冒険者の心得
分割したものを追加挿入しました。
「おほんっ……。それでは説明に移りたいと思います。よろしいですか?」
誤魔化すように受付嬢さんが咳払いをして、訊ねてくる。もちろん構わない。
「それでは説明させていただきますね。まず、冒険者にはランクというものが存在します。それはご存知ですか?」
「いえ、知らないです」
予想通りではあるけど。
「冒険者ランクというのは冒険者を保護し、かつ依頼の成功率を上げるために存在します。下はFから上はSまでありますが、これは依頼を受ける冒険者にとって、適切な難易度の依頼が受けられるよう判断するための基準となるものです。そのため昇級には複数回に渡って試験が課されることがあります。もちろん昇級毎に審査されるわけではありませんが、E級とB級以上の各級に上がる時には試験が課されます。この試験に合格しなければ上のランクには上がれませんので、頑張って下さい。ただ、試験には合格するまで何度でも挑戦することが出来るのでご安心を。コウサカ様はまだF級ですので関係が無いですね。そしてこの冒険者は自身の冒険者ランクに応じて受注出来る依頼に制限があります。具体的には自身の冒険者ランクの下二つからご自身のランクまでとなっております。また、現在の自分のランクと同じランクの依頼をこなさない限り、どれほど依頼を受けようとランクが上がることはありませんのでその辺りもご注意下さい。万が一依頼に失敗してしまった場合は、褒賞金の約一割分の違約金が課せられますのでご注意下さい。正規の手続きによって依頼の引継ぎがなされた場合はこの限りではありません。ただ、F級だけは他と少し違った制度になっていまして、F級は基本的に街や村の中でのみ行えるような雑用等が主な仕事内容となっています。戦闘を伴う討伐依頼などはE級からとなっておりますのでご注意下さい。それと、依頼には四種類ありまして、それぞれ常設依頼、臨時依頼、指名依頼、強制依頼となっております。常設依頼は例えばゴブリンやオークなどの討伐や一般薬草の採取などがあたります。次に臨時依頼ですが、これは例えば何処どこに何々という魔物が発生したからそれを討伐して欲しい、といった緊急の内容や、急に人手が足りなくなったから助けて欲しい、特殊な材料が必要だからこういう薬草を採取してきて欲しい、他の街へ行くから護衛をして欲しい、といったものが挙げられます。難易度に差が出やすいので、やや上級者向けの依頼となっております。三つ目に指名依頼ですが、これはそのまま、指名を受けた場合に発生する依頼という意味です。主に名前の売れてきた上級者が指名されることが多いですね。中級者以下でも知り合いなどから指名依頼を受けたりすることもありますので一概に上級者向けとは言えませんが、それでもその多くはやはり上級者です。指名依頼の利点は、褒賞金が比較的高額になりやすいということです。一定期間、まるまるその冒険者の労働力を買い取るわけですからね。依頼主の多くは富裕層か、そのためだけに長い時間をかけて金を貯めたような一般人です。金払いがいいのでなかなかに冒険者からも人気の依頼となっております。上級者になってくると、この指名依頼のみで生活している方もいるくらいです。依頼する側としても、どこの馬の骨とも知れない冒険者ではなく、自分の信頼する冒険者に仕事をしてもらえるので安心感が違います。難点としては支払いが高額なるくらいですかね。もちろん、この指名依頼は嫌だと思ったら拒否することも出来ますのでご安心下さい。そして最後に強制依頼です。これは主に冒険者ギルドが所属している街に敵国の軍隊や、魔物の群れが襲撃してきた時に一定以上のランクの冒険者全員に発令されます。これを拒むことは出来ません。万が一この強制依頼を断ると、冒険者資格の剥奪、その時点でギルド倉庫やギルド銀行に保有しているこれまでに冒険者ギルド経由で貯めた各種ポイントや特権、資産等が全て凍結となります。そして二度と冒険者になることは出来ませんので、よく考えて行動して下さい。冒険者と軍は、街と住民を守る最後の砦であり、最大の矛です。責任と自覚が必要となる、厳しくも尊敬される職業であることを理解して下さい。……長くなってしまいましたね。何か質問はございますか?」
「いえ、特に無いです」
「わかりました。また何かわからないことがございましたら、いつでもお気軽にお声をかけて下さい。パーティー編成に関する細かい規定などは冊子に纏めてある渡しいたしますので、後ほど目を通しておいて下さい。それでは冒険者カードをお渡ししますので、こちらの機械にお手を触れて下さい」
「はい」
指定された通りに機械に触れる。すると機械が光り出して、魔力を少し吸い取られる感覚がした。
「これは?」
「魔力をスキャンしています。本人に固有の波形を読み取ることで、冒険者カードが本人のものであるかを確認することが出来ます。冒険者カードは他人には使用出来ませんので再発行自体は可能ですが、その際には1000エルの手数料がかかるので失くさないようお願いします」
「わかりました」
便利なカードだなぁ。ここだけ見れば現代日本よりも先進的じゃないか。まあ日本には顔写真だったり、指紋認証だったり、静脈認証だったりと、他にも色々本人確認の方法はあるからどっちが優れているとは一概には言えないけどね。
魔力のスキャンにはまだもう少し時間がかかるみたいだ。
あ、そうだ。人が多い理由を訊くのを忘れてた。
「そういえば朝じゃないのに随分と混んでますね。どうしてですか?」
「それは依頼を達成して帰って来た方が多いからですよ。朝に依頼を受けて、仕事が終わり次第戻ってきて報告と素材の売却をするので、朝ほどではないにしてもこの時間帯はそれなりに混み合います。人混みが気になるのであれば、少し時間をずらして来て下さい。尚、冒険者ギルド自体は暮れの刻には閉まってしまいますので、ご注意下さい」
「なるほどね。わかりました。気をつけます」
ちなみに暮れの刻とは夕方6時のことだ。朝6時が明けの刻、朝9時が朝の刻、正午が昼の刻、午後3時が夕の刻で夕方6時が暮れの刻だ。夜9時は夜の刻、深夜0時は宵の刻と言うらしい。夜中の3時は影の刻と言うそうだが、一般的には使われていないようだ。まあ電気も無い(明かり自体は簡単なランプや魔石で光る魔道具があるけど、どれも少々高くてバカスカ使いまくるわけにもいかない)時代に、深夜3時まで起きてる奴もほとんどいないからな。全部、リルに聞いた。アリアナ大森林を探索中に。
「それではカードが完成いたしましたので、お渡しします」
「ありがとうございます」
早速カードを受け取る。青銅製で、少し重たい。
「E級に昇格すると、銅製になります。頑張って下さいね。昇格試験はいつでも受けられますので、お待ちしております」
「わかりました。近いうち受けに来ようと思います。これで全部終わりですか?」
「おしまいです。さて、これであなたも冒険者の一員です。これ以降、冒険者ギルドが貴方の身分を保証することになります。また、ランク応じて冒険者ギルド直営店や、ギルドと提携している店舗などのサービスを割安で受けることが出来るようになります。問題ないとは思いますが、冒険者ならではの特権もありますので、冒険者として節度ある行動をお願いいたします。特に、くれぐれも犯罪行為等はお止し下さい。強制依頼を断った時と同様、官憲とはまた別にギルドからも独自に制裁を科すことになります。大抵の方はそのようなことはなさらないのですが、一応規則ですので伝えておきますね。それでは私達ギルド職員一同、今後の活躍を期待しております」
「はい、わかりました。気をつけます」
この世界じゃ日本と常識が違うからな。日本にいた時のノリで普通に過ごしてたら知らぬ間に犯罪を起こしていた、なんてことももしかしたらあるかもしれない。ただまあ、リルから聞く限り日本と違うって言っても精々が細かい風習くらいのもので、基本的な倫理観に相違は無いし、現代日本よりも犯罪の基準は低そうだ。そこまで悪質なことをしなければ全然問題は無さそうではある。
「それでは今後とも是非よろしくお願いします」
「ありがとうございました。よろしくお願いします」
受付嬢さんと挨拶を交わす。そうして俺は街の在留資格と、冒険者の身分を手に入れたのだった。




