仕事探しはギルドへ!
50話でも述べた通り、ストーリー構成上の大失態を犯してしまったため急遽大幅改稿、今話と次話に分割で投稿します。
ヴァルツィーレの街は非常に活気のある大きな街だ。大きいと言っても、流石に現代日本の大都市みたいに何百万人もいるってわけではない。でも確実に万はいると思う。街の広さ的にも、もしかしたら10万人くらいはいるかもしれない。中世基準ならかなり大きいほうに入る筈だ。
そんなヴァルツィーレの街には至る所に商店や露店が並んでいて、観光をするのにはもってこいの場所だ。表通りには道を挟んだ両側に様々な商店が立ち並んでいて、数区画毎に小さめの広場が設けられている。その広場はフリーマーケットみたいになっているところもあれば、お祭りみたいに食事を出す屋台が所狭しと並んでいるところもあって、実に多彩な光景だ。
今俺がいるのは屋台がメインとなった小広場。串焼肉のようなものを売っている屋台もあれば、タコスのようなものを売っている屋台もある。違う方向を見てみれば、麺類のようなものやスープを売っている屋台もあって、選ぶメニューには事欠かない。どれも美味しそうな匂いを漂わせている。
今は陽も傾きかけてきてちょうど夕食時なので、屋台の人達も稼ぎ時なんだろう。呼び込みの声があちこちから聞こえてくる。
「よう、そこのお嬢ちゃん! タルテヤはどうだい?」
「ナペリアも美味しいよ!」
「串焼肉はどうだ!」
かく言う俺自身も屋台のおっちゃん達に色々おすすめされる。今日はまだ朝ご飯しか食べてないから、そろそろお腹も限界に近づいてきている。この後冒険者ギルドに行かなきゃいけないんだけど、まあ多少寄り道はしたっていいよな。行儀は悪いけど、食べながら歩けば時間のロスも少ないし。
というわけで何か買ってみよう。異世界で初めての買い物だな。なんだか意味もなく緊張してきた。
どうせならさっきおすすめされた中から選んでみようと、近くの屋台を色々と物色する。タコスのようなもの、トマトパスタもどき、味付けされた牛肉と思しき肉の串焼肉など、実に豊富なメニューが揃っているけど、その中でも特にさっき俺がタコスみたいだと思ったモノ、タルテヤが一番美味しそうな見た目をしていた。味付けさているであろう肉が、野菜と一緒に生地のようなものでぐるぐる巻きにされている。見た目はまんまコンビニで見かけるトルティーヤだ。美味しそう。
「おじさん、これ二つちょうだい」
お手頃なサイズだったので、少し欲張って二つ頼む。
「はいよ! 二つ合わせて30エルだ」
30エルなら確か鉄貨3枚だったかな。俺は鉄貨を3枚出しておじさんに渡す。
「毎度あり!」
俺はトルティーヤ、もといタルテヤを受け取って冒険者ギルドに向かう。紙袋に入ったタルテヤは出来たてなのか、温かい。
取り敢えず一口頬張ってみる。
「うまい……」
地球で食べたトルティーヤと遜色ない美味さだ。濃すぎず、さりとて薄すぎないちょうどいい味付けが周りの野菜と生地をいい具合に活かしている。
(美味そうなものの中からではあるにしても)適当に選んだ屋台の飯がここまで美味いあたり、どうやらこの世界の食文化はだいぶ発展してるみたいだ。食事の度に悩んだりしなくて良さそうで何より。少なくとも異世界チートの代表格、食文化侵略を起こす必要は無さそうだな。まあ趣味の範囲内で自分の好きなメニューの再現くらいはしたりするつもりだけどね。和食&中華は偉大。俺は食生活には妥協したくないのだ。
タルテヤを食べながら歩く街並みは、夕陽も相まって実に異世界情緒溢れる景色だった。ヨーロッパ風の建物が夕陽に染まって、夕飯時の煙突から登る煙がたなびく様子は実に映えるね。平和だ。
異世界の街の夕焼けに趣を感じ、雅な気持ちに浸ったりしている内に冒険者ギルドに着いた。エモーショナルな時間はここまで。現実に戻った俺はギルドに入る。
テンプレ通りなら、朝じゃ無いから依頼を受ける人もそんなにいないだろうし、人影は疎ら……ということもなく、普通に混んでいた。何で?
仕方がないので、普通に受付の列の後ろに並んで待つことにする。幸いと言っていいのか、自分より遅く来る人はほとんどいなかったので、いくつかある列の内、俺の後ろに並ぶ人はいなかった。
「次の方、どうぞ」
前の人が終わったみたいだ。早速登録といきましょう。ここの受付の人は若い女の人みたいだ。受付嬢ってやつだ! しかも結構美人。
「すいません、冒険者登録をしたいんですけど」
「かしこまりました。お名前と年齢、特技などあればこちらに記入して下さい。文字が書けないようでしたら代筆いたしますが、いかがなされますか?」
俺は日本で教育をしっかり受けてきたので、少なくとも大学入学程度の実力はある。当然のことながら文盲ではない。……でもこっちの世界の言語は全くわからない。「言語理解」の技能はあるけど、果たしてそれは書くほうにも適用されるのかな?
「えっと、書いてみてもいいですか?」
「? どうぞ」
直接的じゃない少しズレた返事だったからか、受付嬢さんは不思議そうな顔をしつつもペンを渡してくれる。流石プロだな。
ペンを手に取って、紙に視線を落とす。俺が今書きたいのは日本語じゃなくて、この世界の言語。ここはエデルリア王国だったか? ならエデルリア語だ。そんなものがあるのかは知らないけど。
そうイメージしていると何となく頭に未知の文字が浮かび上がってくる。アルファベットとキリル文字の間みたいな、不思議な文字だ。ドイツ語みたいに記号のようなものがくっついた文字もあるみたいだ。しばらくすると、「言語理解」の力を使っていつも無意識に話してる言語と、その未知言語が符号していく。
「おお」
思わず声を上げてしまった。さっきまでわからなかった未知の言語が、今や使い慣れた母国語のように既知の言語と化している。不思議な感覚だ。この技能があれば地球で食っていくのには事欠かなそうだな。便利な技能だ。
「どうかなされましたか?」
不審に思ったのか、受付嬢さんが少し訝しそうに訊いてくる。
「あ、いえ、何でもないです」
絶対に何かある奴の常套句だ。案の定、受付嬢さんも少し変な人を見る目でこっちを見てくる。こっちの世界にもそういう概念があるんだね。あんまり文化に違いは無さそうなので正直ホッとしたよ。あまりに文化が違いすぎたりすると、人里離れた山奥での隠居生活も視野に入れなきゃいけなくなるからね。そうしたら地球に帰る方法を見つけるのもずっと難しくなるだろう。異世界人に優しい世界でよかったよかった。
さて、これ以上受付嬢さんに疑心の目を向けられないためにもさっさと名前を書いてしまおう。本名でいいかな? 特に偽名を使わなきゃいけない理由も無いし、嘘を書くのもいけないよな。
というわけで名前と年齢、特技を記入する。特技は戦闘。魔法と近接格闘どっちもいけます。
ちなみに姓名の順序はステータスに合わせて日本と同じにした。よく海外風に姓と名を逆にして名乗る人がいるけど、俺は日本での本来の順序のままで名乗らないことにずっと違和感を感じていた。だって外国人が日本に来た時に「やあ、僕はスミス・ジョンだよ」とか言わないじゃん? 本来の正しい順序こそが本当の名前だと思うんだよね……という些細な自分の信条があるのだ。気持ちよく生活するためにも信条は必要に駆られない限り曲げたくはない。もちろんそれが争いの元になったりするのならある程度までなら曲げるよ。ある程度ならね。
「はい、ありがとうございます……えっ? 19歳?」
受付嬢さんが紙と俺を見比べた後、二度見してくる。そんなに若く見えるかね。おっほっほ。
「嘘じゃないですよ」
「は、はあ。特技は……、近接戦闘もですか」
信じられないような顔をして見てくる受付嬢さん。まあ確かにこの体格で近接戦闘は無いわな。見た限り武器も全く持ってないし。普通、俺みたいな体格に恵まれない女の人は斥候とか魔法使いになるんだろう。
不思議な人だとか思われてんだろうな〜。
「不思議な人……」
こっちに聞こえないように小さな声でボソッと受付嬢さんが零す。……やっぱりそう思ってたのね。残念、聞こえちゃったよ。
「そうかな?」
悪戯気分で返事をしてみると、受付嬢さんはビクッとした後に謝罪してきた。
「も、申し訳ありませんでした」
いい反応するね。可愛いから許してあげるよ。
「いえ、お構いなく」




