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コーディネートは、こうでねーと

※スカートなんて論外とか言っておきながら思いっきりスカートを購入していたので、買ったものをコルセットスカートからコルセット風パンツに変更しました。

 異世界に転生して一週間が経った。今日でもう二週目か。

 雨戸から射し込んでくる朝日を浴びながら、そんなことを思う。体感で1時間ほど前に鐘の音が聴こえてきたから、多分今は朝の7時くらいだろう。鐘の音はきっと早朝の刻を伝える鐘だ。この世界にはまだ正確な時計なんて普及していないから、正確な時刻を知るには街の中央広場にある影時計か、決まった時刻に鳴る鐘の音を聞く必要がある。昨日少しだけ街中を歩いてみて気づいたことだ。

 冒険者ギルドにも、宿屋のロビーにも自分の泊まっている部屋にも時計は置いていなかった。冒険者ギルドは中央広場のすぐそばにあるので、たまたま影時計が目に入ったというわけだ。

 いくら時計が精密機械だからと言っても、街の発展度合いから察するに、この世界の技術力なら比較的簡単なものだったら別段製作不可能じゃないと思うんだよな。もしかしたらどこかの誰かがもう既に作っているかもしれない。魔法なんていうファンタジーな力の働く世界なんだし、それくらいはあっても良さそうだ。


 さて、そんな風に考え事をしていたら完全に目が覚めたので、朝食を食べに行こう。昨日受付の子に()()見られているので、ちょっとばかし顔を合わせ辛いところも無いわけではないけど……。ええい、俺は客だ! あの子とはあくまで客と従業員のビジネスライクな関係なんだ! 相手はロボット! じゃがいも! 従業員には顧客の情報を守る守秘義務がある!

 よし、大丈夫だ。何も恥ずかしいことなど無い。さあ、朝食をいただくとしよう。


「おはようござ……あっ」


 降りて早々に受付の女の子がこっちを見て顔を赤らめる。いやぁ、これは完全に意識されてますね……。無かったことには出来そうにもないので、むしろ開き直って堂々とすることにする。


「あっ、えっと、ちょ、朝食にしますかっ?」


「うん。いただくよ」


「は、はいっ、お好きな席に座って待ってて下さいっ」


 そう言って女の子はぴゅーっと逃げるように厨房のほうへ引っ込んでしまった。なんかすごい避けられている。忌避するというよりは、恥ずかしくて目を合わせられないみたいな……。

 気にすまい。あの子の教育には悪いだろうけど、いつかは君も通る道さ……。


 朝なのに黄昏れているとかいう字面だけ見ればわけのわからない状態で一人、孤独に耐えながら待っていると、コンソメのいい匂いを漂わせながら料理が運ばれてきた。今日の朝食はパンにスープに肉と野菜の合わせ物。さっぱりしていて美味しそうだ。けどやっぱり昨日も今日も卵料理は無かった。卵、高級品なのかもしれないね。いつかは食べたいな。



 朝食を食べ終えた俺は、早速街の探索をしてみることにする。

 昨日来た時には既に日も暮れかけていて、十分に観光することが出来なかった。天気もいいみたいだし、今日いっぱいは街の観光と洒落込むこととしよう。折角冒険者になったんだし働くのも必要だけど、今日は観光すると決めた。明日から頑張る。


 特に手荷物も無いので、部屋に戻ることなく俺は宿を出る。外は多くの人間が行き交っていて、朝から賑やかだった。

 異世界の人は朝が早いな〜。夜に起きてることが少ないから、必然的に朝も早いんだろう。太陽と共に生きる、健康的な生活だ。日本にいた頃の俺と真逆のスタイルだな。日が昇ったら布団に入り、日が暮れる頃に起きだす生活が懐かしい。かく言う俺も、今朝は朝日と共に早起きだ。超健康的で我ながら惚れ惚れしちゃう。


 さて、探検とは言ったものの、完全に無計画というわけではない。まずは服を買いに行こうかと思っている。いくら水生成で洗えるからと言って、着た切り雀は嫌だからね。冒険者の活動もあるし、動きやすいよう機能性を確保しつつ、それなりに見栄えする服を探そう。

 それにしても人が多いな。流石に渋谷のスクランブル交差点ほど多いわけじゃないけど、地方都市の駅前くらいはいるんじゃないか?

 大小、そして人種まで様々な人並みを眺めながら俺は朝の街を散策する。この人達は皆どこかへ働きに行くんだろう。ご苦労なことだ。俺は早く権力を手に入れて労働から解放されたい。


 昨日の夕方には色んな露店が軒を連ねていた広場では、朝の市のようなものが開かれていた。よく東南アジアとかで見かけるような、道のど真ん中で露店を出すようなことは無いので通行の邪魔にもならない。広場に入るのもモノを買う人だけに限られるから、買いたい人も人混みに流されたりすることもない。目当ての商品も見つかりやすくなるだろうし、とても機能的だ。

 思ったよりこの街の文化は発展しているみたいだ。行政がしっかりしているのかもしれない。ヴァルツィーレの領主、やるなぁ。


 朝市に売っているのは食料品ばかりで、流石に服は売ってなさそうだ。でも美味しそうな果物とか加工食品が沢山売られていて、どれも目を惹くものばかりだ。

 夕方の屋台が出来合えの食事なら、朝の露店は料理の材料とか保存食っぽいものが主流みたいだ。それぞれターゲットが仕事帰りの労働者、家事や食料品の買い出しに来た主婦ってところかな。現に、昨日の夜は男の人が多かったのに対して、今は女の人が多い。まあ、俺みたいなどっちでもなさそうな人間もそこそこいるんだけどね。

 さて、俺も何か買ってみよう。幸い俺には「無限収納」があるし、「無限収納」内は時間の流れを操作出来るから放置したところで腐らせる心配もない。買える時に出来るだけ買っておくと、旅をしている時に食事の心配が要らなくなるからな。「無限収納」、超便利だ。インフラも店も心許ない異世界の旅には必須だね。

 取り敢えず俺は直感の赴くままに、美味そうな果物や干し肉、腸詰めなどの加工食品を好きなだけ買っていく。もちろん「鑑定」を掛けながら買っているので衛生状態のよろしくないモノや、怪しいモノを掴まされたりする心配は無い。それにしてもこの「鑑定」って実に良い技能だよな。悪徳商売人殺しと言っても過言ではない。地球に帰ってからも相当役に立ってくれることだろう。

 「言語理解」と「鑑定」、「無限収納」さえあれば地球だろうが異世界だろうが商人チート出来ること間違いなしだよな。株式会社を経営するにはワンマン体質過ぎる技能だけど、個人の範囲で活動するならボロ儲け確実だろう。大学も入学したはいいものの、おそらく中退か死亡扱いになるんだろうし、帰ってから大学に入り直すのも色々とややこしい。生活の当てがあるのはいいことだ。……技能は、地球に帰ってからでも使えるんだよね? 一応、今夜あたりにでも萩本さんに訊いてみよう。最近連絡してないし、久し振りに話すのもありかな。


 しばらく買い物を楽しんで、十分なほど食料品を手に入れた俺は広場を離れて服屋を探すことにする。広場にあるほとんどの店の商品を大量に買ったため、露店の人達にめちゃくちゃ注目された。周りの客もどれだけ買うのかと驚きの目でこっちを見ていた。買ったものは即「無限収納」に閉まったので、手持ちの荷物自体は無い。

 一応、途中で魔法の鞄が安く売ってたので、カモフラージュのために買っておいた。あんまりに安かったから多分店の人はただの鞄だと思っていた可能性が高い。「鑑定」に表示された相場から異常にかけ離れた値段だったからな。買わない手はない。とは言っても容量は90Lくらいしか入らないみたいなんだけどね。それでもポーチサイズでそれならいい買い物だ。


 広場中から聞こえてくる「毎度あり」の声を背にして、俺は表通りに出る。これだけ広い街だし、その内服屋くらい見つかるだろう。


 広場を抜けて、5分くらい歩いたところで服屋らしい店を発見した。入り口に看板が掲げられていて、服らしき絵が描かれていたからすぐにわかった。

 中に入ると、案の定沢山の服が置いてある。男ものから女ものまで、幅広い層の客に対応出来そうな立派な品揃えだった。


「いらっしゃいませ。本日はどのような服をお求めでしょうか?」


 愛想の良さそうな若い女の店員さんが近づいてくる。


「動きやすくて頑丈な、少し上質な服を何着か。あと部屋着として薄くて着やすい服も何着かお願いします」


「かしこまりました。しばらくお待ち下さい」


 そう言って店員さんが引っ込んでいく。服を探してるんだろう。しばらくして店員さんが大量の服を抱えて帰ってきた。そんなに買う客いるの!?


「お待たせしました。取り敢えずこの中からいくつか選んでみて下さい。お気に召されたようでしたら、お包みいたしますよ」


 なるほど。あの中から選んで買うわけだな。そりゃ選択肢は多いほうがいいもんな。


「取り敢えずこれを見せて下さい」


 そう言って手触りの良い上品な感じのトレーナーを選ぶ。ズボンは少し余裕があるタイプのものを選んだ。チノパンみたいに体の線がはっきり出るようなものだと、若干動きにくそうだからな。当然、スカートなんて論外だ。見えたらどうする。俺はそう簡単に見せはしないぞ。野郎に見せて喜ぶ趣味も無いしな。それにまだスカートを履く勇気なんて無い……。


 その後、勧められるままに童貞を殺しそうなブラウスやコルセット風パンツ、色合いと風味が気に入ったコートや下着類などを複数購入して店を出る。下着類は地球のようなものからドロワーズっぽいものまで色々あったので、取り敢えず一通り買っておいた。自分に合ったものを使うことにしよう。

 服は地球のデザインに勝るとも劣らない良いデザインばかりで、とても気に入った。いい買い物をしたな。

 それにしても、お勧めされた服でサイズの合わない服が一つも無かった。俺自身まだ新しい体のサイズ感に慣れていないというのに、あの店員さんは俺にジャストフィットするやつばかりを持ってきていた。おそるべし、店員さん。俺の色々なサイズを目視で完璧に把握するとは……。


「ありがとうございました! またお越し下さい!」


 沢山買った俺は良客だもんね。店員さんの嬉しそうな声を聞きながら、俺は街の観光を再開するのだった。

現代だと少し浮いてしまうような服でも、異世界なら浮きはしないと思うのです。……良い。

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