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女の子になっちゃった

ポンコツ美女ってなんか萌えません?最近は「有能なポンコツ美女」とかいうわけのわからないジャンルが自分の中のトレンドだったりします。

拝啓

 天国の父上、母上殿。私、神坂景は異世界の地にて女性として生まれ変わったようです。慣れない体で不安もありますが、男らしく強く生きていきたいと思います。

敬具


 さて、皆さんこんにちは。どうやら大変なことになったようです。私、神坂景は電車の中で死にかけ、九死に一生を得て異世界で復活したと思ったら女になってました。これから私は女として生きていくのでしょうか。あり得ねえ。


 これからの波乱万丈な人生に思いを馳せながら、俺は目の前に広がる景色をぼんやりと眺める。今俺が立っているのは周りよりも少しだけ盛り上がった小高い丘の頂上付近。辺り一面には背の低い草の草原が広がっており、前も後ろも見渡す限りの緑、緑、緑だ。遥か遠くには山々が連なる様子がうっすらと確認でき、振り返ってみればこれもまた遠くの方に深緑の森が広がっているのがわかる。とはいえ連峰よりもこっちの森のほうが幾分か近そうだ。少なくとも歩いていけない距離ではなさそう。まあ何時間かはかかりそうだけどな。

 さて、これからどっちの方向へ進むかという話なんだが、まず山は論外だ。今は日中で少し暖かいとはいえ、夜になったら気温も低くなるし、何より初心者がこんな軽装で行けるようなところじゃない。そりゃ高尾山とかなら話は別だろうけど、日帰りで行けるようなハイキングじゃないんだ。あの山々も見るからに高いし、中腹辺りからもう雪がかかってる。アルプス山脈くらいは普通にありそうだ。道も、異世界だから地球みたいに登山道が整備されてるわけもないだろうから却下。俺に自殺願望はない。日本に帰る前に土に還るわけにはいかんのだ。

 とすると残された道は森方面か、右左どっちかの草原地帯か。とはいえこれも答えは出ているようなもんだ。この草原、見るからに食べ物とか無さそうだし動物もいなさそう。いてもバッタとかその程度な気がする。まあ異世界の地にバッタがいるかどうかはしらんけど。少なくともこれだけ見晴らしのいいところから見て大型動物の一匹も確認できないようじゃ、期待するだけ無駄というものだ。もし仮に捕まえて食えそうな動物がいたとしても、エンカウント率が低すぎる。川も見えないから水や魚の心配もあるし、何より異世界に来て最初に食べるものが草とか俺は嫌だ。俺はバッタじゃないんだぞ。

 というわけで残された選択肢はひとつしかありません。必然的に森の方向へ進むというわけだ。森は大型動物とか、毒のある虫や植物もいて危険だろうけど、少なくとも木の実とか小動物みたいに食べるものはありそうだ。木が生えてるってことは水もあるだろうから、川も期待できる。飲食できずに干からびて飢え死にするよりは、まだ多少の危険を孕んでいてもメリットが期待できる森に行ったほうがいいだろう。


 そもそもなんでこんな町や家はおろか木も川も何も無い、それこそあるのは草と空気くらいのどうしようもないところに今俺がいるのかと言えば、ひとえに萩本さんのせいだ。嘘です。萩本さんは何も悪くない。悪いのはこの宇宙の法則です。創造神出てこい。

 というのも天界から地上へ人や物を降ろす際には、細かい送り先の指定とかはできないらしい。それこそ、直近に命の危険があるような、生存や保存に適していない場所(空中とか海中、地中など)を排除する、みたいに抽象的な条件指定しか出来ないらしい。だからどこに降り立つのかは完全にランダムで、川の近く、とか○○国のどこどこ、みたいに具体的な指定は無理なんだそうだ。使えねぇ……。

 実際使えないとボソッと呟いたら、それが聞こえたらしく(まあ心読めるもんな)萩本さんがさらに落ち込んでいた。慌てて謝っといたよ。萩本さん、ちょっとネガティブだけど可愛いね。


 てなわけで俺は森の方角に向かって歩き出す。手荷物も何もない。あるのは通学時に着てたパーカーとジーンズだけ。身体も小さくなってるから、少しダボダボっとしてる感は否めない。目線もだいぶ低くなってるし、もし誰かに襲われたらひとたまりもないだろう。早く始原の力をうまく扱えるようにならなくちゃな。取り敢えず森に向かう道がてら、練習するのもありだろう。幸い誰もいないどころか何もないし、万が一何かをぶっ放すようなことになっても安心だ。まあどれだけチートなのかいまいちよくわかってないし、ちょっとずつ確認していくこととしましょうかね。


 俺は歩きながら体の奥の、強い力を意識する。とはいえ特に警戒するような危険もないので、意識の半分は先程の萩本さんとのやりとりを思い出したりしていた。




ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー



「これ元に戻れんの!?元の姿に戻せますかっ!!?」


 体が女になってるらしい。正直、死んでるって言われた時より驚いた。そのことを聞いて咄嗟に自分の体を見てみたけど、確かに女の体になってるみたいだ。全然気が付かなかった。まさか自分の体が女になってるなんて、普通誰も思わないもんな。人間、想定外のことには慌てて取り乱すもんなのだ。

 一応、念のためもう一回だけ確認してみたけど、やっぱり女だ。上はある。下はない。しかも上けっこうデカい。あっ、柔らかい。モミモミ。


「すみませんそれも無理です……。肉体に手を加えるのは魂への負荷が凄いので一度しか出来ないんです……」


 薄々感じてたけど、実はこの女神ポンコツなんじゃないだろうか。見た目は出来る女だけど、中身はそんなことなかったのかもしれない。


「申し訳ございません……!本当に就任したばかりで右も左もわからないような状態だったんです……うううっ」


 また泣き出した。これはもうポンコツ確定だ。いいね、ポンコツ美女。萌えるぜ。


「はぁ……、まあ次からなんかあった時、間違えないように気をつけてくれれば……」


「寛大なお心遣いに感謝します……」


 だって折角命が助かったのに、元の体に戻したら死んじゃうとか我慢するしかないじゃんか。地球に戻れなくなった。異世界に飛ばされることになった。何故か男を失い、女体化した。二度あることは三度あるというけど、にしてもこれは酷い……。


「チートもう1個追加ね」


「はい」


 もう1個のチートはまた思いついた時ということで別の機会に。

 というか体が女になったんだとしたら、本人確認出来ないんだから日本に戻っても行方不明扱いのままじゃんか。もし身近な人達が俺本人だって気づいてくれたとしても、7年経ったら法的に死亡扱いになるのは避けられそうもない。

 うーん……、もし仮に帰れる算段がついて、地球と異世界を自由に行き来できるようになったとしても、これは場合によっては本格的に生活の拠点をこっち側に移したほうがいいのかもしれないな。男が女になりました、って単純に言うけど日本にいたら色々手続きとか面倒くさそうだ。性転換手術とはわけが違う。顔つきや骨格、身長も変わってるし、それこそXY染色体がXX染色体に変わったレベルで変化しちゃってるんだから、遺伝子も僅かに変質してるだろう。とはいえ別人の肉体になったというわけでもないらしい。どことなく男だった時の面影も残してるし、鏡(萩本さんが出してくれた)を見ても俺だって直感でわかる。多分日本にいた時の俺が見ても俺だってわかるんじゃないのかな?まあ、萩本さんの説明的には、俺がもし女として生まれてたらこうなってた、って考えればいいみたいだ。にしても結構可愛いな。我ながら少しドキドキするぜ……。

 まあ日本での影響とか、そういうことはおいおい考えよう。まずはこの世界でどうやって生き延びるかだ。それから戻る手段を探して、それが見つかったら考えればいい。

 先は長いな。でもやるしかないんだよな。俺は帰る方法を見つけるぞ。絶対に地球に帰ってやる。人間が想像することは必ず実現できるって言われてるんだ。不可能じゃない筈だ。きっと。


「じゃあ俺、頑張ります。……ってさっきも同じこと言ったけど」


「あはは。……きっと見つかりますよ。だって創造神様と同じ力を持ってるんですから」


「そうかな?まあ、やれるだけやってみます。なんなら異世界で成り上がってみるのもありかもしれないですね。地球に戻る方法を探すのにも、権力はあるに越したことはないでしょう」


「応援してます。心の中で強く呼んで下されば、いつでも私と会話できるようにしておきますから」


「本当ですか?それは助かります!」


 なによりいつでも美女と会話できるってのがいいね。美女との通話、昔っから憧れてたんだ。色々愚痴とか聞いてもらおう。そんくらいいいでしょ、なんでもするって言ってたし。


「全然構いませんよ。私だって一人の夜が寂しいこともあるんです」


 素晴らしい。萩本さんは独り身のようだ。こりゃ狙えるな。少なくとも人類連中の中では一番先頭にいると思っていいだろう。はっはっは!


「忘れないで下さいよ、今はあなたもその()()の一員なんですからね」


 そうだった。あっちの世界に行ったら色々気を付けないと。まずは身を守ることから始めなきゃな。


「じゃあ行ってきます」


「はい。ご健闘をお祈りしています」


 萩本さんが心配したような顔でこっちを見てくる。俺は少し微笑んで見返した。なあに、大丈夫だ。絶対見つけ出してやるさ。萩本さんが責任を感じるような終わりにはさせやしない。地球の皆だって、悲しませるようなことはしないさ。


 やがて俺の体が光に包まれる。その光の眩さが頂点に達した時、俺はフワッとした浮遊感を味わい、意識を失った。




 景が行った後、一人残った白い空間で萩本は思う。

 確かに彼は始原の力を手に入れた。宇宙開闢(かいびゃく)以来、創造神様しか持っていなかった唯一無二の力だ。不可能をも可能にするだけの力がある。……あ、そういえば今は彼じゃなくて彼女だった。でもそれ言ったら怒るだろうなぁ、私のせいだし……。あとさっきの微笑み、女なのにめちゃくちゃかっこよかったな……。

 ま、まあそれは置いといて。でも彼はそれだけじゃない。創造神様にあれだけの関心を寄せられるような人だ。きっと何か()()()()んだろう。私が原因で起こった今回の事件だけど、天界の中でもそこそこ立場が上の方である私の知る限りでも、元の世界に帰る方法は存在しない。多分創造神様でも今すぐには無理だろう。何千年、何万年もかければ或いは可能化もしれないけど……、でもその頃にはもう彼の親戚や友人達は生きてはいまい。半神に昇格した彼自身だって生きてるかどうか微妙なほどだ。

 けど、彼なら。神坂景ならもしかしたら地球に帰る方法を見つけ出す……、いや、()()()()かもしれない。私なんかじゃあまり力になってあげられないかもだけど、精一杯手助けしよう。償いの意味も込めて、やれることは全てやってみせる。だからどうか、彼には幸せになってほしい。どうか、うまくいきますように。

 萩本は胸の前で手を組んで祈る。その手が離れた時、そこには誰もいなくなっていた。

次回あたりから能力使いだします。

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