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さよならヴァルツィーレ

少し短めです。

 あれからひとしきり走り回って不具合が無いことを確かめた俺達は、風呂に入ってすっきりした後、今夜に備えて寝ることにした。


「夜が更けたら出発するからね。今のうちに寝とこう」


「はい。おやすみなさい」


「おやすみ」


 俺とアデルはベッドに入る(ベッドは2人で寝れるように少し拡張した)。作業に集中していた疲れもあったのか、意識はすぐに落ちていった。



     ✳︎



 目が覚めたら、もう完全に日が暮れていた。街から離れている以上、鐘の音も聞こえないから今が何時かわからない。

 街の様子を見に行くついでに、リルに別れの挨拶をしに行こう。母親のラティナさんの体調が良くなったら街を詳しく案内してもらう予定だったけど、仕方ない。また今度来た時にしっかり案内してもらおう。


「アデル」


「ん……、あっ、景様」


 俺はまだ寝ていたアデルを起こし、出発の準備をするよう伝える。


「俺はちょっと街の様子を見てくるから、アデルは出発の準備をしててくれ」


「わかりました。お気をつけ下さい」


「うん。じゃ、行ってくる」


 アデルに見送られて俺は外に出る。森の中は真っ暗で、月の明かりも入ってこない。夜行性の鳥や虫の声がなんとも不気味だ。そこまで大きい森じゃないのに、不思議な感じだ。

 俺は「身体能力100倍」を軽く発動して、一気に森の中を走り抜ける。これなら街まで数分だ。夜風が頬を撫でて心地いい。


 数分後、ヴァルツィーレの外壁付近に着いた俺は門番のいる辺りを観察していた。もう既に門は閉まっていて、門番も外にはいないみたいだ。

 とは言えどこに人の目があるかもわからないので、いきなり壁を飛び越えるなんてことはしない。外壁の上に身を乗り出して、こっそりと街の中の様子を確かめる。

 ……どうやらもう既に就寝時間になっているみたいだ。表通りや歓楽街のほうはまだ明かりが灯っているようだが、住宅街の窓からは光が漏れ出ていない。人通りもほとんどないようだ。

 よし、これなら行けるな。

 俺は壁を飛び降りて、見つからないようにマップを注意深く観察しながらリルの家を目指す。そのまま数分歩いて、俺はリルの家に到着した。

 コンコン、と近所に聞こえないよう小さめに扉をノックする。

 ややあって、はーいという声と共にリルが出てきた。


「こんな遅くに誰ですか……って、アキラさん?」


 リルはパジャマ姿で、若干寝癖がついていた。もう寝てたのか。悪いことをした。


「やあ。遅くにごめん」


「いえ、アキラさんなら全然構わないですよ。どうしたんですか? こんな夜更けに」


 俺だとわかって安心したのか、見えないように背後に持っていた剣を壁に置いてリルが訪ねてくる。警戒を忘れないあたり、流石だな。


「いや、いきなりで悪いんだけど、この街を出て行かなきゃならなくなってさ。その、別れの挨拶に来た」


「えっ……! そ、それって、例の乱闘騒ぎが原因ですか?」


 おお、もう噂が出回っていたのか。人の噂が広まることの何と早いことよ。すぐに街を出ると決めておいて本当よかった。


「まあ、ぶっちゃけて言うとその通り。ちょっとトラブルに巻き込まれちゃってな」


 厳密に言えば「首を突っ込んだ」のほうが正しいけど、そこはわざわざ説明することでもあるまい。


「……そうですか。残念です。詳しいことは聞きません。アキラさんのことですし、何かしら特殊な事情があるんでしょう」


「ははは……」


 苦笑いしか出てこない。


「アキラさん」


「うん?」


「私、待っていますから。だからまたこの街に寄って下さいね。その時こそちゃんと案内しますから」


「わかった。この件が片付いたら必ず寄るよ」


「はい」


「それじゃあ、またな」


「はい。またお会いしましょう」


 その一瞬、かかっていた雲が晴れて、異世界の月の光が俺達を明るく照らす。

 無事、リルにさよならを告げた俺はリルに見送られながら、その場を後にした。



     ✳︎



 やるべきことは終わったので、俺はすぐにヴァルツィーレの街を出る。マップを見れば、夜中にも関わらず沢山の赤マークの人間が街を歩き回っているのがわかる。おそらくザイモンの野郎がヴァルツィーレ領政府に告げ口をしたんだろう。まったくもって面倒な奴だ。ヴァルツィーレの領主からしたら、嘘の情報で本当の貴族を追わされていることになるし、憲兵も無駄な労力を費やすことを強いられることになる。俺だって敵対したくない無関係の人間を相手にせざるを得なくなる。

 こんな周りに迷惑をかけておいて、のうのうと生きていけると思うなよ。俺とアデルに喧嘩を売ったことを絶対後悔させてやる。


 ドームハウスに着くと、アデルは既に支度を終えていた。


「お待たせ。それじゃあ行こうか」


「はい。よろしくお願いします」


 俺はドームハウスを「無限収納」に仕舞い、代わりに自走馬車を取り出す。


「それじゃあ出発だ」


 自走馬車に乗り込んだ俺達は夜の暗い森の中、バルツァー伯爵領目指して出発した。

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