襲撃者
深夜。俺のマップに敵性反応が引っかかった。敵性反応が近付いてきたら自動で脳内アラームがかかるようにデフォルトでセットしてあったので、深く眠っていても気付けたのは不幸中の幸いだ。一番いいのは何の襲撃も無いことなんだけどね。誰かの襲撃にあっている時点で既に不幸だ。
その敵性反応は今、この宿の裏にいるみたいだ。人数は2人。昼間の例のチンピラ冒険者達かな? こんな夜更けに何の用事だろうね。
俺はアデルに気付かれないようにそっと布団から出て、服を着る。寝ている時みたいに半裸で敵さんと対面するわけにもいかないからな。というか何より野郎に肌を見せつけたくない。何が悲しくて野郎にサービスしてやらねばならんのだ。
というわけで手早く着替えた俺は、そっと窓を開けて屋根に登る。「身体能力100倍」を使用しているので、暗闇の中でも昼間のようにはっきりと見える。敵さん達は死角に隠れているみたいだけど、マップの使える俺にはバレバレだ。
俺は屋根と屋根の間をひとっ飛びで移動して、音も無く襲撃者達の背後に着地した。まだ奴らは気付いていない。
「おい、本当にこの宿であってるんだろうな」
「間違いねえ。俺の仲間が確認してる。獲物は二階の一番奥の部屋に泊まってる筈だ」
「わかった。じゃあさっさとやるぞ。いつまでもこんなところに隠れていちゃ、見回りの憲兵に見つかるかもしれねえからな」
物騒な話だな。しかも俺達のことを獲物呼ばわりか。捕食者の間違いじゃないの?
それにしても、いつの間にこいつらの仲間に泊まるところを見られたんだろう。マップには特に敵性反応の表示は無かったんだけどな。ということはつまり、俺達を見張る意思はあったけど直前俺達に敵意があるわけじゃないからマップには表示されなかったとか、そういうことかな?
……となるとこれはシステムの欠陥だな。人間は一概に敵味方と分けられるようなものでも無いってことだろう。また一つ勉強になった。次からは敵味方問わず、こちらに関心がある人間を要注意人物として別の色でマークするよう設定し直しておこう。
さて、自己反省も終わったところで、新しいことに気付かせてくれた彼らには感謝の意を込めて丁寧にお迎えするとしよう。
俺は襲撃者達のすぐ後ろにまで近付くと、気さくな感じで声をかけた。
「よう、相談事は終わった?」
「「誰だっ!?」」
弾かれたように背後に振り返って瞬時に武器を構える襲撃者2人。なるほど、ただのチンピラだと思っていたけど、そこそこ実戦経験はあるみたいだな。まあ俺の接近に気付けなかった時点で襲撃者としては失格だけどね。「身体能力100倍」があるとはいえ、基本的に俺は素人なんだからな。素人に翻弄されている時点でたかが知れているというものだ。
「あんた達のお目当ての人物と行動を共にしている人間だよ」
「貴様……、あの女の仲間か?」
「どうやらそうみてえだな。へへ、それにしても獲物が向こうからやって来てくれるとはな……。1人ずつだとやりやすいぜ」
「まあ別にあの女の仲間じゃなくても関係ねえんだけどな。どっちにしろこの場を見られた時点でただじゃ置けねえ。俺達の慰み者にでもなってもらうぜ」
面白いくらいに悪人だな。もし暗殺が本業の、真の仕事人なら慰み者にするだなんて言わずにすぐに斬って捨てるだろう。相手を舐めてかかっているだけではなく、己の欲望を混ぜている時点でこいつらは本職ではなさそうだ。
本職じゃないってことは所詮下っ端、切り捨て要員なんだろう。なら詳しい事情もあんまり聞かされてはいないんだろうな……。せっかく敵さんから情報を聞き出す機会だったのに残念だ。
「なんかお前らあんまり事情知らなそうだからもういいや。もう夜も遅いし寝ててくれ」
夜中なのであまり騒ぎにならないよう、ドスドスッと2人同時に当身を食らわせて瞬時に意識を刈り取る。
「うっ」
「ぐえっ」
2人揃って碌に抵抗も出来ずに崩れ落ちる。やっぱり雑魚だ。ここに放置するのも後が面倒だし、縄に縛って憲兵の詰所の前に括り付けておこう。
「無限収納」の中から先日朝の市で買っておいた縄を取り出してチンピラ冒険者達を雁字搦めに縛る。男相手に縛って喜ぶ趣味も無いので、縛り方は至って普通だ。変な縛り方はしていない。
俺は縛った2人を掴んで憲兵の詰所まで歩いていく。流石にこんな夜更けに外を出歩いている怪しい人間はいないみたいだ。やっぱりここが現代日本とは違うんだな、と感じさせられる。日本だと都会だったらまず間違いなくいつでもどこでも人が歩いているからな。真夜中であっても然りだ。
まあ日本とは違って異世界の夜は暗いからな。色街に行けば流石に街灯くらい経ってはいるだろうけど、この辺にそのようなものは無い。夜の道を照らすのは星空の明かりだけだ。
チンピラ達を詰所前に放り捨てて夜のお散歩を終えた俺は、早めに宿に戻ることした。早く戻らないとアデルが気づくかもしれないからな。
部屋に戻ると、アデルは起きていた。ベッドに正座して俺の帰りを待っていたようだ。健気なやつめ……。
「お帰りなさいませ」
「ただいま」
「もしかして襲撃者ですか?」
「まあね。憲兵に突き出して来たよ」
そう言うと、アデルはそのまま頭を下げてベッドの上で土下座をし出した。ベッドの上だからベッド下座だ。
「誠に申し訳ありませんでした。景様が奮闘なさっている間にのうのうと眠りについていた私をどうか処罰なさって下さい」
「なんでアデルが謝るのさ」
「襲撃は私を狙ってのものです。元はと言えば、私が景様と行動を共にしているからそこ起こった襲撃です。それの対処を景様に押し付け、自分だけのうのうと眠りについていたなど一生の恥です」
「そ、そこまで言わなくても……。アデルを起こさないように抜け出したのは俺のほうだし、何よりアデルを守るって約束しただろ? アデルは何も悪くないよ」
「そ、それでも私は自分が許せません……」
「じゃあおっぱい揉ませて。それで許してあげるよ」
それならアデルも贖罪したことになるし、俺もハッピーだ。
「も、もっ……! わ、わかりました。つまらないものですが、どうぞお楽しみ下さい」
全然つまらなくないんだけどな〜。夜も更けていく中、俺はアデルを弄り倒して至福の気分を味わいながら二度寝するのだった。ここは天国か……。
翌朝目が覚めると、アデルは起きていた。厳密には起きてはいるものの、横になって俺の抱き枕と化していた。
「お、おはようございます」
「おはよう。今日も可愛いね」
出会って2日目の会話とは思えない。というか昨日が濃すぎたんだ。衝撃的な出会いをして、様々な苦難を乗り越えた2人はやがて結ばれるのだった……。
「早く起きないと朝食の時間が終わってしまいますよ」
アデルの無慈悲な宣告で現実に引き戻される。いいじゃないの。まだしばらく夢を見させておくれ。
「朝食を抜くのは体によくありませんよ」
「うーん、わかったわかった。おっぱい揉ませて」
揉み揉み〜。
「ふぁっ!? あ、朝から何をなさるのですか!」
朝から自分を慕ってくれる子にセクハラをぶちかますおっぱい魔人とは俺のことだ。しかも相手は日本なら未成年。お巡りさーん、私です。
「ふう、目が覚めた」
朝から好きな子のおっぱいを揉める幸せを噛み締めながら、俺はようやく起床する。ベッドから起き上がると、腹の減りを感じた。早く着替えて朝食を食べに行こう。
「本日のメニューはオーク肉の照り焼きサンドイッチと、コーンスープになります」
実に俺好みのメニューに感心しながら、俺は出された朝食を手に取る。うーん、写真に撮りたいくらい美味そうだ。いつかカメラを開発するのも有りだな。
「本日で宿泊の日数は終わりになりますので、昼の刻までにはチェックアウトになりますが、更新はいかがなされますか?」
「うーん、どうしようかな。まだ特に予定も無いし、取り敢えず継続でお願い」
「かしこまりました。一泊延長で5000エルになります」
「はい」
俺は給仕の子に銀貨1枚を渡す。2人で泊まると1人の時に比べて若干割引が効くんだよな。この宿のクオリティでこの値段はとても嬉しい。
さて、今日は一日どうしようかな。アデルと2人、いつまでも逃げているわけにもいかないし、アデルも対抗手段を得たんだから堂々と外を歩いてもいいんだけど。
アデルと一緒に朝食を食べながら今後の予定について考える。まあ幸いお金はまだある。本格的に動き出すまではもう少し観光してもいいかな。
大変美味しい朝食を食べながら、そんなことを思う俺だった。
とても密度が高く感じますが、まだ景とアデルが出会って2日目なんですね。
書いている途中にどんどん文章が膨れ上がっていくので、話の時間の流れを覚えておくのが大変です。もし日付けなどの設定のミスを発見なされた場合は、お気軽に報告下さい。




