表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
46/55

就職氷河期、温暖化

バルツァー伯爵領にも雇用の波が来た!

 城門前には沢山の人が整列していた。その数は百を下らない。これが全部、かつてはバルツァー伯爵家に仕えていた人達だってんなら、一体オリヴィエの奴はどれだけの人間を路頭に迷わせたんだ。このまま簒奪者陣営が統治し続けていたらと思うと寒気すら感じる。

 しかもこの追放されてしまった人達。伯爵家に使えるくらいだから、皆そこそこの高給取りだったに違いない。少なくとも現代日本でいう地方公務員程度にはエリート階級だった筈なんだ。地方公務員がほぼ全員クビになるだなんて、バルツァー伯爵領が被る経済的打撃はリーマン・ブラザーズもびっくりのシロモノになるに違いない。曲がりなりにも貨幣経済の浸透しているこの世界……というかこの国にとって、公務員全辞職の与えるダメージはさぞ大きかろう。それでも封建制度が現役で人の移動がそこまで活発ではなく、物流も近代国家ほど地盤がしっかりしているわけではないからこそ、まだ国家が察知出来ずに放置される範囲内で収まっていたんだろう。その分、影響がバルツァー伯爵領内だけに留まって、領民の生活に皺寄せが行っているので素直に喜べないのが難しいところではあるのだが。

 職が無いというのは恐ろしい。働こうという意思があっても働く場所が無いのだから、どうやったって金が稼げるわけがない。そんな生活を数年間強いられ続けてきた領民達は疲弊しきっていた。それこそ反乱すら出来ないほどにだ。しかし今回俺達がオリヴィエ達簒奪者陣営を倒して政権を奪還したことで、棚ぼた的に元の生活が戻ってくるという福音が領民達の間に転がり込んできたのだ。

 人は自分で対処出来る範囲を超えた出来事に出くわすと、もう祈るくらいしかすることが無い。そんな中自分達の祈りを叶えてくれた存在は、さながら救世主のように見えるわけで…………。


「「「アーデルハイト様万歳! 戦女神様万歳!」」」


 当然と言えば当然なのだが、外がそりゃもう凄いことになっていた。今までの無気力どこ行った。そんな元気があったなら革命くらい出来たんじゃないのか、というくらいの騒ぎようである。

 ちなみに戦女神とは俺のことらしい。アデルと俺たった二人でここまでやってきて領政を奪還したというのは、傍から見れば神の奇跡にも等しいんだろう。もともとアデルにはそんな力は無かったので、必然的にアデルを勝利に導いて間接的に領民を救ったのは俺、という流れになっているようだ。

 まあ嘘ではない。むしろ本当のことしか噂されていない。けど、だからこそ困るんだよな。後々の国への影響力とかを考えれば、ここで名前を売っておくのはむしろ正しい選択ではあったんだが…………。

 …………こんな状態で俺やアデルが直々に再スカウトの面接なんかしようものなら収集がつかなくなるのは目に見えている。だから今、俺達は裏に引っ込んでおり、面接はイェルガーに任せていた。

 かつてのおもだった同僚の顔は皆覚えてるというイェルガー。流石は伯爵家重臣と言うべきか、なかなかに有能な男だった。そんな彼にかかればこの程度の人の山も物の数ではないに違いない(押し付け&現実逃避)。もっとも、面接すればするほど家臣は増えていくんだから、負担も加速度的に減るだろう。この街は思ったより早く復興するかもしれない。


 さて、どうしてこんなに沢山の家臣を一気に呼び戻しても財政がパンクしないのか。それには三つ、訳がある。

 まず一つは、オリヴィエ達簒奪者陣営の残した遺産……というと聞こえが良いが、非合法な重税によって民から搾り取った財産が莫大な量、残っていたからだ。当然、これらはすぐにでも民に還元しなければならないものだが、だからといって「ええじゃないか」よろしくそのまま空から金をバラ撒くというわけにもいかない(ええじゃないか現象で実際に降ったのは金ではなくて御札なので勘違いしないように。わかりにくい? 別にええじゃないか!)。だからこそ、より早くまともな領政を取り戻すために使わせてもらうことにした。

 それにしても金額が半端ではない。こんな金何に使うんだよ、国でも作るのか?と思ったが、オリヴィエ統治時代に行われていた取引記録を見る限り、大規模な武器取引を検討したような跡が見受けられたので、この説はあながち間違いというわけでもないかもしれない。腐っても鯛、腐敗しても伯爵だ。この金額を全額軍事費に充てたらさぞ強い軍団が編成出来るだろう。それこそ国をまるごと支配することは叶わずとも、周辺地域を抱き込んで独立することが出来るくらいには……。

 後に、屋敷中を点検している最中にそれっぽい企画書みたいなのも出てきたので、その線は確定した。これは王国に報告一直線コースだな。イェルガーの力添えもあって、一連のゴタゴタの詳細な報告はしっかりと王家にまで伝達出来た。王城からの返事が届くのも時間の問題だろう。ここまでやると何となくテンプレ的に次は王都へ召還されそうな気もするけど今は気にしない。いきなり謁見とか言われるかもしれないけど、気にしないったら気にしないのだ。

 閑話休題それはさておき。次に二つ目の理由。先程王家に詳細な報告を上げたと言ったが、それはつまり悪辣な簒奪者から領民を救った上に国家の危機をも救ったという功績が認められる公算が大きいということだ。もちろん簒奪者なんぞの台頭を許したという責任問題もあるが、それはあくまで先代の責任であってアデルの責任ではない。同時まだ子どもだったアデルに(今でも半分子どもみたいなもんだけど)責任能力は問えないだろう。もっとも、伯爵家を相続する関係で親父さんの責任も相続してしまうのは避けられないらしいんだが、それも他者の力を借りずに(ここで言う他者というのは他貴族家や王家などのこと。だから俺の存在は含まれない)自力で解決したのでチャラ。自己解決能力があると看做され、無罪放免扱いになるらしい。だから、そんな国の危機を救ってくれたバルツァー伯爵家には、困ってたら国からお金を融資してあげるよ、と。まあそういうことだ。国家に恩を売っておいて困ることは何も無い。

 最後の理由。これは簡単だ。俺がいる。それだけの話だ。ぶっちゃけ俺がいれば素材だろうが食事だろうがいくらでも現物支給出来る。王国貨幣の偽造は犯罪なのでやらないけど、領内のみで一時的に通じる暫定貨幣みたいなものを配れば、それを貨幣としてしばらく使うことも出来る。もちろん俺が色々ムズカシイ業を駆使して作るので偽造することは出来ない。ぶっちゃけ本家王国貨幣より価値あるんじゃないの、と自画自賛してる。まあ信用度は日本銀行券と同等かそれ以上という風に想像してもらえればいいと思う。


 そんなこんなで、俺とアデルのバルツァー伯爵領の再興は思ったよりすんなりと片がつきそうだった。

はたらけ

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ