒奪者陣営の身柄を引き渡す約束をした後、グローリアがそう告げる。


「俺とアデルは仕方ないとして、イェルガーも必要か?」


 イェルガーまで居なくなったら、せっかく取り戻した領政も滞ってしまうんじゃないのか。


「と仰られましても、まだ前バルツァー伯が存命当時、バルツァー様……アデル様は幼かったので、当時の事情をよく知るイェルガー様は裁判の重要な参考人なのですが……」


 確かにそれはある。当時から重臣としてバルツァー伯爵家を支えていた(らしい。俺自身がその光景を見ていたわけではないからあくまで伝聞でしか知らない)イェルガーの証言は大きいだろう。もしオリヴィエ達から都合のいい主張が出てきたとしても、それを跳ね除けられる人は必要だ。


「それならば、私の秘書を連れて行くと良いだろう」


 しばらく悩むそぶりを見せていたイェルガーだったが、ふと思い立ったように顔を上げるとそう言った。


「秘書?」


「ええ。まだ若いが、有能な者だ。当時から私の秘書を勤めていて、私レベルの家臣にならないと知ることが出来ないような伯爵家の裏事情にも通じている。そのような立場ゆえにここ数年間は身を潜めていたようだが、今回健全な領政が無事に取り戻されたことで再び私の秘書として政務に就いている。事後処理もいくらかやっているから、裁判の証人としては申し分ない筈だ。私からもそのことを保証する文を書いておこう。……アデル様、貴女達が留守の間は、領のことは私にお任せ下さい」


 それに、とイェルガーは続けた。


彼女・・は私のような初老に差し掛かったような冴えない中年とは違って、まだそこそこ若い女性だ。貴女達のような美しい方々と共に旅をすることを考えると女性同士のほうが何かと都合も良いだろう。間違いが起こる起こらないは別として、男女が一緒に行動するというのはある程度身分が高くなってくるとあまりしないほうが良いものだ」


 なるほど。俺自身がもともと男だったからそのことをすっかり忘れていた。確かにアデルを長時間おっさんと一緒に行動させるのは色々と抵抗があるな。今後も気をつけよう。それにしてもイェルガー、マジ紳士だな。元男として素直に尊敬するよ。


「わかりました。イェルガー様がそこまで仰る方でしたら問題はないでしょう。王城にも私のほうから伝えておきます。裁判の日程は追って連絡が行くかと思いますが、取り調べが終わり次第裁判となりますのでそこまで日数はかからないものかと思われます。ここバルツブルクから王都までは余裕を持って行くとすると20日はかかりますので、10日ほど経ちましたら連絡を待たずに先に王都に出発なさることをおすすめいたします」


 グローリアがイェルガーの提案を呑み、そう伝えてきた。あと、なかなか聞く機会が無くて結局分からずじまいだったこの街の名前、バルツブルクって言うんだな。バルツァー伯爵領の街(ブルク=城。城が転じて街だ。城下町のことだと思ってくれれば良い)だからバルツブルクか。なかなかに安直でいい名前だと思うよ。若干ヴァルツィーレに語感が似てるのがまた面白い。ここバルツァー伯爵領とヴァルツィーレのある領(何領かは知らん)は700キロくらい離れてはいたが、王国全体から見ればそれなりに近いところにあるらしいからな。似たような名前だと位置と名前を覚えるの大変なんじゃないだろうか。この国の学校に通っている学生達も都道府県ならぬ領地やその土地を治める貴族家の名前を覚えるのにさぞ苦労しているに違いない。


「わかりました。色々とご丁寧にありがとうございます。王都でもよろしくお願いします」


 話すことは全て話し終えたので、アデルがグローリアにお礼を言う。グローリアは首を振って返事をした。


「いいえ、これも仕事ですから。お気になさらないで下さい」


 こうして王城からの使者との会談は無事終了したのであった。

 


     ✳︎



 先程、ここバルツブルクから王都までは通常20日ほどかかるとグローリアは言っていた。この世界の技術水準的に、移動手段は基本的に徒歩か馬車、それか馬のどれかだ。幸いにして日本と違って河川はヨーロッパと同じくらいには広いので、船に乗って川下りをするという手段も無くはないが、それだとここバルツブルクからは遠回りになってしまうので、結局陸路のほうが早かったりする。

 それで、馬車はともかく馬に乗って移動するなんて貴族か騎士、それか速馬便くらいしかしないらしい。多くの人は歩きか、乗合馬車に乗って遠距離を移動するみたいだ。馬車も歩きも速度はそんなに変わらない。どちらも1日に進む距離はだいたい40キロ程度だという話だ。自動車なら、何も障害物が無く直線であれば1時間で進める距離である。つまりここから王都まで、だいたい800キロくらいあると予想出来るわけだ。ヴァルツィーレからバルツブルクに来るまでとだいたい同じくらいの距離感だろう。

 そして俺達はこのバルツァー伯爵領にやってくる時、魔改造した魔導自走馬車に乗ってきていた。時速20キロで無限に走り続けられる馬車である。旅の日程も大幅に短縮出来るだろう。単純計算でも5分の1の5日で着く計算だ。30日後に王都に着くには、今日から20日以上後に出発しても余裕で間に合うというわけだ。まあこれも道中何も事件に巻き込まれなければの話なんだが。こういうとなんかフラグみたいだよなぁ。絶対何か起こりそうな気がする。念のため少し早めに出ておくことにしよう。


 さて、そんなことを考えているうちに、グローリアが王都に帰る時間になってしまった。

 今はグローリアの部下の王都の憲兵達と馬車が城門前に整列している。グローリアが王都に帰るのを見送るため、バルツァー伯爵家の兵士も整列していた。

 簒奪者陣営を逃がさないように厳重に王都まで輸送するため、憲兵達の武装は非常にしっかりしている。側面も屋根も全面が木で覆われた箱馬車に乗せられているので、オリヴィエ達罪人達の表情は見えない。


「それでは、一足先に王都でお待ちしております」


 そう言い残して、グローリアは部下を引き連れて城門を出て行った。長い事件だったが、これでようやく一区切りついたような気がした。


 さて、出発するまでの数日間。心ゆくまでゆっくりするとしよう。

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