魔力生成炉
久しぶりに萩本さん登場です。
信者と化したアデルを連れて街に帰った俺は、宿に戻って一休みすることにした。今日は色々やったので少し疲れた。アデルも色々と精神的に疲れたのか、俺の横で既にすやすやと寝息を立てている。
聞けば、牢屋に閉じ込められていた数年間はベッドなど与えてもらえていなかったらしい。藁と布を敷いたような粗末な寝床で寝ていたようだ。
俺はそれを聞いて本当に怒った。もう絶対簒奪者達をぶっ潰してやる。アデルを優しく抱き締めてから柔らかいベッドに入れてあげると、アデルは赤面しながら眠りについていた。
さて、アデルも寝ていてすることも特に無い。俺は現状報告も兼ねて、久しぶりに萩本さんとお話しすることにした。
天界にいる萩本さんに電話をかけるイメージで、心の中で語りかける。
「(萩本さん……。萩本さーん……)」
ややあって、応答があった。
「……はい、聞こえていますよ。こちら萩本です。お久しぶりですね」
脳内に直接、萩本さんの声が響く。多分アデルには聞こえていない。
「(お久しぶりです)」
最後に連絡取ってからもう1週間くらい経つかな。なんだかんだでなかなか連絡を取れていなかった。
「(萩本さん、今ちょっといいですか?)」
「はい、なんでしょう」
「(俺のステータスで少し気になるところがあるんだけど)」
「気になるところですか?」
「(うん、ええと、俺の魔力のことなんですけど。こっちの世界で何回か魔法を使う機会があったのに、まだ一回も魔力切れみたいな状態にはなったことが無いどころか、いくら技能を使っても全く疲れないんですよね。ステータスには魔力が無限って表示されてるし、不思議に思ったんです。この魔力無限ってどういうことなんですか?)」
俺の無限にある魔力の出所はどこなのか。それが知りたい。
「ああ、その件ですか。すみません、伝え忘れていたみたいです」
萩本さんはうっかりのミスをよくするタイプの人みたいだ。能力はあるんだろうけど、ケアレスミスとかは無くせないタイプの人なんだろうな。まあ致命的なミスはあんまりやらないんだろうけどね。俺の時みたいなのは稀なんだろう。
今回の魔力無限の件に関しては俺もマイナス方向に傾くとは思ってないし、実際萩本さんの様子から言ってもそんなに深刻な問題だとか、そういうことはないみたいだ。
「(というと?)」
「ええとですね、転生する際、神坂様に始原の力をお渡ししましたよね」
「(うん)」
「実はその時にセットで一緒にお渡しした異能があるんです」
「(それが魔力無限?)」
「はい。正式には魔力生成炉といいます。説明が無くてすみません」
「(でもどうして魔力が無限なんですか?)」
いくら天界からのサービスとはいえ、魔力が無限だなんて大盤振る舞いだと思うんだよな。
「理由を申し上げますと、始原の力に必要不可欠だからです」
「(始原の力?)」
「はい。そのためにはまず、魔力の在り方からお伝えしなければなりませんね」
そう言うと、萩本さんは一拍置いて話し出した。
「魔力は、もともとは全宇宙に満ちていたものでした。創造神様がこの宇宙をお創りになられた時に、この宇宙全てに行き渡らせたと言われています」
なんと、地球ではビッグバンによって始まったとされる宇宙の成り立ちにまで話が飛んでしまった。
「(その割には地球にいた頃には魔力なんて感じ取れなかったんですけど)」
全宇宙に魔力があるのなら、地球にも魔法使いがいそうなものなんだけどな。生憎俺の知る限り魔法使いと呼ばれる存在はいなかった。三十年もの間、孤独に耐えてらっしゃる彼らは別です。
「ええ。今はもう地球にはほとんど魔力は残っていませんから」
「(今はってことは……)」
「はい、ご想像の通りです。その昔は地球にも魔力は存在していたんですよ。そして、魔力とは創造神様の御力そのものなんです。……と言っても始原の力のように直接的な能力ということではなくてですね。人々の願いや想いを叶えるための神からの贈り物みたいなものですね。ですから技術の発達していない古代の農業には、水を降らせる魔法使いや呪術師が活躍していました。現在でも神話などに残っていますが、当時世界に満ちていた魔力を自在に操ることの出来る人間は、神の使いや王として、人々の頂点に立っていたようですね」
謎に包まれた古代人類の神秘の歴史が今明かされている……!
何というか、本当に神代ってあったんだな……。無神論者が発狂して叫び出しそうだ。逆にカルト教団なんかは大喜びかもね。
「事実は彼らの主張とはかけ離れていますけどね」
萩本さん、辛辣だな。
「……話を元に戻しますね。魔力のことですが、もちろん天界のリソースも無限ではないので、文明が発展するのと共に天界からの干渉も減っていきます。手助けが必要な段階を脱した世界は、言い方は悪いですけど放置……よく言えば自立したってことですかね。地球などがこの段階に当たります。死後の世界はともかく、現世と言われる世界はほぼそこに住まう人類の手に委ねられているのです。そうして天界の手を離れた世界に割いていた分のリソースを、まだ新しい世界に割いて、また新しい世界が生まれる。それの繰り返しです。何度も何度もそれを繰り返して、だんだんとこの宇宙は大きくなってきました」
「(なんだか……物凄いスケールの話ですね……)」
「私も天界に就職したばかりの時は、明かされた様々な秘密に驚かされたものでした。今ではもう慣れたものですが」
初々しい萩本さんも見てみたいもんだな。新鋭のエリアマネージャーとはいえ、エリアマネージャーとしてはまだ新人だから捉えようによっては初々しいと言えるのかもしれない。萩本さんぽんこつだしな。
「やめてください!」
可愛い……。
しかしどうも気になる部分があるな。何で創造神はまた新しく魔力を生成しないんだろう。
「それは宇宙がかつてとは比べ物にならない程巨大化したからですよ。現在でも創造神様は新しく魔力を生成なさっていますが、宇宙の膨張する速度に追いつかないのです」
萩本さんお得意の読心術が炸裂した。なるほど、そういう裏事情があったのね。それにしてもどうも不意打ちには慣れない。
「申し訳ありません。天界に送られてくる人間の内面を見るという役職的にも、この能力の発動はデフォルトなのです」
「(隠し事できませんねー)」
神々(厳密には俺と同じく半神らしいけど)相手にプライバシーなど意味を持たないらしい。
「申し訳ありません……。ですがこうして直接念話でもしていない限り発動することはありませんので」
なら別に良いかな。
「ちなみにこうした特殊能力も魔力によって賄われているのですよ。これは始原の力も例外ではありません。どんな能力も基本的に魔力をエネルギーにして発動しますから。始原の力を創造神様の御力という風に表現したのには、そういう意味もあったのです。元々始原の力と魔力は二つで一つの、切っても切り離せないものですから」
「(そうだったんですね)」
「そして始原の力の発動には莫大な魔力が必要ですからね。神坂様のいらっしゃる世界の分の魔力を喰らい尽くされても世界の運営に支障を来すので、創造神様が特別に手配なされたようですよ」
そんな裏事情が……。まあその裏事情のお陰で俺は魔力無限なんていうチートを手にしているんだから、文句は言えないけどね。
兎にも角にも、異世界に転生してから俺を悩ませてきた魔力無限の理由もはっきりした。根拠不明の力ほど不気味なものも無いからな。これで心置きなく魔法をバカスカ使えるというものだ。
「自重なさって下さいね。自然破壊などされては困りますよ」
萩本さんが注意してくる。
「(努力しますよ。まあ破壊願望も無いし大丈夫だとは思いますけどね……)」
「そこは自信を持って大丈夫だと仰って下さい……」
萩本さんとの会話は楽しいね。同じ元日本人同士、馬が合うところがあるのかもしれない。もっとも萩本さんが日本人だったのは相当昔のようだけど……。
「何か仰っいました?」
「(何でもないよ!)」
見た目は若いから! 可愛い可愛い。
萩本さんとの会話を終えた俺は、今度こそ眠りにつくのだった。もちろん寝る時にアデルを抱き締めることも忘れない。
アデルは柔らかくて小っちゃくて可愛い。俺よりも小さい子なんて珍しいからな。
アデルの抱き心地に満足しながら、俺は眠りに落ちていくのだった。
出来る美女 (ぽんこつ)って良いですよね。字面だけ見ると矛盾してますけど、有能なぽんこつって萌えるんです。好き。




