まさかの
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いつも通りの朝。座れる程ではないけれど、下り電車故にそこまで混んではいない車内。レポート課題のための資料を読みながら電車の揺れに合わせて揺られている。
ゆらゆらと。体だけではなくて心も揺れる。最近なかなか会えていないあの人。今日の夕方あたりにでも犬の散歩なり何なり、理由をつけて会いに行こうか。
浮いた話などこれまでまるで無かったにせよ、年頃の乙女らしくそんなことを考えることくらい別にいいだろう。浮いた話が無かったのだって、別に恋に恋するような軽い人間じゃないというだけの話だ。
私だってモテないわけじゃないんだから、と誰に言い訳するでもなく心の中で呟きながら窓の外を眺める。
時間が経つにつれて、流れる景色がだんだんと閑散としたものになっていく。
郊外にある敷地だけはやたら広い大学。まあ女子大ゆえに男子生徒はいないけれど、最後のモラトリアム期間として残された短い青春を送るには問題ないだろう。友人も何人かできたことだし、このまま無難に四年間を過ごせていけるはず。あわよくばあの人ともっと親密に……なんて考えなくもないけど、自分から伝える勇気なんて私には無くて。
もう十代だって終わりに近い。いつまでもそんな感じだといつか手の届かないところに行ってしまうんだろうな、ということだってわかっている。やっぱりここは勇気を振り絞って伝えたほうがいいんだろう。怖いけど。でもあの人がどこか遠くに行ってしまって、もう会えなくなるのだけは嫌だ。
頑張るしかないかなぁ。私も、大人になる時が来たのかな。でもやっぱりもうちょっと後で。今はまだこのぬるま湯に浸っていたい。少しずつ、近づいていけばいいだろう。幸い疎遠というほど寂しい仲でもないのだし。
そんなことを考えている内に、窓の景色の流れるスピードが緩やかになってくる。いけない、もう電車が大学最寄り駅に着いてしまう。結局レポートの資料はほとんど頭に入ってこなかった。やっぱり集中しないとダメだな。気分を切り替えなきゃ。
駅のホームに降り立ち、改札方面に歩き出す。扉の閉まった列車が、風を切りながら去って行く。
やがて電車がいなくなったホームに一際強い風が吹いて、私の持っていた資料の紙が飛ばされていった。慌てて追いかけて拾ったけれど、一枚だけ空に舞い上がって視界の彼方へ消えていった。
私はそれを見て、何だろう。ふと、胸騒ぎがした。何か取り返しのつかないことが起きているような、そんな気がしてならなかった。
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「申し訳ありませんでした」
「はい?」
気がつけば辺り一面が全て真っ白な謎の部屋(……というか空間?壁が、部屋の終わりが見えない。なんだここ)に俺はいた。どうやら電車の中でないことは確かのようだ。さっきまでいた他の乗客や声を掛けてくれてた心優しきおっちゃんが見当たらないし。じゃあここはどこなんだという話だが、周り全部が白い部屋なんて俺は病室しか知らない。そしてここはおそらく病室じゃあない。ベッドと壁の存在しない病室なんてあるか。もし仮に病室だったとしても、少なくとも真っ当な病室では無さそうだ。それこそ集中治療室とか無菌室とか……いやまあ入ったことなんて無いから中身がどんなものかまでは知らないんだけどさ。
まあつまり、まるっきり状況が飲み込めない。
そして目の前には平成のキャリアウーマンと思しき麗人が一人、正座してこちらを見上げていた。
あれえ、俺さっき死ななかったっけ。それとも何だ、結局駅員さんと救急隊の人は間に合って、やっぱり俺は今病室にいるのか?ということはこの出来るオーラ出してる美人さんはナース?にしては何故私服?いやバリバリ外向きの服だし部屋着とかじゃないから違和感は無いけどさ。と、そうではなくて。
「「あの」」
とりあえず何か言ったほうがいいかなと思って訊いてみたら、まさかの相手とタイミング被るやつ。あるよね。気まずい。
「お、お先にどうぞ」
少なくとも俺よりは美人さんのほうがこの状況に詳しいはず。もしかしたら何か説明してくれるかもしれない。
「ではお言葉に甘えて」
そこでおほん、と一息整えた彼女は、こちらを見据えて…………土下座した。
「この度は誠に申し訳ありませんでした」
……俺何かされたかな。見るからに出来る人に土下座されるとなんだがとてもむず痒い。というか別に人に土下座される覚えなんて無いんだけどな。人違いじゃなくて?というかこの人さっきも謝ってこなかったか。ということは人違いでは無さそう。本気でどちら様でいらっしゃるのだろうか。
そんな困惑した俺の表情を読み取ったのだろう。美人さんはあっ、という顔をして土下座から直って言った。
「すみません、挨拶が遅れましたね。こんにちは。私、天使株式会社 神権行使代行サービス課関東支部のエリアマネージャー、萩本と申します」
「萩本さんというんですね……はい?」
彼女の名前は萩本さんということがわかった。それはいい。今、他によくわからない言葉が聞こえた気がする。
「神坂様、この度は突然ながら誠に申し訳ありませんでした。平にご容赦下さい」
「うん、何のことでしょう」
何故この人は俺の名前を知ってるのだろうか。まあ病院関係者なら身分証とかで確認できるんだろうし知られててもあんまり不思議ではないけど、でもこの人病院関係者じゃないっぽいし。
それに、天使?しんけん講師代行サービス?何だろう。新手の通信教育なのかな。真剣にゼミナールする天の神様みたいな名前のものが確かあったはずだ。やったことは無いけど。いや、訂正。小学生の頃少しだけやっていた。付録目当てで。
「神坂様、落ち着いて聞いて下さい。地球上において、貴方はおそらく亡くなられました」
「うっっっそだろオイ!!!!!」
「神坂様、落ち着いて」
なんということでしょう。俺はどうやら死んでしまったようです。にしても美人に死を宣告されるってちょっとなかなかない経験だと思う。
「無理無理俺死んでんの最悪どうしよう天国の両親に何て言えばいいんだろ助けて」
「神坂様……本当にすみません……私……どうしよう……」
落ち着いてるように見えるけど、実はそこそこ驚いていたので取り敢えず騒いでいると、萩本さんが思い詰めた表情で蹲ってしまった。困った。
顔を上げて下さい、萩本さん。驚きはしたけど自分、言うほどテンパってないですから。この空間に来た時点で薄々察してましたから。さっきのは様式美といいますか。ほら、達観系主人公って最近避けられる傾向にありますし。
「萩本さん、元気出して下さい」
「貴方は……こんな私を許して下さるのですか……?」
許すも何も、そもそも何も分かってないんだけどね。まさかこの人のせいで死んだとかそんな感じなのかしら。
「その通りですすみません……うっうっ……」
マジか。……まあ死んじゃったもんはしょうがないかなぁ………………。いや……マジか…………。薄々そんな気はしてたけど……。
「ううう……申し゛訳あ゛りま゛せ゛ん゛……」
あぁもう美人が台無しだよ、元気出して!
「わかりました!わかりましたから!ほら涙吹いて。もう怒ってないですから、ね?元気出して」
「うっ……すみません……ありがとうございます……」
こんな美人が泣いてるのって実は結構そそるものがあるなんて言えない。それを見てたらショックとか怒りとか悲しみとかも何か薄れてしまった。ダメだなとは思うよ。責任はちゃんと追及しなきゃだしな。けど何か本意じゃなかったっぽいし、そこまで辛く当たるのも可哀想かなと思ってしまったんだ。
これが他の人、それこそ現世に残してきた家族や友人、幼馴染とかが被害者だったら本気で怒ってただろうし、もしかしたら許すことだってなかっただろうけど、自分のこととなるとそこまで怒りとか湧いてこない。まあ実感が湧かないだけとも言う。
え?そもそもそれ以前に何故初めて会ったばかりの人の言うこと、しかもこんな荒唐無稽な話を信じられるのかって?それはこの場所に来れば否が応でもわかる。多分、魂に語りかける何かがあるんだろう。ここが現世じゃないと本能でなんとなくわかるし、何よりこんなに一部上場IT系大企業の若手女流課長みたいなポジションに普通にいそうな雰囲気を出しまくってる萩本さんでさえ、明らかに一般人とは違うオーラを醸し出してるのがはっきりわかる。見ればわかる。この人は紛れもなく「神」に属する、あちら側の人間だ。それにぶっちゃけて言っちゃえば萩本さん、さっきも俺の心の中読んでたしな。
「じゃあ結局俺は元の世界に戻ることは出来ないんですか?」
しばらくしてようやく落ち着いた(こういうのって普通立場が逆だと思うんだけどなぁ……)萩本さんに、俺はそう尋ねる。
「はい。心の底から申し訳なく思うのですが、そればっかりはどうしようもないです」
曰く、この世界を作った創造神は万能ではないらしい。地球人類が70億を超え、その他多くの生き物の生死も管理し、さらには生まれたばかりの異世界や地球よりも遥かに昔に出来たまた別の世界にさえ加護を与えつつ管理するというのは、さすがに創造神を以てしても不可能に近いらしい。だから、生命を全うした、神との意思疎通が可能な程度の知的生命体の霊魂を適正に応じて呼び出し、霊魂の格の昇格や来世への細かい注文指定などを条件に神の代わりに色々な業務を肩代わりさせているようだ。
そして萩本さんはその創造神の業務を代行する組織の一員で、この度めでたく関東支部のエリアマネージャーに昇格したらしい。人口密集地、それも先進国日本の首都圏に配属されるってのはかなりの好待遇らしく、どうやら萩本さんは将来を期待されている若手のエリートみたいだ。ところがエリアマネージャーとしては新人の萩本さんは、初めて行う仕事の際にうっかりミスをしてしまったらしい。その結果本来ならばまだ死ぬ予定ではなかった俺に皺寄せが行って、俺が今ここにいるようだ。うん、まあ誰にだってミスはあるよね。
「申し訳ありません……。弁解の余地もございません……。それ以外のことでしたらなんでも致しますので……」
ん?今なんでもって。
「まあ死んじゃったものはどうしようもないよな。……しっかしなぁ、死後の世界って想像もつかないよ」
「あの……、厳密に言えば神坂様は亡くなった訳ではないのです」
ん、さっきと言っていることが違う。
「あれ、さっき死んだって言ってませんでした?」
「はい。地球上においてはおそらく亡くなった扱いになるんだと思います。実際、今の地球科学では助かる望みはありませんでした。ですが、貴方の命が尽きる寸前に私が貴方を肉体ごとこちらの世界に呼び出して然るべき処置を行ったので、貴方という存在自体はまだ消えてはいないのです」
なんと、俺はまだ死んでいなかったらしい。確かに死んでたらこんな会話なんて出来なさそうだ。地球では死んだことになってるっぽいけど。
「というか生きてるなら元の世界に戻ったりできるんじゃないですか?」
死んでるなら流石に現世に戻ることは出来ないだろうけど、生きてるなら普通に戻れそうな気がするんだけどな。
「すみません……。地球の存在する世界とこの天界との間の移動は、お互いの世界の存在の格が違うので基本的に一方通行なんです。それこそ向こうに帰るには、霊魂の状態で新たな生命として送り出さないといけません。でもそうすると今のあなたの記憶などは全て初期化されて今の自我などは完全に失われてしまいますから……、それこそ本当に死ぬ羽目になってしまうんです」
「…………そうなんですか」
生きてはいても、どうやら地球には帰れないようだ。この非情な現実は流石に堪える。
「えっと、じゃあ今後はずっとこの白い世界にいることになるんですかね」
地球に帰れないならずっとここに留まることになるんだろうか。それはむしろ地球に帰れないよりキツいような気がする。萩本さんがいるから話し相手には困らないとはいえ、何十年も間、残りの寿命が尽きるまでただただ会話だけで過ごすというのは相当辛いものがありそうだ。5億年ボタンほどじゃないが、それに似たものがある。
「いえ、神坂様をこの空間に留めておくのにも実は限界があります。かといって地球のある世界には法則上戻すことが出来ない。なので神坂様には、比較的新しい故にまだ干渉が可能で、こちらから送り込むことが出来る世界……と言ってもひとつしか無いんですけどね。に移ってもらおうと考えています。……よろしいでしょうか?」
「俗に言う異世界転移みたいなもんですか?」
「異世界転移と言うよりは、異世界転生と言ったほうが近いかもしれません。一応、身体自体はあなた本来のものに少し処置を施しただけなので、別に誰か他の人の肉体に憑依して横領しただとかそういうわけでは無いんですけど、実質は生まれ変わったも同然なので。厳密にはどちらとも少し違うんですけどね」
「なるほど……。まあどっちにしてもあんまり違いは無さそうですね。要はファンタジー世界なんでしょ?」
「はい。日本のライトノベル等によく見られる、ファンタジー要素を多分に含んだ世界であると言って差し支えありません。……ただ、誠に申し訳なく思うのですが、ファンタジー世界であるが故にそれ相応の危険は存在するのです……」
「やっぱりな」
人生そこまでうまい話もなかなか無いらしい。果たして日本の生ぬるい平和な環境でぬくぬくと育ってきた俺が、過酷な異世界を生き延びることができるのかといえば、まあかなり厳しいだろう。けどそれしか無いんだ。男を見せろ。頑張るしかない。
そしてこの転生の話が出てきたということは、これ以外に道が無いということなんだろう。少なくとも俺の人格に配慮した案としてはこれしか無いとみてよさそうだ。もちろんそんなことを気にしなければ地球に帰れるには帰れるんだろうけど……、多分これを断るともう霊魂化して地球に送り返すくらいしか方法が無いんだろうな。
しかし、そうなると気になるのは元の世界での俺の扱いなんだけどな。かなり不自然な死に方(?)したし、警察とか行政上の手続きとかを考えると身の回りの人達にけっこうな面倒が降りかかるかもしれない。
「あ、お伝えするのを忘れていました。神坂様の地球での処遇についてなんですけども、一応、体を呼び出す際に現場に居合わせた向こうの人達の記憶は違和感が無いように処置しておきましたので、手続き上の心配は無いと思っていただいて構いません」
「なるほどね、となると失踪……、行方不明扱いになってるのかな?」
「そうなります。けど日本だと行方不明から7年経てば死亡扱いになりますから……」
「永遠に戻れない以上死亡扱いは確定、という訳か」
「はい」
これは思ったより大変だ。さっき少し驚いたとはいえ、今はまだそこまで実感が湧かないから取り乱したりはしていないけど、しばらくして帰れないことを実感したら猛烈に悲しくなるかもしれない。向こうに残してきた人達とももう二度と会えないのかと思うと胸が張り裂けそうになる。
けど。
「7年か」
長いようで短い。普通に生きるだけなら十分に長い時間と言えるだろう。でも何か大それたことを成し遂げようと思った時に、7年という期間は本当に短い。それでも俺は。
「萩本さん。さっきあなた、地球に帰す以外ならなんでもするっていいましたね?」
俺はある決意を秘めて、萩本さんに問いかける。
「はい。私が出来ることならば、全力でサポート致します…………、え?本当ですか!?」
会話の途中で突然、萩本さんが驚いた声をあげた。何やら誰かと通信してるっぽい。テレパシーか、凄いな。
「神坂さん!たった今連絡が入りました。創造神様を始めとした天界の全職員が今回の件に関しては全面協力して下さるそうです!これでお力になれることが一気に増えましたよ!」
「本当ですか!」
全宇宙の創造神が味方につく。これほど力強いこともなかなかあるまい。
「ええ、今回のことは神界全体の責任問題でもあるので、創造神様も直々にお力を貸して下さるそうです」
昔からよくいうが、困った時の神頼みとはまさにこのことだな。今回の件での萩本さんの処分が少し気になるけど、まあ初めてのことだし俺も許してるので厳重注意くらいで済むだろう。なんなら被害者である俺から直接進言したっていい。美人は特だね。
さて、全力バックアップの確約を頂けたところで本命のお願いといきますか。
「では萩本さん。改めてお願いがあります」
「はい」
「俺に力を下さい」
「力、ですか?」
俺の言葉に萩本さんは少し困惑したような表情を見せる。
「はい、力です。人間という枠に縛られない、大きな力を。望むものを自分の力で掴み取れるような、そんな力を」
あちょっとざっくりし過ぎた言い方だったかな。でもまあ、下手に具体的な注文をつけるといざという時に応用が利きにくい気がするんだよ。
「……かしこまりました。普通の人間ならそのような過ぎた力を与えても、精神と身体が耐え切れずに死に至るだけです。でも今のあなたの身体は私が直接手掛けた天界謹製の器。そうやすやすと壊れるようなことはございません。……その力、お渡ししましょう」
そう言って萩本さんは目を閉じて祈るような仕草をする。
しばらくして、目を開けた萩本さんは俺に向かって手を差し出してきた。
「創造神様からお預かりした力です。お渡しします」
萩本さんの手から暖かな光が浮かび上がって、俺の体に吸い込まれる。すると全身に暖かくも力強い力が漲ってくるのを感じた。
やがてその力は全身に満ち、体に馴染むようにして溶け込む。そして俺はその「力」を手に入れた。
「これで今のあなたはもう今までのあなたとは違います。存在の格が人間から、半人半神へと上がりました。もう人間の枠に囚われるようなことはありません。言ってみれば、私や他の職員のような存在に近くなったということですね」
「……すごい。まだよくわからないですけど、なんとなくこの力があればこれから先なんとかなる気がします。頑張ってこの力をモノにして、異世界を生き抜いて、自分でなんとか地球に戻る手段を探したいと思います」
「……はい、ご健闘をお祈りします。我々職員一同、特に私はですね、お力になれるよう精一杯努めてまいります!」
俺はこれから異世界の地で生きていくこととなる。その異世界とやらがファンタジー小説とかによく出てくるような世界観なら、それは地球、それも日本での安全で安心な生活と違って相当な苦労や危険を伴うんだろう。紛争地帯でずっと生活して生き延びるようなものなのかもしれない。
でも俺は生きたい。不幸な事故だったとはいえ、せっかく助かった命だ。無駄にしたくはない。何よりまだ若いんだし。そして叶うのなら、いつかまた地球の、日本の大地を踏みしめたいと思う。だから俺は持ちうる全ての力を駆使して生き残るし、必要とあらば権力だって手に入れてみせる。天界とのコネだって活かすべきだ。
というわけで早速。
「この力はどうやって使うんですか?」
「まずはそこからですね」
仕方がないだろう。今までこんな力なんて持ってなかったんだもの。使い方なんてわからないよ。自分で考えてもわからないことは積極的に人に聞くようにしましょう。
結果わかったこと。この力は漠然としたイメージであれ、具体的なイメージであれ、その思いに呼応した結果を使用者にもたらすらしい。使用者とはまあ要するに俺のことだ。それと具体的なイメージのほうがより効果を得やすいようだ。人間は想像する生き物。結果をより強く具体的にイメージしたほうが結果を得られやすいのはどこでも変わらないらしい。かく言う俺も半神に格上げされたとはいえ、半分はまだ人間だしな。ぶっちゃけ主観でも人間の頃から特に何かが変わっただとか、そういう風には感じない。まあそこが半分人間たる所以なんだろう。真の神になるには意識から変わらねばならんのだ。
閑話休題。新しく得たこの力だが、イメージに呼応した結果が得られるとはまるで魔法のようだ。取り敢えずファンタジー小説によく出てくるような無詠唱系の魔法チートだと思えばいいみたい。まあこっちのほうが上位互換っぽいので、色んな属性の制約とかは気にしなくてよさそうなのが俺的にポイント高いとこだ。
問題はこの力を何と呼ぶかなんだが。
「『始原の力』だそうです」
「『始原の力』……」
「はい。万物を創造した創造神の力、その一端です」
やばい。なんかカッコいい。封印されし中二の記憶が蘇る。ような気がする。
「実はこの『始原の力』は、創造神様とあなたしか持っていません。似たような力は我々幹部職員の中にも持っている者はいますが、オリジナルと呼べるものは今のところその二つしか存在しません」
「ってことはさっきまでは一つしかなかった超貴重な力ってことじゃないですか」
「はい。それだけ創造神様が力になってくれているってことなんだと思います。正直ちょっと羨ましいくらいです。元凶を作った私が言うのもなんですけど……」
そう言って少し落ち込み、自虐モードに入る萩本さん。苦笑いしか返せない。
「ま、まあありがたく受け取っておきます」
「あっ……、それとすみません。……最後にもう一つだけ謝っておきたいことが」
ここで何か思い出したように萩本さんが声を上げる。しかも微妙に……いやかなり気まずそうな表情だ。これ以上何があるというんだろう。今回のこの一連の流れだけでも、ここまで酷いことなんて他になかなか無いと思うんだけどな。
「実はその……神坂様の肉体を処置する際、時間が無かったのもあって、少し不具合というか、なんというか……」
「え、不具合って……」
せっかく助けてもらった身体だけど、腕が無いとかだと非常に困ります。健康な若者である以上、出来れば五体満足がいい。いくら凄いチートを手に入れたからって、使ったこともない力に慣れるまで時間もかかるだろうし、いきなりそんなでかいハンデを背負って異世界を生き延びる自信は無い。
「その点は大丈夫です。特にどこかに欠損が生じているだとか、そのようなことはございません」
「じゃあ何です?不具合って」
欠損や病気とかじゃないとしたら、他にどんな不具合があるというんだろう。
「…………ええと……見ての通り、私は女なので、だ、男性の体を詳しく知っている訳ではなくてですね……、その、一分一秒どころか一瞬の時間をも争うような事態だと、無意識に自分が慣れた方で処置してしまうといいますか……」
なんだか歯切れがよくないなぁ。まだ知り合って少ししか経ってないけど、出来る女!みたいな萩本さんらしくない。
「ですからその、肉体を再構成する際にですね…………、うっかり女性の体にしてしまいました……………………。すみません…………」
………………。
「はっ!!!??!!?!?!!!?!!??」
女になっちゃうフザけた体質〜