決着
最近、物凄い現役作家の方やゲームの元シナリオライターの方とお会いすることが出来て、色々アドバイスとか貰えたので大変やる気に満ちています。創作意欲が今! やばいです!!
冷たい、感情を感じさせない声。凍えるほどの美しい、高貴な服装の女。
こいつが事件の黒幕、……アデルの継母だ。
「あら、アデル。あなた生きていたのね。何しに来たのかしら」
継母が悪びれもせず、アデルに向かってそう言う。よくもまあ白々と言えるもんだ。
「私は家を取り戻しに来ました。もうあなたの好き勝手にはさせません」
トラウマになっていてもおかしくないだろうに、アデルは毅然と言い返す。強い子だな。俺よりもよっぽど強い。ああ、ほんと好き……。
「残念だけど、それは無理な相談ね。諦めてもらうしかないわ」
アデルの台詞なんてまるで歯牙にも掛けていないかのような表情で継母が言う。その余裕、いつまでかましてられるか見ものだな。
「いいえ、諦めることなんて出来ません。私はもう負けないと決めたのです。……それに、力を与えてくださった景様に良いところを見せると決めたんです。もう昔の私ではありません」
アデルは言い切った。長年自分を押さえつけてきた張本人を相手に啖呵を切るその姿は、とても凛々しくて美しかった。
「アデル、手助けはいるか?」
そんなものは必要ないとは思うが、一応訊いてみる。
「いいえ、景様。私一人でケリをつけたいと思います。お気遣い嬉しいです」
「わかった。頑張れ」
そう言って俺は引き下がる。今のはちょっと野暮だったかもしれないな。これまでは俺のターン。ここからはアデルのターンってことだ。
「オリヴィエ様!」
そこでようやく気絶していたカルロスが起き上がってきた。食らったダメージが抜けたわけではないので十分な戦闘が出来る感じではないが、気力で起き上がってきた感じだ。
「あら、カルロス。あなたそんなところにいたの。気がつかなかったわ。……それで、一体何をしているのかしら。さっさと自分の役目を果たしなさい」
継母ーーオリヴィエは、床に転がってるカルロスを一瞥してそう言う。オリヴィエはそれっきり興味を失ったかのように、気にもしていない様子でアデルに向き直った。
「……は、はっ!」
それに対するカルロスの反応は健気なものだ。カルロスの言っていた恩人ってのはこいつのことなのかもしれないな。
それはそうと、オリヴィエに言われてカルロスが起き上がろうとしてきたので俺はカルロスを上から押さえつける。
「邪魔者は出しゃばんないようにしなきゃな」
「ぐっ、貴様、離せ! 俺はオリヴィエ様のために戦かわねばならないんだ!」
しかし、カルロスは尚も起き上がろうと必死にもがく。何故そこまで本気になるんだろう。気になったので訊いてみる。
「なあ、あいつが恩人なのはわかったけどさ。お前自身は悪い事をしてるっていう自覚はないのか?」
「…………うるさい、黙れ」
「お家簒奪だぞ? 王国貴族法に触れる重罪なんだぞ?」
「そんなことはわかっている!」
「……自覚してるんならなんで悪事に加担するんだよ。お前、見た感じ悪人でもないだろ。良心の呵責とかないのか?」
そこでカルロスはしばらく黙った後、ぽつりと呟いた。
「…………間違ったことをしているということくらい、わかっている。しかし、それでも俺はオリヴィエ様のために戦わなければならないのだ」
カルロスは俯いた姿勢のまま、声を震わせて答える。
……なるほどな。ちゃんとした価値判断の基準自体は持っているみたいだ。けどまあ、ある種の盲信者とも言えるこいつはどうやっても考え方を変えないだろう。生半可な義理や酔狂でやっているわけではなさそうだ。
……なら仕方ない。
「美しい忠誠心を見せてもらってありがたいんだけど、今ちょっとそれどころじゃないからもっかい寝ててくれ」
「なっ、は!? いや、少し待っぐぇっ!」
カルロスは白目を剥いて再び地に伏した。惜しいキャラだよなぁ。敵が俺じゃなかったら相当決まってただろうに。映画化……この世界だと吟遊詩人のサーガ化かな、不可避だぜ。
さて、邪魔者同士お互いに静かになったところで、ちょうど主演達のほうも戦いの火蓋が切って落とされるようだ。アデルの初陣にしてトラウマ決別戦。見守るとしよう。
「アデル、私はあなたの都合を訊いているわけではないのよ。命が惜しいなら大人しく牢に戻ることね」
「そうするわけにはいきません。自由を奪われるということは、相手に生殺与奪の権限を与えるのと同じです。もう昔の私ではありません。邪魔する者は景様以外誰であっても許しません!」
「あなた、自分の立場をわきまえなさい。この私に向かってそのような口を利いて許されると思っているのかし「黙りなさいっ!!」」
一瞬、時が止まったかと思った。アデル、迫力すげぇ……。
「たかが入り嫁、それも第二夫人、挙げ句の果てには簒奪者の分際でバルツァー伯爵家嫡流にして現当主であるこの私に向かって頭が高いのです!」
「っ…………」
あまりの迫力に、兵士達はおろか、余裕綽々だったオリヴィエすらも少したじろいでいる。やっぱり簒奪者なんかとは風格が違うよな。生まれながらにして貴族の風格を持つ人間ってのはやっぱりいるんだろう。例えどんな育ち方をしたところで、その本性までは失われたりはしないのだ。
「……大人しく降れば、王国法の定める正当な手続きを経て処分を下します。抵抗すれば、当主権限を行使してこの場で処分します。どちらが良いか、選ぶだけの自由は与えましょう」
もっとも、例え降伏したところで相手は簒奪者だから、良くて終身刑、悪ければ処刑の線も十分あり得るんだけどな。
対するオリヴィエの反応は、やはりというか予想通りのものだった。
「……自由を与えるですって? アデルのくせに生意気ね。やっておしまいなさい」
その合図を皮切りに、後ろに控えていた兵士達が一気にアデルに襲い掛かる。どうやら奴らは正当な後継者のアデルより、簒奪者のオリヴィエを選んだようだ。なら当然、手加減なんて要らないよな。主人に反旗を翻すような兵士など、情けをかける必要も無ければ義理も無い。
そう思っていたら、案の定アデルも手加減はしない方針でいくと決めたみたいだ。流石アデル、わかってるね。
「ウォーターボール」
次の瞬間、空中にバランスボール大の水球が十数個浮かび上がる。俺との魔力パスを繋いだ時に、散々実験と称して練習しまくったアデルお得意の魔法だ。ウォーターボールにしてはやたら凶悪なそれらが一気に兵士達に向かって撃ち出された。
「ぐあっ!」
「むぐぉっ!」
「んぐあッ!」
皆顔や胴体に結構な質量を持つ水球が直撃して、吹っ飛ばされている。水だからと思って嘗めてはいけない。質量と運動エネルギーを持った水というのは立派な凶器なのだ。それに使い方によっては窒息効果も狙えるからな。どんなに強い生き物でも空気が無かったら生きてはいけない(水棲動物を除く。だから水タイプの魔物相手には使えない手段だな。効果はいまひとつのようだ)。火事にもならないし、イメージの割には意外と万能の攻撃手段だったりする。
そんな、既に魔術師としては恐らく一流の領域に達しているであろうアデルの攻撃を食らい、次々と兵士達は倒れていく。確かに無尽蔵に等しい魔力を与えたのは俺だが、ここまで緻密な魔力制御や複数同時攻撃を可能にしたのはアデルの努力だ。だから俺はアデルを素直に凄いと思うし、そんな凄い人を自分のモノに出来たことはとても幸せなことだ。自らのトラウマと戦う姿は、見ていて誇らしい。
遂には戦える兵士もいなくなり、立っているのは俺とアデル、そしてオリヴィエのみとなった。
「くっ……。アデルの分際でこの私を……っ!」
オリヴィエはギリギリと歯を食いしばってアデルを睨みつける。
「……大人しく受け入れなさい。あなたはそれだけのことをしたんですよ」
「……………………カルロス!!!」
またか。オリヴィエも往生際が悪いな。こいつは眠っているというのに……。
そう思った矢先のことだ。
俺が足蹴にして放置していたカルロスが、急に立ち上がってアデルへと突進していった。
「なっ!」
フラグってあるもんだな。完全に気絶したとばかり思っていたからつい取り逃がしてしまった。
というか、これは拙い。俺相手ならともかく、これが初陣となるアデルにとってカルロスはまだ厳しい相手だ。
咄嗟のことで、体が反応しない。駄目だ、間に合わない。
「アデル!!!」
「大丈夫です!」
そう言ってアデルがバレーボール大の先程より小さな水球を一瞬で撃ち出した。猛烈な速度で射出された水球は、それ単体ではカルロス相手にダメージを与えるには足りないが、突進を妨害するには十分な威力だった。
「ぐっ……」
そしてカルロスが水球の直撃を食らいバランスを崩している間に、アデルはまた水球を、今度はバランスボールより一回り大きいサイズのものを生み出して、それを撃ち出した。
「倒れなさい!」
「ぐあっっ!!」
いくら強いとはいえ、兵士よりも大きめの水球を食らったカルロスは流石に吹っ飛ばされた。壁に叩きつけられたカルロスは、今度こそ白目を剥いて崩れ落ちる。
「…………」
「………………」
「………………」
一瞬、静寂が支配する。
なんてことだ。あの出会った時は力無い囚われの令嬢だったアデルが、ついに強敵を自分の力だけで倒した。
そのことに少し、いやかなり感動してしまって、まだ決着がついていないのに俺はつい大声でアデルを呼んでしまった。
「アデル!」
「景様……」
「凄い! 凄いよアデル!」
俺はアデルのもとに駆け寄って抱き締める。
「あっ、景様!」
いきなり抱き付かれたアデルは顔を赤く染めて恥ずかしがっている。愛いやつめ。
「ごめんな。油断してそっちに敵を向かわせちまった」
「お気になさらないで下さい。そのお陰で景様に良い所をお見せすることが出来たのですから」
「まったく、敵わないな」
さて、これで倒すべき障害は皆倒した。残るは黒幕だけだ。
俺とアデルは呆然と佇むオリヴィエへと向き直る。
「あんたが見下していたアデルはここまで成長したぞ」
「…………」
「あなたは私の家を乗っ取っただけではなく、罪なき領民を大いに苦しめた。その罪は重いです。大人しく捕まりなさい」
「…………」
絶望して立ち尽くしたオリヴィエの反応は薄い。結局大した抵抗を受けることもなく、俺達はオリヴィエを拘束することが出来た。
こうしてアデルの御家騒動は、俺の力添えと他ならぬアデル自身の努力によってあっさりと幕を閉じたのだった。
ブクマよろしくね。




