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移動手段を手に入れた

 さてと。馬車というからには、馬車らしく見せたほうがいいんだろう。この世界にはまだ自動車なんて存在していないだろうし、カモフラージュのためにもあまり奇抜なデザインは駄目だということだ。

 デザインの方向性は決まった。中世らしく馬車のテイストだ。見た目は完全に馬車でいいだろう。とはいえ、何も最初から良いデザインの馬車を作ろうなんて考えてはいないので、まずは普通に箱馬車か幌馬車にしようかと思う。今回は幌になる布や皮が手元に無いので、無難に箱馬車でいこう。

 俺はその辺に生えていた木を、さっき作った剣でスパスパ斬り倒していって馬車の材料を確保する。伐採された材木が小さな山になったあたりで一旦やめる。もうこのくらいで大丈夫そうだな。


 さて、まずは車体を支えるフレームと、動力を伝える軸を作ろうと思う。加工は難しいけど出来ないほどではない。

 俺は集中しながら木材を組み合わせて車体を乗せる台座部分のフレームを作っていく。エンジンを載せる場所から回転エネルギーを伝える軸も組み込む。


「よし、なかなかいいぞ」


 10分ほどで、車の下半分のようなものが出来上がった。エンジンを積んでいないのでまだ走りはしないけど、なかなかに車らしい見た目になってきたな。

 さて、次はタイヤだ。タイヤはゴムタイヤを履かせたいけど、ゴムなんてどこで手に入るのかもわからない。しかし俺には「錬金術」の技能がある。ゴムの木でもあれば楽に作れるんだろうけど、残念ながらこの辺にはないらしいので、強引に魔力チートでゼロから作ってしまおう。


 自動車を作ろうと思ったら、予想以上に色々な素材が必要だった。結局、タイヤに使うゴムだけじゃなくて、座席に使うクッションなども「錬金術」チートで強引に作ることになってしまった。俺だから大丈夫だけど、他の人間だったら魔力切れで気絶してるかもしれない。これなら初めから幌馬車でもよかったかなという気もしなくもないけど、幌馬車より箱馬車のほうが居住性は良さそうなので気にしないことにしよう。


 さて、タイヤやら座席やらを取り付けたところで、肝心のエンジン製作に取り掛かるとしよう。

 エンジンと言っても、自動車整備系の仕事をしている人が身の回りにいたわけでもなければ、別段内燃機関の構造に詳しいわけでもない。つまりはガソリンエンジンという文明の利器の存在を知っているだけの、全くの素人だということだ。果たしてそんな素人にエンジンが作れるかと言ったら、作れるわけもない。一生をかけて研究を続ければ、完成形を知っている以上いつかは作れるかもしれないけど、それじゃあ意味がない。俺は今エンジンを作りたいんだ。

 だから内燃機関ではなくて、より構造の簡単なモータータイプのエンジンを作ろうと思う。果たしてそれをエンジンと呼んでもいいのかどうかは俺にもよくわからない。

 モーターと言っても、電気で動くタイプではない。指向性を持たせた魔力を一定方向に流すことで回転する、魔導モーターだ。指向性を持たせる部分は俺のほうでも代用出来るけど、制御が大変になりそうなのでそれを担う部分を作る。導電性ならぬ導魔力性のある物質(これも「錬金術」技能のおかげでわかったことだけど、物質によって魔力の流れ易い流れ難いの違いがあるみたいだ。今回は比較的楽に作れてそこそこの導魔力性を持つ銅を使用した)に、魔力を流すと一定方向に流れるよう働きかける魔法陣を刻んでおくのだ。この魔法陣は、知識ゼロの俺がどうにか出来ないかと試行錯誤していたら「錬金術」の技能が教えてくれた。教えてくれたというより「錬金術」を意識したら自然にわかったというほうが近いかな。

 本当、めちゃくちゃにチートな技能だ。生産チートし放題だぜ。

 取り敢えずモーターが出来たので、俺は運転時に魔力を流すだけでよくなった。ただ、このままだとこの車は俺以外には運転が出来ない。ひたすら魔力を垂れ流すなんて、魔力が無限の俺か俺と魔力パスを繋いだ人間しか耐えられない。一応俺もアデルもその点では問題は無いけど、いまいち汎用性には欠ける。それは流石に不便なので、ガソリンタンクよろしく魔力バッテリーも作ってしまうことにした。

 さて、その魔力バッテリーだが、導魔力性のある物質とは別に蓄魔力性とでもいうべき特性のある物質もまた存在するらしい。しかもとても身近なものだという。それはなんと「水」だった。

 試しに木とか銅とか鉄とかも試してみたけど、水が一番効果が高かった。その次に木。多分、木の中に含まれている水分が反応してるんだと思う。現に、さっき伐採したばかりの木材と、その辺で拾った枯れ枝では全然効率が違った。やっぱり水が重要だったみたいだ。

 銅や鉄に関しては論外。ただ魔力を流すだけで、これっぽっちも溜めやしない。なんだか悔しかったので強引に魔力を押し留めながら流し込んでいたら、魔銅・魔鉄とかいう新しい物質が生まれてしまった。元の物質より強度と導魔力性が向上した新素材だ。思わぬ副産物に少し驚く。これはこれで便利なのでまた別の機会に使わせてもらうけど、俺が作りたかったのはコレジャナイ……。

 それと実験的に試してみた金銀に関していえば、水よりも蓄魔力性が高かった。けどそれ以前に必要なコストがもっともっと高かった。コスパを求めるなら水が一番だな。価格度外視のレーシングカーみたいなものには金銀使えばいいと思う。大衆車には向かないね。


 ところで、魔力を蓄積した水というキーワードにどこか心当たりがないだろうか。そう、女神の雫だ。あれは謂わば、豊富に魔力を蓄積した燃料水だったのだ。とはいえあそこまで高濃度にしなくても十分な量の魔力を溜められるので、女神の雫をバッテリーに使用する必要はない。そんなことをしたらそれこそ金と同じ値段のバッテリーになってしまう。ダウングレードした廉価版人工女神の雫で要求性能としては十分だ。


 さて、ようやく懸念だった動力も完成したし、これを車体に載っけて外装を取り付ければ完成だ。

 俺は骨組みと内装だけの車にエンジンを載せて、外装を取り付けていく。作りかけのプラモデルのようにスカスカだった見た目は、みるみる内にちゃんとした馬車のそれへと変わっていった。


「よーーし、出来た!」


 ようやく出来上がった。装飾なんて皆無の、地味な箱馬車だ。素人製作なので、ところどころ歪んでいたり、異常に簡素だったりはするけど、それでもその辺を走っている馬車に見劣りしないくらいにはちゃんとした馬車が出来た。

 そうだな、さしずめ駆け出し商人の荷馬車と言ったところか。初めてにしてはよく出来たほうな気がする。製作時間が一時間程度であることを考えれば、十分なクオリティだ。

 よし、早速走らせてみよう。

 俺は魔力タンクに魔力を流し込む。ものの1分もしないくらいで魔力が満タンになったので、流し込むのをやめる。これで軽く数時間は走る筈だ。ちなみにこれだけの魔力を放出すると、大抵の一般人は気絶する。もしくはそもそもここまで送り込めるほど魔力量が多くない。


 車に乗り込んで起動(ガソリンエンジン車と違って実際に動力機関が回り出すわけじゃなくて、スタンバイモードに入るだけ。どちらかと言うと電気自動車に近い感じだ)すると、なかなか帰ってこない俺を心配に思ったのか、ドームハウスの中からアデルが出てきた。


「景様……。馬車? それは何でしょうか」


「お、アデル。いいところに来たね。こっちにおいで」


「はい」


 興味深いものを見るようにアデルがやってくる。


「乗ってみて」


 俺は扉を開けて、アデルを車の中に招いた。


「よっしゃ行くぞ〜」


 アクセルを軽く踏むと、ゆっくりと車が動き出した。成功だ。


「わっ、馬がいないのに馬車が動き出しました!」


「凄いだろ?」


「凄いです! 流石は景様です!」


「はっはっは」


 やはりアデルの中では俺は何をしてもおかしくない人間(人間?)として思われているようだ。


「これなら雨の日の移動も楽になりますね」


 早速アデルが、この自走馬車を作った目的を当ててくる。やっぱり賢い。


「そうだな。これでこの雨が止まなくても夜には出発出来るよ」


「景様、ありがとうございます」


 アデルが横から頭を下げてくる。


 こうして俺は、拙いながらも辛うじて自走する馬車を作ることに成功したのだった。

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