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当主の帰還

 御家簒奪事件の黒幕にてアデルの継母、オリヴィエとその取り巻き複数名を捕えた俺達は、城の隣にある座敷牢……奇しくも昔、アデルが幽閉されていた建物に彼らを閉じ込めておいた。

 数年間もあそこにいた、その道のプロ(?)のアデル曰く、あの建物は完全な密室で、一箇所しか出入口が無いらしい。その出入口も何重もの鍵と扉で封鎖されているから、凡そ通常の人間には脱出は不可能みたいだ。ご丁寧に魔力霧散効果のある仕掛けも施されているらしく、あの建物の中では魔法は使えないらしい。つまりはどんなに魔法が得意でも、物理的にあの建物を破壊して外に出られるだけの腕力が無ければあそこからは脱出出来ない仕組みになっているそうだ。恐ろしく厳重な牢屋だな。まるでファンタジーに出てくる超厳重な魔法監獄みたいだ。

 ……まあ俺は脱出出来るけどな。魔法が使えなくても壁を殴れば穴くらい開けられる。敵さんもこの圧倒的な馬鹿力は予想だにしていないだろう。それなりに魔物や人を倒してきたわけだし、俺の基礎ステータスも最初に比べてまあまあ上昇してる。同じ「身体能力100倍」でも、その力はこっちの世界にやって来た直後とはだいぶ違う筈だ。

 ちなみに場内にいた下っ端らしきチンピラ兵士達は、全員城の地下牢のほうに閉じ込めている。流石に監獄棟のほうには全員は入りきらないからな。


「さてと……、これで全部かな?」


 机の上には大量の紙と冊子が綺麗に整理されて置かれている。これらは全部、不正行為の証拠だ。余すところなく国王に報告させてもらう。もちろん、万が一にも途中で揉み消されたり失くしたりしないように複製してある。それも俺の「無限収納」の中に入れてあるので、俺が死なない限りまず失われる心配はない。万全の構えだ。


「そうですね。色々と見て回りましたが、これで全部みたいです」


 アデルが机の脇に立ってそう言う。紙束はざっと数千枚から数万枚はあるだろう。一朝一夕に確認出来るものでもない。ここ数年分の記録を全て、ダミーと本物両方引っ張り出してきたんだから当然だな。

 俺は一冊の名簿を残して、他を全て「無限収納」に仕舞う。


「さてと、じゃあ早速やるか」


「はい。行きましょう」


 俺とアデルは名簿と立て札を持って廊下に出る。誰もいない城は若干不気味で、あまり一人で歩きたい雰囲気ではなかった。

 けれどまあ、今は横にアデルがいる。だから別に怖くはない。仮に幽霊が出たとしても今の俺なら問題なく倒せるとは思うが、やっぱり心の支えってのは大事だ。人がいるだけで全く怖さって変わってくるもんな。不思議だ。



     ✳︎



「聞け! 皆の者! たった今、ここにいるアーデルハイト・オフィーリア・フォン・バルツァーが簒奪者を捕縛した! この圧政からようやく解放される時が来たのだ! この街に簒奪者が台頭するより以前に城仕えをしていた者がいたら、こちらまで来てほしい! 昔のように幸せな領政を取り戻そう! もう敵はいない! バルツァーの領主が帰ってきたのだ!」


 風魔法を行使しつつ、街全体に響き渡る音量で城のバルコニーから俺が勝利宣言を行う。一瞬、何が起きたのか街の住人達は理解が追いつかないといった風に呆けていたが、やがて何人かが少しずつ宣言の意味を咀嚼し終えると、歓声は一気に街全体に伝播した。


 ーーーワアアアアッ!!ーーー


 指笛を吹く音や、泣いて喜ぶ声が聴こえる。それほどまでに今までの暮らしが辛かったのだろう。先程までどんよりと曇っていた街の空気が、一気に晴れ上がったような気がした。


「やったな、アデル」


 返事は無かった。見れば、アデルは声を出さずに大泣きしていた。


「……んぐっ、ぐすっ」


 泣いてはいるが、視線はしっかりと街を、喜ぶ人々を見据えていた。アデルはいい女だ。人としても尊敬出来る。きっといい領主になるだろう。

 俺はアデルの頭を抱き寄せて、激しく撫でるのだった。


「ありがとうっ……ございました…………!」


 アデルは今までで見た中で、一番良い笑顔をしていた。本当、いい女だ。



     ✳︎



「私はハインリヒ・イェルガー。以前、この城で政務職を務めておりました。こちらがその時の身分証の徽章でございます。先代のバルツァー伯爵には大変お世話になりました。御家簒奪騒動の際にはお力になれず大変歯痒い思いをしましたが、これからは御息女であられるアーデルハイト様にも、是非ご恩をお返しさせていただきたい」


 城の入り口近くの待合室。そこで俺とアデルは壮年の男と机を挟んで対話していた。


「イェルガー殿、お久しぶりですね。朧げながら、貴方のことを覚えております。以前は父の補佐をしていただき、大変お世話になりました。これからもまた是非、力になってください」


 アデルは笑顔を浮かべながらイェルガーと名乗った男と話していた。

 今回の御家簒奪騒動の際、バルツァー伯爵寄りだった名だたる家臣達は皆、簒奪者一派によって城を追われたらしい。まともな人間が誰一人いないと思ったら、そのような裏があったようだ。兵士もまともな考えと忠誠心を持った者はことごとく排除され、職を追われたようだ。足りなくなった兵士は街や他の領地からチンピラを好き勝手に振る舞うことを餌に掻き集めて、勢力を拡大していったらしい。

 いくらならず者の集まりだろうが、数が集まればそれは巨大な力となる。簒奪者たるオリヴィエに忠誠を誓う者はおそらくカルロス以外にはいなかったのだろうが、それでも組織としてはまあ伯爵家に相応しい程度には成長していたようだ。

 そして城を追われた者達のリストが残っていたので、現在はそのリストーーさっき持ち出した冊子を見て記録と照合しながら戻ってきてくれた家臣達を城に迎え入れている最中である。


「そして、貴女が今回の功労者であるとか。お名前をお訊きしてもよろしいだろうか」


 イェルガーが俺に向かって訊いてくる。その目は、深い感謝と敬意に満ちているーーような気がした。まあ俺の希望的観測だけどな。


「神坂景だ。確かに今回の件では力は貸したが、実際に敵を倒して家を取り戻したのはアデル自身だぞ」


「いや、それでも貴女の協力が無ければバルツァー伯爵家が再興することは無かっただろう。元家臣として、そして新しく家臣になった者として、心から感謝したい」


「まあ、これからよろしく頼むよ」


「こちらこそ」


 俺とイェルガーは握手を交わす。彼はなかなかに信頼出来そうな男だ。不幸な運命に見舞われたアデルだったが、これからの未来は明るいだろう。何より、勝利の女神(このおれ)がついてるんだからな!

ハッピーエンドですね。

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