王城からの使者
本日二度目の投稿です。
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戻ってきた旧家臣と新たな仕官希望者達をある程度ふるいにかけつつも雇用して、健全な領政を行う。アデルがトップに立って舵を取りつつも、雑務や事務などを新しく入ってきた役人達に任せることによって彼らの能力を見る。家臣団の総まとめ役をイェルガーが勤める。俺は街の様子や事務作業などを観ながら、気づいたことや現代日本で参考になるようなことを思いついてはあれこれ横から口出しする。
ここ数日はそんな日が続いていた。これだけ見ると、俺が一番楽で意味の無さそうな仕事をしているように見えるし、まあそれは実際そうなのだが、しかしこうやって元の正しい領政を取り戻せたのはあくまでアデルの努力と俺の協力あってのことなので、遠慮はせずにどんどん影響力を行使させていただく。
図らずも武力、権威、能力などを総合して判断した結果、バルツァー伯爵領内で一番発言力を持っているのは俺ということになってしまった。名目上はトップのアデルは実質俺の言うことにまず反対はしないし、戻ってきた元家臣に恩人である俺を排除するような恩知らずの人間はいない。いたとしてもそういう人間はオリヴィエ陣営にくっついて俺達に滅ぼされたか、再雇用の段階で弾かれているのでどちらにせよ脅威ではない。
もっとも、俺が無能だったり悪人だったりしたら決死の覚悟で提言をしてくる勇気ある忠義者もいるだろう。実際、オリヴィエがその悪人のパターンだった。けどまあ俺が口出ししてることは俺の能力で解決可能だったり、日本での前例があったりなど、そうしたほうが良くなるという確固たる自信があって言っていることだ。その自信は彼らにしてみたら客観性に欠けはするんだろうけど、そこは信じてもらうしかない。その結果ちゃんと実績は出しているし、だからこそ俺の半ば暴走に近い権力行使を止めようとする人間はいなかった。それが一番伯爵領の再興に近いと皆がわかっているからな。
バルツァー伯爵家家臣団は忠義に厚い連中が多い。家臣団に限らず、一般募集から仕官してきた役人も皆そうだ。一度は実質的に滅んでしまったバルツァー家。もう二度と滅ぼさせはしないと、家臣達はやる気と忠誠心に燃えている。これだけ活気のある者が多い領なら、これからの発展も期待できるというものだ。
俺もそんな彼らのやる気を削ぐわけにはいかない。だからずっと口出しする気も無かった。何より、俺には元の世界に帰るという目標がある。それもこの世界でアデルという最愛の伴侶を得た以上、アデルも一緒か、地球とこの世界を自由に行き来できるような手段での帰還だ。その目的のためにも影響力は確保したいとはいえ、それを濫用するつもりは毛頭無い。
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そんなある日、領主の館に王城からの使者がやって来た。ちょうど領内の治安もある程度回復し、領民の経済活動が活発になり始めた頃だった。
やって来た使者を応接室へと案内し、俺とアデル、そしてイェルガーを始めとした数人の家臣が集まって会談を行うことになった。
「はじめまして。王城からやって参りました、王国法務省内政課課長代理、グローリア・フォン・ヘンネフェルトと申します。この度の災難、心よりお見舞い申し上げます」
王城からの使者は「出来る!」という印象を抱かせるようなキリッとした雰囲気の若い美女だった。スタイル抜群、容姿端麗、それでいて優秀そうなオーラが漂っている。いわゆる完璧美女と表現するのが妥当といった感じの人だ。これだけ若くて法務省の課長代理にまで出世しているんだから、さぞ優秀なんだろう。頼れる人材はいくらでも歓迎する。
「ようこそおいで下さいました。バルツァー伯爵家当主のアーデルハイト・オフィーリア・フォン・バルツァーです。この度は急な報せとなってしまい申し訳ありませんでした」
代表としてアデルがグローリアに挨拶をする。家臣達も皆軽く頭を下げて挨拶をしていた。チラリと一瞬目が合ったような気がしたので、俺も一応会釈はしておく。
続けてグローリアが返す。
「いいえ、お気になさらないで下さい。このような重大な事態は王国としても見過ごすことは出来ません。もしこれが北部独立騒動にまで発展していたら、諸侯や諸国に示しがつかなくなるところでした。それを未然に防いでいただき、こちらとしても感謝こそすれ、責めたてる理由はございません」
「それならば良いのですが」
「ただ、誠に申し訳にくいのですが、もともとは前バルツァー伯爵の暗殺疑惑に始まる一連の騒動が原因ですので、未然に察知することが出来ずに簒奪者の台頭を許してしまったという責任問題はどうしても生じてしまいます。自力で解決しているので蟄居改易などの処分は取り消しでお咎め無しとなりますが、褒賞のほうはおそらく過去の判例を参考にしても望み薄かと思われます。災難明けで何か明るい報せを希求のこととは思いますが、どうかそのあたりはご理解いただきたくございます」
やはり予想通りだったか。王城としては褒賞を与えたくとも、それでは周りに示しがつかないからな。バルツァー伯爵家としても、自分のところの問題を自分で片付けたからと言って、それで褒賞を貰うというのは外聞が悪いだろう。有り体に言ってしまえば、他貴族家から「厚かましい」と思われても仕方がないわけだ。だからここはこの判断が一番望ましいと言えるだろう。
それに、普通だったらここで何としてでも褒賞なり何なりを確保して少しでも領内にリソースを注ぎ込みたいんだろうが、幸いにして今回は俺がいるからな。それらを当てにする必要が無いのだ。やはり持つべきはチートである。チート万歳!
そしてそれらのことくらい、ここにいる皆はわかっていた。ここでゴネるような奴は家臣にはいない。皆、状況判断力と冷静に考える力をしっかりと持っていた。
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その後、会議はつつがなく終了し、視察官も兼ねるグローリアに領内を案内することになった。
「活気が凄いですね」
城下町を視察しながらグローリアがそう呟く。オリヴィエ達を捕らえて領政を取り戻してから既に半月ほど経っているが、半月しか経っていない割には城下町は随分と活気に満ち溢れていた。
街のあちらこちらで寂れた家屋や商店の建て替え工事が行われており、たくさんの工事労働者達が汗水流して働いている。健全な領政が戻った噂を早速聞きつけたのか、利に聡い商人達のキャラバンも列を成して街にやって来ている。売る物が何も無く、現代日本のシャッター街のように閉まっていた様々な商店は、物流が復活したことで今までの遅れを取り戻すかのように商品を売り出し、また多くの客がそれらを買っていた。そんな人々の表情は皆明るかった。
つい半月前まではこれらの光景が見られなかったというのが嘘みたいだ。そしてこのような活気溢れる光景は街の外にも広がっている。
商店が立ち並んでいるというわけではないが、農村は農村で、また人々の笑顔が目立っていた。重すぎる税が廃止され、適切な負担になった。農村を監視し、頻繁に理不尽な要求をしてきた徴税官が捕らえられ、代わりに正式な役人が派遣されてきた。徴税官の機嫌をとって仮初めの安寧を得るための賄賂を支払わなくてもよくなった。
それだけで随分と農村の生活は楽になったようだ。更に言えば、生活に余裕の無い人を対象とした一時的な復興措置としての無利子での領内貨幣の貸付によって、多くの人がその日の食事の心配をしなくてもよくなった。日々の負担が減ることで人の生産性は上がる。今年の秋はきっと豊作だろう。
「これは凄いですね。本当に報告書に記載されていたような悲惨な事実はあったのでしょうか……」
グローリアは若干自分の目を疑っているようだった。報告書に書いてあったことは嘘じゃないよ!
「いえ、わかってはいるのです。報告書に嘘を書くのは改易、御家取り潰しすらあり得る重罪ですから、嘘を書くわけがないのはわかっているのです。……あまりにも早い復興に、驚きを隠せないだけでございます……。何らかの災難の後にこんなにも早く復興を成し遂げた例は過去にも存在しませんから……。これだから前例主義はよくありませんね。反省が必要です」
あまりの出来事に、有能なキャリアウーマンのグローリアは少しショックを受けていた。ゴメンね非常識で。




