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バルツァー伯爵領

 自走馬車に揺られて早4日。時速20キロほどのスピードで一日10時間ほど走っているので単純計算ではもう既に着いていてもおかしくはないのだが、いかんせんここは異世界。交通インフラなど整備されている筈もなく、ただひたすら足で踏み固められただけの獣道よりは多少マシな程度の悪路を進んで進んで進みまくって、ようやく今バルツァー伯爵領に入ったところだ。

 もっとも、バルツァー伯爵領に入ったと言ってもただ単純に領地とされている地域に差し掛かっただけ。周りには家や柵のような人工物などまるで存在しておらず、その景色は田舎 of 田舎で、さながら試される大地の山奥のよう。田畑や家があるだけ田舎のほうがまだ栄えているかもしれない。強いて言うならここは大自然だ。

 ちらほらと散見される小規模な森に、そこかしこを流れる細い小川。辺り一面に広がる草原は見事と言うほかない牧歌的な風景なのだが、残念なことにそこに牧場は無く、人間はおろか牛一匹いやしないのである。

 頭上には暖かな春の太陽。日本なら初夏と言ってもいいかもしれない時期だけど、この異世界にあってはまだ春という表現が近い。


「うーん……」


「どうなされましたか?」


 俺に代わって運転手をしていたアデルが声をかけてくる。俺も最初のうちは運転していたのだけど、途中から疲れて放り投げてしまった。だって運転する車のスピードが遅いのなんの。日本の車に慣れてる身としては苦痛でしかない。次に車を作る時はもう少しハイスピードを意識して作るようにしよう……。

 幸い、ここ異世界で生まれ育ったアデルにとっては十分に速く感じられるらしく、それ以降は基本的にアデルに運転を代わってもらっている。アデルが疲れたらたまに交代する感じだ。


「いや、あまりに退屈でな……」


 そう、ここバルツァー伯爵領に入るまでの道のりは非常に退屈なものだった。というのも、昨日までの3日間で魔物と遭遇したのはたったの5回。どれも魔法一発で片付いてしまうような雑魚だったので、素材回収イベントすら発生しなかった。盗賊や追手に関してはなんと遭遇回数(マップに表示されるニアミス含む)0回という、驚異的なまでに平和(平和なのに脅威、なんつって)な旅路だったのだ。もちろん平和なのは良いことなんだろうけど、追手やら魔物やら盗賊やらに沢山襲われると覚悟していただけに、何とも肩透かしを食らった気分だ。


「それなら私の身体でもお楽しみになりますか?」


「ああ、うん。どうしよう」


 アデルを匿ってから今日に至るまでのこの数日の間に、俺が女の子を好きになる人なのだとアデルには気づかれている。というかめちゃくちゃ俺がセクハラするもんだから、アデルも否が応でも気づかざるを得なかったようだ。幸いアデルは同性愛に理解を示してくれるタイプの人だったので、特に拒絶されたりはしなかったのが救いだ。

 だからと言ってセクハラしていい理由にはならない! と言われてしまえばそれまでで、反論はおろかハイその通りですすみませんとしか言えないのだけど、アデル曰く「景様に人生を捧げると決めた以上、拒絶する理由はありません」らしい。

 なんとまあ健気で可愛らしい子なことよ。まあ、こういう話があって、それ以降はこれ幸いとめちゃくちゃ手を出しまくっているのである。アデルも俺に求められるのは満更でもないのか嫌な顔ひとつせず、むしろ事あるごとに誘ってくれるようになった。あまりの可愛さに俺のスケベ心が爆発してしまいそうだ。

 それとこのままだと誤解されそうだから言っておくけど、もちろん最後まではしていない。全身撫で回しまくったりキスしまくったりしてるのに何を今更、と思われるかもしれないが、俺はまだアデルを本当の意味で救えてはいない。アデルの家を簒奪した悪者を倒してその結果を王宮に伝え、アデルが正統な後継者であると国内に知らしめて初めて俺はアデルを本当の意味で救ったことになる。だから俺はそれを成し遂げるまではアデルとの最後の一線は超えないつもりだし、アデルにもそれは伝えてある。

 つまり、ここまでスケベ親父な性格の俺が最後まで致すのに条件をつけることで、絶対に助けてやるぞという意思表示をアデルにしたわけだ。自慢しているようで恥ずかしいけど、これはなかなかに決まったと思う。もちろんアデルは嬉し泣きしていた。

 男たるもの、女を悲しみで泣かせてはならない。女を泣かせていい時は、女を嬉し泣きさせる時だけだ。

 これ、俺のポリシーね。まあ地球にいた時は泣かせるような彼女なんて一人も出来なかったんだけどね!


 と、いうわけでアデルの体には触り放題なのだが……。変態スケベ親父の俺にしては本当に珍しく、なんとなく疲れて気分でもなかったので寝ることにした。


「いや、太陽も気持ちいいし眠くなってきたからちょっと一休みするよ」


「わかりました。おやすみなさいませ」


「まあ来ないとは思うけど、盗賊とか魔物が出たら起きるよ……」


 そう言って俺はうつらうつらと眠りに落ちる。以前、マップのアラーム機能をオンにするのを忘れて襲撃に遭ったことがあるので、そうならないようしっかりとセット済みだ。異能は使いこなしてなんぼだからな。



     ✳︎



 脳内に鳴り響くアラーム音で目が覚めた。瞼越しに眩しいのが伝わってきたので、どうやらまだ日中らしい。半覚醒状態のままマップを確認すると、複数の敵性反応がこの先にいることがわかった。前だけでなく後ろもまた然り。どうやら囲まれているらしい。

 寝る前に襲撃フラグを立てた身で言うのも変だけど、見事にフラグ回収したなぁ。流石の俺も未来予測チートは持っていない筈なんだけど。


「アデル」


「あ、景様。お目覚めですか」


「おはよう。襲撃だ」


「はい?」


 少し脈絡がなさ過ぎたな。


「どうやら敵さんのお出ましみたいだ。人か魔物かはわからないけど……。前と後ろに陣取ってるみたいだから、多分人間だ」


 知能の高い動物ならともかく、その辺の魔物は二手に分かれて退路を断つなんて真似しないだろう。


「……! 簒奪者共の私兵でしょうか?」


「わからん。けどアデルは隠れていたほうがいいね。もしそうだったら顔を覚えられている可能性がある」


「わかりました。後はお任せします」


 そう言ってアデルと俺は御者を代わる。さあ鬼が出るか蛇が出るか。

 だんだんと近づいてくる敵に身構えながら、俺は馬車を進めていった。

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