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ヴァルツィーレの街、再会

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 耳元で絶叫を聞かされ続けて早数十分。流石にリルも声が枯れてきて、少し前から絶叫は止まっている。極力揺らさないように気をつけているつもりだし、そろそろこの速度にも慣れてきたのかな。


 今俺達は、……厳密にはリルを抱えた俺は、アリアナ大森林の中をヴァルツィーレに向かって猛烈な速度で突っ走っている。体感速度で時速70キロほど。車だと大した速度じゃないように思えるけど、生身でその速度を出すと結構怖かったりする。自分でコントロールすることなく、なすがままでその速度を体感してるリルはさぞかし怖かろう……。でも我慢してもらうしかない。これが一番速いんだよ。

 それと、この明らかに人間が出しちゃダメなスピードに関してはもう今更感あるので、いつものように「企業秘密」でゴリ押しだ。俺、そろそろ法人化しようかな……。


 そのまま更に数十分ノンストップで走り続けると、やがて森の終わりが見えてきた。向こうのほうが明るくなってきている。


「森を出るよ」


「えっ、もう!?」


 パッ!と一気に周りが明るくなった。数日間ずっと薄暗い森にいたから一瞬目が眩む。森を出たみたいだ。

 肌寒かった森の空気が、初夏の暖かな空気に変わる。久々に見る青々と繁った草原が懐かしい。街まであともう少しだ。





「街が見えてきた!」


 マップの示す方向に直線で進んでいたので、道なりに進んでいたわけではない。でもようやく街が見えてきた。異世界に転生して初めての街だから楽しみだ。


「はっ、早……」


 リルが信じられないような目で街を見ている。行きに比べて数十分の一の時間で帰ってきたわけだし、実感が湧かないんだろう。かくいう俺も意味不明だ。異能って凄い。


 街まで残り2キロを切った辺りでリルを下ろして、徒歩に切り替える。流石にあの速度で街に突っ走っていったら不審者どころか魔物扱いされそうだったからね。

 特に舗装とかはされていないにしても、ちゃんと整備されているから歩きやすい街道をしばらく歩いている内に、俺達はようやくヴァルツィーレの街に到着した。


「おおー……」


 街を囲む城壁を見上げながら、俺は感嘆の声を上げる。

 高さは軽く数メートルはある。頑丈そうな城壁だ。比較的強い個体の多いアリアナ大森林からの魔物の侵入対策だろうなと思われる。何というか、力強さと浪漫を感じる。


「凄いな」


「城壁を見るのは初めてですか?」


 リルがそう訊いてくる。確かに日本にいた時には城壁なんて触れる機会が無かったからな〜。日本みたいな島国だと、海外と地続きじゃないお陰で外敵の侵入がほとんど無いから城郭都市がなかなか発展しないんだよな。戦国時代とかだとある程度の石垣を持つ城も登場してくるんだけど、それでも街全体が城壁で囲われてる都市なんて俺の知ってる限り大阪城くらいしか思い当たらない。あれだってもう燃えちゃって当時の形は残ってないわけだし。まあ実質、城郭都市を見るのはこれが初めてだ。


「城壁みたいなものは見たことあるんだけどね。こういうタイプのものは初めてかな。何というか、すごく大きいんだな」


「なんといっても安心感がありますよね〜。城壁があるのと無いのでは街の安全性が全然違いますから! 田舎の村とかだと魔物を追い払うだけでも大変って聞きますし、城壁があるか無いかで大きな街かそうでないかが分かれると言っても過言ではないですね!」


 そう説明するリルは誇らしそうだ。自分の住んでる街だもんな。地域愛があって実によろしい。


 さて、城壁にひとしきり感動したところで早速街に入ろう。城門には門番と思しき兵士が数人詰めていた。


「すいません。街に入りたいんですけど」


「おお、君達二人かい? それじゃあ身分証を確認するから提示してくれ」


「はい」


 そう言ってリルは冒険者の証明であるネームタグ(ギルドカードと言うらしい)を取り出して門番に見せる。……けど俺は何も見せない。どうしよう。身分証とか何も持ってないぞ。向こうの世界の学生証とかも荷物と一緒に消え去ったからな。まあ、もっともこっちの世界で通用するわけもないんだけど。


「すいません。身分証持ってないです」


「持ってない? 田舎から来たのか? まあ無いなら入場税で500エルが必要だな」


「あっ」


 そこでリルが何かに気付いた感じでこっちを見てくる。


「すいません。アキラさんの身分証のこと忘れてました。ここは私が出しますね」


「助かるよ」


「いえいえ、この街に入るのも私の都合ですから気にしないで下さい。必要経費ってやつです!」


 リルが俺の分まで払ってくれたので、無事俺達はヴァルツィーレの街の中に入ることが出来た。

 それにしても現段階ではまだ一文無しだからな。早めに仕事を見つけなきゃいけない。リルから金貨5枚(5万エル、50万円相当)を報酬としてもらえることになってはいるけど、仕事はしないとな。流石にニートはまだちょっと早い。隠居生活には憧れるけど、元手となるお金自体はいくらあっても困らないんだし。

 それと身分証も手に入れなきゃな。というのも街を出たり入ったりするには身分証が必須らしい。とは言っても一番初めから持ってる人なんてそういないので、外から来た人は大抵中に滞在している間に身分証を発行するみたいだ。身分証は、身分を保証してくれる組織のものであればなんでもいいらしい。メジャーなところだと、冒険者ギルドとか商業ギルドみたいな各種ギルドだとか。ちなみに街に住んでる一般市民は領主(の代行組織)発行の市民証を持っているようだ。リルが冒険者ギルドカードと市民証の両方を見せてくれた。


 街の中は結構な数の人がひしめいていた。綺麗に区画整理された街並みは統一感があって印象が良いし、道を歩く人々も活気に溢れている。パッと見た感じ、いい街だ。


「それじゃ私の家に急ぎましょう」


「そうだな」


 街に着いたからには早くリルのお母さんに女神の雫を届けなきゃいけない。俺達は早歩きでリルの実家まで向かった。


 街の中心部を外れて、住宅街のある区画までやってくる。流石に表通りほど人通りが多いわけではないけど、そこそこ人通りもあるし、落ち着いた雰囲気のある場所だ。


「こっちです」


 やがて一軒の煉瓦造りの家に辿り着いた。リルが扉の鍵を開けて中に入る。


「お母さん!」


「お、お邪魔します……」


 俺も後からそっと続く。


「リル……? 帰って来たのね……!」


 部屋の奥から声が聞こえる。どうやらリルの母親みたいだ。


「お母さんっ!」


 リルが部屋の扉を開けて中に入る。そこにはベッドに弱々しく横たわるリルの母親がいた。

 見た感じ、相当具合が悪そうだ。顔色は土色だし、死相が浮かんでいる。あと数日遅れてたら間に合わなかったかもしれない。

 試しに鑑定をかけてみると、病気の原因が判明した。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

名前:ラティナ

年齢:36

性別:女


体力:15/110(危険水準)

魔力:25/70

知力:115

身体:4

技能:算術

状態:結核(重度)

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 どうやらリルの母親はラティナさんというらしい。患っているのは結核みたいだ。それもかなり重度の。地球では既にワクチンや治療薬が存在するから大きな問題は無いが、それらの方法が開発されるまでは結核は死病と呼ばれていた。これはこの世界の技術水準じゃ治すのは厳しそうだ。女神の雫があってよかった。


「リル、あなたどこへ行っていたの! 必ず助けるからって出て行ったきり……。それにそちらの方は、ゴホッ、ゴホッ」


 チラ、とこちらを見るリルに目配せして、早く女神の雫を飲ませるよう伝える。俺の紹介は後でも出来る。今は一刻も早くリルの母親を助けないといけない。


「お母さん、これを飲んで」


「これは……?」


「薬だよ。これを飲めば病気もきっと治るよ」


「私はもう……、いえ、貰っておくわ。これを飲めばいいのね……?」


「うん。さあ、早く」


「わかったわ……」


 そう言ってリルの母親は女神の雫を受け取って、飲み始める。俺達は固唾を飲んでその様子を眺める。

 飲んでいく内に段々とリルの母親の顔色が良くなっていく。

 鑑定してみると、無事「状態」の欄が「健康(微衰弱)」になっていた。

 ……よかった。無事にリルの母親は回復したみたいだ。


「あれ……? 咳が出ないわ……。怠さも無くなってる……。私、治ったの?」


「……治ったよ! お母さん、治ったんだよ!」


 二人とも信じられないって顔をしている。

 そしてリルがわっと泣いてラティナさんに抱きついた。ラティナさんも涙を流しながらリルを抱き締める。

 よかったよかった。


 俺はそっと扉を開けて家から出る。親子の感動のシーンを邪魔しちゃ悪いからな。お礼ならまたいつでも聞ける。今は幸せを噛み締めて欲しい。

 俺は外の壁に寄りかかって、二人が落ち着くのを待つことにした。

復活!

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