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まともな敵

戦闘描写って難しいです。

「うん? なんだお前らは。この屋敷の者か? ここは下働きの下女が来ていい場所じゃないぞ。さっさと持ち場に戻れ」


 警備の配置的におそらく簒奪者本人がいるであろう執務室の部屋番が、いきなり姿を表した俺達にそう言う。侵入者だと思ってないからなのか、こいつの対応は意外とまともだった。

 というか、今までの兵士達が酷すぎて、普通の対応をしただけのこいつが素晴らしく真面目に見えてしまう。まったく、おかしな話だ。


「悪いけど、その中にいる人に用事があるんだ。入れてくれるか」


 まあダメ元ではあるが、一応訊いてみる。


「うちの当主に? 特に誰かが訪ねてくるなんて予定は聞いてないが……。何の用だ? 内容によっては俺が取り次いでもいい」


「いや、直接会って伝えたい。心配ならあんたも部屋の中に入ってくればいい」


「誰も通すなと言われてるんだがな」


「あんたがいれば悪さしようと思っても出来ないだろ?」


「確かにその通りだ」


 まあ、だからといって中に入れる理由にはならないんだけどな。話してる限りこいつはそこそこまともに感じるし、多少の融通は利くかなと思ったのだ。何事もなく通してくれるならそれが一番いい。無理なら強引に押し通るまでだ。……俺達がこれからしようとしている事的に、どの道こいつとは戦う羽目になるとは思うけども。


「まあいい。取り次いでやる」


 そう言って男は扉をノックして、中にいるであろう人間に告げた。


「ロナルド様、閣下に用があるとかいう人間が来てますよ」


 ロナルド? 男の名前だ。アデルの実家を乗っ取ったのはアデルの継母、妾のほうだから、てっきり女の名前が出てくるもんだとばかり思っていた。


「何? まあ良い。通せ」


 扉越しにくぐもった声が聞こえてくる。とりあえず中に入ることは出来るみたいだ。


 ガチャリと扉を開けて、俺達は中に入る。

 中にいたのは中年に入りかけの、顔のいいおっさんだった。ロナルドと呼ばれたそのイケメンなおっさんは何やら書類仕事をしているようで、入ってきた俺達には目もくれない。


「要件は何だ? 見ての通り私は忙し………………」


 そこまで言ってロナルドの手が止まる。チラリと目だけをこちらに向けたロナルドが固まっている。視線の先は、アデルだ。


 ロナルドはアデルを見てしばらく金魚みたいに口をパクパクさせた後、我に返ったように叫んだ。


「なっ! お、お前は!!?」


 ここでようやく俺も口を挟める。


「よう、長い間ご苦労だったな。本当の当主が帰ってきた気分はどうだ?」


「こ、これはどういう……。こいつは死んだ筈では……。と、いうかお前! なんだその口の利き方は! 無礼にも程があるぞ!」


 しばらく呆けていたロナルドだが、俺の存在に気がついたらしく俺の態度について喚き立ててきた。


「無礼も何も、お前は犯罪者だろ。貴族なら百歩譲ってわかるが、何が悲しくて犯罪者なんかに敬語使わなきゃならないんだ」


「貴様……、この私を犯罪者呼ばわりしたな! 絶対に許さんぞ! おい、カルロス! こいつらを捕らえて牢屋にぶち込め!」


 いきなり牢屋コースか。流石、簒奪者はやることが違う。それにしても小物臭が半端じゃないな。本当にこんなのが当主でいいのだろうか。まあ実質ボスは継母のほうらしいからお飾りはこのくらいで丁度いいのかもしれないが。


「くっくっく」


 カルロスと呼ばれた部屋番の男がニヤニヤと笑っている。さっきはそれなりにまともな奴だと感じたが、この状況を楽しんでいるとなるとなかなかに大物なのかもしれない。


「カルロス! 何がおかしい!」


「いや、犯罪者だってよ。やってることはそのまんまだから、そりゃあ捕まえて証拠隠滅するしかないよなぁ」


 どうやらカルロスとやらは何も状況が読めず、好き勝手したいがためにこいつに従ってるとかそういうわけではなさそうだ。善悪と状況の判断はしっかりつくらしい。それに「従っている」ようにも見えない。どうも「乗ってやってる」感じがする。不思議な奴だ。酔狂か?


「うるさいうるさい! つべこべ言わずにとにかくこいつらをひっ捕らえろ!」


 情緒不安定な奴だな。そんなに捕まえたきゃ自分で捕まえればいいのに。運動したくないのかな。


「そんなに怒ってばっかりだと頭の血管切れて死ぬよ」


「ぬああああああ!!!」


 少しからかうと、もはや人語を話さなくなった。何これ面白い。

 そこでようやくカルロスが前に出てきた。


「悪いな嬢ちゃん達。これも仕事なんだ。手荒な真似はしたくない。大人しく捕まってくれるか?」


「捕まる時には痛くなくても、どうせ捕まった後にはヒドいことされるんだろ?」


「捕まえるまでが俺の仕事だからな。まあ、その後はご想像に任せる」


「なら抵抗させてもらうぞ」


「残念だ」


 と、ここまでの流れなら普通はこのまま戦闘に発展するんだろう。だが敢えて俺はその流れをぶっ壊す!


「おらァ!」


 いきなり「身体能力100倍」を発動し、一瞬で距離を詰めてイケメンおじさんロナルドをぶん殴って捕まえる。


「ぐえっ」


 ロナルドは何が起こったのかもわからないといった様子で気絶した。人質ゲットだ。これでカルロスも下手な手は打てまい。やったぜ!


「な……」


 カルロスは呆気に取られたように棒立ちしていた。まあ、完全に流れをぶった切る行動だったからな。仕方ない仕方ない。


「これでもまだ戦うか?」


 人質を取るのに加えて、俺の強さも示した。これでも尚戦うと言ってくる奴は使命感に駆られて玉砕覚悟で向かってくる馬鹿か、ただの馬鹿だ。つまりどっちにしろ馬鹿だ。


「……動きが早すぎて目で追うのが精一杯だったぞ」


 見れば、カルロスは軽く冷や汗をかいていた。ふむ、それなりに今のパフォーマンスは効果あったとみていいのかな。


「お褒めにあずかり光栄だ」


「だが俺は引くわけにはいかない」


「馬鹿じゃん」


「そうだな……。確かに俺は馬鹿かもしれん……。ロナルドはどうでもいいが、俺には大恩のある方がいるのだ。その人のためにも俺は引けない」


 こいつ、自分の当主をどうでもいいと言いやがった。確かにこいつからはロナルドに対する敬意は欠片も感じられなかったから、不思議だなとは思っていたけど……。もしかしたらカルロスの主人ってのは継母のほうなのかもしれないな。


「いいの? こいつ死ぬかもよ」


「構わん。あの方さえ無事なら代わりはいくらでもいる」


 マジか。人質に効果がない……。じゃあ殺すのかというと、別に殺したいわけでもないしな……。とりあえず縛って放置しとくか。


「アデル、こいつ縛ってその辺転がしといて」


 当事者なのに今まで空気だったアデルにロナルドを任せる。


「わかりました」


 冷たい目をしたアデルがロナルドを引きずっていった。アデルにとってみればこいつは思いっきり親の仇の仲間だからな。情けをかける理由が見当たらない。


「さて、()()()()にいる以上、お前にもああなってもらうよ」


 アデルの敵は俺の敵でもある。俺の女を悲しませる奴は皆敵だ。


「あの方のためにも俺は負けられない。悪いが勝たせてもらう」


 カルロスが言う。覚悟を決めた男の目だ。まったく、なんでこういう芯のある奴が簒奪者なんかに従ってるんだろうな。

 カルロスが腰に下げていた剣を抜いて構えた。


「いくぞ!」


 先手必勝とばかりにカルロスが斬りかかってきた。だが「身体能力100倍」を発動したままの俺には実に緩慢な動作にしかに見えない。俺は余裕を持って半身を引き距離を取る。そして予想していた攻撃が失敗し、カルロスがバランスを失ったところをそのままそこそこ力を込めたパンチで迎え撃った。しかし、驚くことにすんでのところでカルロスは剣と腕をクロスさせて俺のパンチを受け止めた。


 ドゴォッ!! という音がしてカルロスが吹っ飛ぶ。しばらくして、カルロスがゆっくりと立ち上がった。壁に叩きつけられて全身傷だらけだが、その目の光は失われてはいないようだ。

 俺の攻撃を受けて倒れなかった人間はこれが初めてかもしれない。なかなかに強靭な肉体と精神を持っているようだ(ちなみに本気でぶん殴ったら人間なんて粉々に消し飛ぶ。流石にスプラッタなシーンは見たくないからそれはしない)。


「ごほっ……。こ、これは想像以上の威力だな……」


 立ち上がりはしたものの、若干足が震えているカルロスが呟く。


「無理すんなよ」


 相手がまともな奴だと気遣いたくなってしまう不思議。敵なのにまともな奴だったから感情移入してしまったのかもしれない……。まあだからといって立ち向かってくるなら容赦はしないけどな!


「くっ、俺は、俺はこんなところで!」


 カルロスが剣を振りかぶって突っ込んでくる。なんだかその言い草だとまるで俺が悪役みたいじゃないか。

 とりあえず危ないのでカルロスが振り抜いてきた剣を真剣白刃取りして叩き折り、本人を蹴っ飛ばす。


「ぐっ」


 ゴロゴロと向こうに転がっていったカルロスはビクビクと震えており、戦闘継続は無理そうだ。


「勝負ありだな」


 戦った感じ、この世界に来てから戦った人間の中で一番強かったと思う。悪者に加担していた彼に未来があるかどうかはわからないが、もし未来があるなら沢山修行して更に高みを目指してもらいたいものだ。


 さて、障害も片付いたので今のうちに証拠を見つけるかな……。

 そう思いアデルと一緒に部屋の捜索をしようとしたのだが。


「そこまでよ」


 女の声がした。冷たい、感情を感じさせない声だ。振り返ると、部屋の入り口には一人の高貴な服装の女と、そいつを取り巻く沢山の兵士がいた。


 黒幕の登場だ。

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