親父にも見られたことないのに
トルティーヤ食べたい
晴れて冒険者の身分を手に入れた俺は、堂々とした気分で宿に向かって歩いていた。今までは在留資格の無い、いわば流れ者だったわけだけど、今の俺は冒険者ギルドという公の組織にその身分を保証された歴とした市民なのだ。これで今夜の宿に困ることはない。やっぱりどこの世界でも身分証は大事なんだな。
もう日も落ちて、だいぶ暗くなってきたヴァルツィーレの街を歩きながら、花の丘亭を目指す。夕食の時間もそろそろ終わり、人通りも少なくなってきた。歓楽街があるならもう少し遅くまで賑わってるかもしれないけど、生憎とまだこの街に来たばっかりの俺には歓楽街の場所はわからない。何より、男の時ならいざ知らず、女の身では分別のつかない酔客のいいカモにされて終わりだろう。身の安全のためにも早いところ宿を確保したほうがいい。身を守るだけの戦闘力があるとは言っても、精神衛生上よろしくないからね。
さて、そんなことを考えている間に無事、花の丘亭に着いたようだ。表通り周辺ということもあって、この辺りは比較的治安がいいみたいだ。異世界にしては驚き。海外旅行なんかする時には絶対に夜の一人歩きはしちゃいけないなんて言われてるから、いい意味で予想を裏切ってくれた感じだ。
「いらっしゃいませー!」
外は暗くてもそこは商売、花の丘亭の中は明るく賑わっていた。たくさんの客が賑やかに食事をしている。どうやらここの宿の一階フロアは、食堂になってるみたいだ。
「お食事ですか? それとも宿泊ですか?」
見た目的に地球なら中学生になりたてくらいだろう年齢の女の子が、食堂の給仕と宿の受付を兼ねているみたいだ。
「宿泊で。取り敢えず2日お願い」
何泊かはするつもりだけど、取り敢えずは2日分くらいでいいだろう。足りないならまた追加すればいい。
「かしこまりました。2日間で合計600エルになります。食事は朝と夕の2食がついてきます。メニューは選べませんのでご了承下さい。また、食事の時間も決まっていますので、遅れないようにして下さい。お風呂は当宿にはございませんが、サービスでお湯とタオルを1日1セットまでご利用になれます。何か気になる点はございますか?」
「日中とか、手を洗いたい時はどうすればいい?」
「お手洗いの前に水樽がありますので、そこをご利用になって下さい。使い方は、上の蛇口を捻れば水が出てきます。タオルなどはご自分のものをご利用下さい。他に何かございますか?」
「いや、大丈夫だよ」
「ありがとうございます。600エルになります」
「大銀貨でお願い」
受付の子に1000エル大銀貨を渡して、お釣りに400エル返してもらう。
「今ならまだ食事が食べられますが、いかがなされますか?」
「食べるよ。よろしく」
「かしこまりました。お好きな席に着いてお待ち下さい」
俺は奥のほうの空いている席に座って食事が来るのを待つ。
さっき食べたタルテヤ? あれはおやつだ。
しばらくすると席に食事が運ばれてくる。メインは深めの皿に入った肉野菜たっぷりのシチューらしきものだ。それに加えてフランスパンのようなものとコンソメスープのようなものがくっついてきている。ホテルで食べる夕食にしては少し質素だけど、一人暮らしの賄いだと思えばそれなりに豪華に思える。十分美味しそうだ。
「いただきます」
誰が聞いてるわけでもないが、習慣で手を合わせてから食べ始める。
うん、うまい。
やっぱりこの世界の飯は基本的に美味いと思っていいな。運が良かっただけかもしれないけど、まだこの世界で不味いと思うような食事に出会ったことはない。幸せなことだ。
食事を終えると、さっきの受付兼給仕の女の子がお水のおかわりと、部屋の鍵を一緒に持ってきた。礼を言って、一息ついてから部屋に行くことにする。
それにしてもあの子、中学生くらいの見た目なのに言葉遣いとか、接客の態度とかがものすごい丁寧だよな。間違いなく一流ホテルの第一線で働けるレベルだ。ここの宿の子なんだろうか……。やっぱりいい宿ってリルに紹介されるだけのことはあるな。食事も美味しいし、気に入った。しばらくここに滞在しよう。
部屋に入った俺は、ベッドに寝転がって今の状況を整理する。
まず、俺の現状での目的は二つ。
一つは、地球に帰る方法を探すために、旅をして色々な情報を集めること。
もう一つは、それを邪魔されないように、そして情報を探すのに役に立つよう強くなることだ。戦闘力だけじゃなくて、権力だってあったほうがいいだろう。
それと、必要性はそれほど高くもないけど、やっぱり異世界を旅する上でずっと一人でいるのは少し寂しい。一緒に旅に出る仲間も是非欲しいところだ。とはいえ俺の場合、出自とか身の上にはだいぶ複雑な事情も絡んでいる。万が一異世界人が忌避されたり、はたまた利益に目が眩んで権力者が襲ってくるような世界だったら絶対にバレるわけにはいかない。だから一緒に連れて行くのはもちろん、絶対に裏切らないような人間に限るだろう。
そう考えると奴隷なんてのもいいのかもしれないな……。
そう、実は冒険者ギルドに向かうまでの道すがら、奴隷商と思しき建物を見つけたのだ。看板とかは小さかったので、パッと見た限りではわからなかったんだけど、商品と思われるものを運んでいるのをチラリと見かけてしまったんだよね。それで、もしかしたら……と思ったわけだ。
ちなみに、現代日本での教育を受けた人間としては生憎と言っていいのか、俺には奴隷制度に反対するつもりは全く無い。もちろん非人道的なことがいいと言うつもりはないけど、そうじゃなければ奴隷がいても構わないとは思っている。この世界には犯罪者や借金を抱えた人間をタダで生かしておけるほど社会全体に余裕が無いんだろう。最低限の人権とかを保証しつつ、こき使う方法があるなら合理的だとも思うわけだ。それにまあ、裏切らないってのは大きいもんな。
現状では奴隷を買うためのお金が全然と言っていいほど足りてないので、買うってわけにもいかないんだけどね。だから奴隷少女を手に入れるのはまだまだずっと先になるだろう。ただ、選択肢の一つとしては考えておいてもいいかな。
旅をしている内にいずれ仲間とも巡り会えるかもしれないし、取り敢えずのところは一人旅を快適に過ごせるよう自重しない方針でいこう。
さて、今後の方針が決まったところで。
今夜は久々の一人の時間だ。この世界に来て早一週間。ものすごい密度が高かったせいで、一か月くらいは経っているような気もするが、実際にはまだ7日しか経っていない。5日間出勤したのにも関わらず、土日を接待のゴルフに費やして疲れきった日曜日のサラリーマンもこんな気持ちなのかもしれない。
いや、そんなことを言うとサラリーマンに失礼だな。俺の場合リルと一緒だったわけだし……。可愛い女の子と数日間一緒にいて、同じ屋根の下で生活していたんだ。挙げ句の果て、お風呂まで一緒に入ったんだぜ。毎日がウッハウハだ。しかし唯一欠点を挙げるとすれば、それはプライバシーが無いことだろう。
何が言いたいかというと、つまりだ。めっちゃオ◯ニーがしたい。俺だって健全な男子大学生……おっと、今は女子だったな。大学生ですらないや。
まあそれは置いといて。……溜まるものは溜まるのである。……だって! 健全な若人がっ! 可愛い女の子と数日間同棲してムラムラしないわけがないだろ!
それにまだこっちの世界に来てから一度もそういうことは致してないんだ。女の体ってやつにも興味があるし、草原に放り出されてからの懸念だった生活の基盤も、こうして冒険者になることでしっかりと確保出来た。せっかく取れた自由な一人の時間だ。やることやらずにいられるかってんだ!
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…………っ! ……! ……!
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「あ、あの〜……。タオルとお湯を届けに来たんですけど……。お、お邪魔しましたっ」
気づいたら受付の女の子が部屋の扉の前で困ったような顔をしてこっちを見ていた。
何ということだ……。親父にも見られたことないのに!
……うん、諦めよう。そして現実を受け入れよう。
俺は女の子が置いていったタオルをお湯に浸して体を拭いた後、再び第2回戦を開始したのだった。
とても良かったです。
親に見られたことってありますか? 私はありますよ……




