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「撃」上花火

 泣き止んだアデルが、俺の腕の中で身じろぐ。流石にほとんど初対面の人間に泣いてるところを慰められて、恥ずかしかったのかもしれない。俺としては役得なんだけどね。

 名残惜しく感じつつもアデルを放してあげると、アデルは顔を赤らめて身を引いた。


「す、すみませんいきなり……」


「俺のほうこそ勢いで抱き締めちゃってごめん……」


 お互いに謝罪しあう謎の空間が出来上がる。とはいえ誰も悲しんでいないのでwin-winだ。


 さて、アデルを助けると決めたわけだが、まずどうしようか。


「アデル、俺はお前を助けると言ったけど、アデルはどうしてほしい?」


「どういうことでしょうか?」


「世捨て人のように隠遁生活を送りたいのか、それとも大手を振って普通に生活出来るようになりたいのかが知りたい。アデルが刺客とか伯爵家の人間を傷つけたくないなら隠遁生活でもいい。でも、そんな奴らなんて知らないというのなら、応戦する形にしたい」


 そう言うと、アデルは驚いた顔をする。


「応戦って……。そんなこと出来るんですか?」


「さっき、貴族だろうが何だろうが跳ね除ける力があるって言っただろ?」


「で、でも……」


 まあ実際に戦ったところを見せたわけじゃないし、なかなか信じられないのも当然だよな。さっきは上から飛び降りてきただけで、アデル自身気が動転してたからその異常性にも気付いてはいないだろう。


「証拠を見せてあげるよ」


 俺は人差し指を立てて、指先にピンポン玉サイズのファイヤーボールを生み出す。


「魔法ですか?」


 このくらいの魔法なら誰でもってほどではないが、そこそこ多くの人間が使えるらしいのでアデルにも驚きは少ない。


「まあ見てな」


 少し近所迷惑になるけど……、まあ仕方ないよね。誰がやったかバレなければ問題はない。ただの不思議現象だと思われるだけだろう。


 俺はファイヤーボールにどんどん魔力を注ぎ込んでいく。それに比例してファイヤーボールは大きくなろうとするが、魔力コントロールを駆使してピンポン玉サイズに押し留めておく。

 やがて臨界点を超えそうになったファイヤーボールを、空に向かって一気に撃ち出した。


 解き放たれたファイヤーボールは一気に上空へ突き進んでいく。そしてーーー


 ーーーードオオオオォォォォンッ!!!ーーーー


 大きな打ち上げ花火が空で花開いた。厳密には色も模様も何も無いただの巨大な火球だけどな。

 遥か高空で直結数百メートルに渡って爆発したファイヤーボールは、その衝撃派をここ、ヴァルツィーレの街にまで届かせた。街全体に温かい風が強く吹き付ける。


「きゃあああああっ」


「うわあああっ! 何だあれは!?」


「た、太陽が落ちてきたっ!」


「悪魔の襲来だ!」


「馬鹿者! 神がお怒りになられたのだ!」


「ワンワンワンッ!」


「うわあぁーーん! お母さーん!」


 街が阿鼻叫喚の地獄絵図(皆ただ音と光に驚いているだけだから! だれも死んでないから!)に変わっていく。

 ……ちょっとだけやり過ぎたかな?


「……………………へ?」


 アデルは理解が追いつかないというような顔をして、呆けていた。あまり間抜けな印象を受けないアデルにしては珍しいな。貴重な表情だ。

 それにしても思ったより威力が出たな。アリアナ大森林で練習した時よりも魔力をずっと多く込めたから、威力は相当上がるだろうとは思っていたけど……。この威力を直接ぶつければ、ヴァルツィーレの街一つくらいなら余裕で吹っ飛ばせそうだ。

 どうやら俺には、既に今の段階で街一つを余裕で滅ぼせるだけの力があるらしい。くれぐれも自重するようにしよう。少なくとも戦闘に関しては絶対に気をつけよう。俺はまだ人間を滅ぼす魔王にはなりたくないからな……。


 そんな俺の内心の反省をよそにずっと呆けていたアデルだが、ようやく再起動し出した。まだいまいち現実を受け入れきれていないみたいだけど、取り敢えず話が出来る程度には復活したようだ。


「な? 貴族の100人や200人、敵じゃないだろ?」


 説得出来たか甚だ不安だけど、証拠としてはこれ以上ないものだろう。


「こ、神坂様は神様だったのですか……?」


「か、神様って……」


 確かに俺は半神半人だ。厳密に言えば神そのものでは無いんだろうけど、否定することも出来ない。そもそも神なんて創造神以外にいないんだしな。一般的に神だと思われてるのは天界職員達、つまり存在の格としては俺と同じような人達だ。


「神……様…………!」


 あ、否定しなかったら神だと思われたまま受け入れられた。ヤバイぞ、新興宗教が生まれてしまう。信仰対象は俺です。


「ま、まあ普通の人間として扱ってくれて構わないから! ほとんど人間みたいなもんだから!」


「やっぱり神様だったのですね! 私、天には見離されていると思っていましたが、まだ女神様は私に微笑んで下さるのですね……!」


 目の色がヤバイぞ。好感度&信仰度チェッカーがあれば見てみたいものだ。パラメーターを振り切っているに違いない。


「私、一生神坂様について行きます!」


「ちょっ、決断早いよ!」


 アデルは少し思い込みが激しい子なのかもしれない。






「さて、これで俺が貴族だろうが何だろうが、問題なく倒せるということがわかってくれたと思うんだけど」


「はい」


「改めて訊きたい。アデル、お前はどうしたい? やっぱり反撃してでも自由に暮らしたい? それとも田舎でバレないようまったりスローライフを送りたい?」


 俺的にはスローライフでも有りだ。異世界転生したらやってみたいことリストの中に入っているものの一つだし。それに地球帰還のための情報収集は俺単独でやればいい。高速移動手段を開発すれば、別に難しい話でもないだろう。


「私は……家を、乗っ取られた伯爵家を取り戻したいです!」


「取り戻すとな」


「はい。お父様を死に追いやり、私のことも消そうとした簒奪者達の好きにさせたくはありません。今までは力が無く諦めていましたけど、もし取り戻す手段があるなら私はそれに賭けたいです」


「なるほどね。それは武力行使も辞さない構え、と捉えていいの?」


「はい。徹底的に叩き潰したいと思っています」


 大人しそうに見えて、意外と物騒なことを仰るな。


「わかった。全力で力を貸そう」


「ありがとうございます! ……それと、お一つお願いがございます」


 アデルが真剣な表情をして言う。


「何?」


「私に……力を下さい。貴族でも何でも、倒せる力を。もう何からも逃げなくてもいいように戦う力を下さい!」


 驚いた。ずっと閉じ込められていたアデルは、継母達にトラウマを抱えてる筈なのに。それを克服したいと、自分から言ってきたのだ。やっぱり彼女は強い。俺なんかよりずっと強い。

 奇しくも、この世界に転生することになった時の俺と同じような台詞を口にするアデルに、何だか共感を覚えた。幸せな家庭でぬくぬく育った俺には、本当の意味で共感する資格なんて無いんだろうけど。

 力を授ける、なんて出来るんだろうか。不安ではある。彼女を助けると言っておいて、力を授けてやれないなんてことになるかもしれない。でも始原の力は万能だ。やってみなきゃわからない。


「わかった、やってみよう。……でもその前に、宿に戻ろう。ここじゃ何となく落ち着かないだろ」


「でも……、見つかったりしませんか?」


 俺と一緒にいれば大丈夫と頭ではわかっていても、まだ怖いという気持ちは残っているんだろう。不安そうな顔をしてアデルが訊いてくる。


「大丈夫。見つからない道を選んで通るから」


 俺にはマップがあるからな。俺とアデルに敵愾心を持っている人間はマップで赤色に表示される。それを避けながら行けば見つかることなく宿に戻れるだろう。


「わかりました。神坂様が出来ると仰るなら出来るのですね」


 先程の神様云々の辺りからアデルの信頼が重い。


「ま、まあね……。それと、俺のことはあきらでいいよ」


「わかりました。これからは景様とお呼びさせていただきます」


 打ち解けても、堅苦しさは抜けないアデルだった。

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