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どうも。お初にお目にかかります、痴女です。

少し忙しかったので更新遅れてました。

※リルの髪色を金髪から茶髪に変更しました。

 気がついたら寝ていた。目が覚めたらもう既に外は夕暮れ時だった。攻撃用兼採光用の窓からわずかに射し込む夕陽が部屋を照らしていて、思いの外綺麗だった。

 異世界の夕陽も色は同じなんだな。そう思うと何だか安心する。


 ふとなんとなくステータスを開いてみると、もう技能の欄に「言語理解」のスキルが追加されていた。天界の人達、仕事早いな。流石神の直属組織だ。基本的に皆エリート中のエリートなんだろう。まあ何にせよ、ありがたいことだ。


 するとしばらくたった頃に、トントンと扉をノックする音が聞こえてきた。


 こんな森の中で誰だろう。人がいるほど浅い森とも思えないし、もしかして新手の魔物?ノックをするくらいだから相当頭がいいかもしれない。これは覚悟したほうがいいかな。

 そう思って確認用の穴から見ると、そこにいたのはソロの冒険者と思しき若い女の子だった。覚悟してた分、ちょっと拍子抜けだ。でも意外だな。こんな深い森に人間がいたんだ。見た目は、茶髪のポニーテールで、服装はレザーアーマーみたいなもの、腰には直剣っぽいものをぶら下げてる。顔も悪そうな人相じゃないし、まさか山賊ってこともないだろう。バンディットガールも萌えないわけじゃないが、今はまだちょっと遠慮しておきたい。そういうのは余裕が出来てからで頼む。それと身長は俺よりもだいぶ高いみたいだけど、年齢はちょっとばかし俺より年下っぽい感じだ。一般的に日本人よりも大人っぽく見える西洋人的な顔立ちだから、もしかしたらもっと若いかもな。ティラノサウルスみたいなあんな強い魔獣が闊歩するこの森に一人だなんて、この子なかなかやるな……。

 取り敢えず怪しい相手じゃなさそうなので、俺は扉を開けて顔を出した。すると普通だった相手の顔色が、こっちに気付いた直後からどんどん青ざめていく。どうしたんだろう、体調でも悪いのかな?


「ぎゃあっ!裸!」


「へっ?……あっ!やっべ!服着るの忘れてた!」


 バタン!と勢いよく扉を閉めて、急いで服を着る。うえ、まだ生乾きだから気持ち悪い……。でも部屋干しだから仕方ない。

 取り敢えず服を着た俺はもう一度扉を開ける。すると女の子も一瞬ビクッとしていたけど、俺が服を着ているとわかるとほっと安心したように息を吐いた。次の瞬間、がーっと畳み掛けてくるかのように言葉を投げかけてくる。


「なんなんですか!あなたは痴女ですか!」


「うっ、うるせえ、痴女じゃねえよっ!洗濯して着るものが無かったからしょうがなかったんだよっ」


「それならタオルを身体に巻くなり何なりしてから出てくればよかったじゃないですか!なんでそのまま出てくるんですか!私、森にすむヤバイ魔女かと思ったじゃないですか!」


「うわっ、ヒドイ言い草!初対面の人間にそこまで言うこともないだろ!」


「だって本当にびっくりしたんですよ」


「うん、まあそれは悪かった」


 そりゃドアノックして、いきなり裸の女が出てきたんじゃ誰だってびっくりするよな。

 にしても異世界で初めて会う人間に、俺は裸でコンタクトを取りに行ったんだな。……うん、記念すべき日だってのに物凄い黒歴史感溢れる内容になっちまった。

 それとさっき追加されたばっかりの「言語理解」だけど、ちゃんと機能してるみたいで何よりだ。明らかに日本語じゃない言語だけど、ちゃんと聞き取れるしネイティブと変わらないレベルで意味もわかる。しかも意識しなくても相手に合わせた言語で話せるんだから実に面白い。地球に帰ったら通訳だけで大金持ちになれるかもしれない。


「で、どうしてこんな森の奥に?」


 俺はこの女の子の出没……来訪理由を尋ねる。直径約200キロに渡る広大な樹海の真っ只中で人が訪ねてくるなんて、何か特別な理由無しにはまずありえない。異世界に来てから初めて会う人だ。この世界の人間がどういう思考回路してるのかもわからないし、是非その真意を知りたい。


「いえ、見ての通り私は冒険者なんですけどね。まあとある目的でこの森に来ていたわけですよ。日も暮れてきたし、そろそろ野営の準備をしようかなと思って良さそうな場所を探していたら、林道から外れたこんな深い森の中になんと人工物があるじゃないですか。見たことのない不思議な形でしたし、どうも金属で出来てるみたいだからまさか古代の遺跡!?とも思ったんですけど、それにしては綺麗すぎですし。人が生活してる痕跡があったので、もしかして中に誰かいるのかなって。もし誰かいるなら泊めてくれるかもしれないと思ってお訪ねしたんですけど……中にいたのは痴女でびっくりしました」


「随分とその話引っ張るなぁ!もう忘れろ!あれは事故だ!」


「すみません、あまりに衝撃的だったもので」


「ごほん……まあいいや。で、つまり君は泊めて欲しいってこと?」


「はい。突然押しかけて申し訳ないのですが……。この森の野営は他に比べてかなり危険を伴いますし、出来ればちゃんとしたところで休みたいんです。この家?も凄いしっかりしてますし。今夜だけ泊めていただいてもよろしいでしょうか?」


 俺はそれを聞いて考える。まず、ここが現代日本なら絶対に断るところだ。そんなのホテル使えよって話だし、そもそもいきなり訪ねてきて厚かましくも泊めてくれだなんて言ってくる見ず知らずの他人を馬鹿正直に泊める人間は、お人好しでも何でもない文字通りの馬鹿だ。

 けどここは異世界だ。さらに言えば現代日本の家庭と違って、「拠点製作」で急造したこの拠点には貴重品なんて何一つない。何かを盗まれる可能性はゼロってことだ。盗むものが無いからな。まあ究極的なことを考えてしまえば、俺を抹殺してこの拠点自体を盗むってことも考えられなくもないんだろうけど、その可能性は考えなくていいだろう。そんなことするくらいならずっと外で隠れてて、俺が出てきた瞬間に背後からザックリとやればいいだけの話だ。わざわざ閉め出されるリスクを背負ってまで正面から突撃したりはしないだろう。その裏をかいて実は……なんてことも無いわけじゃないのかもしれないけど、それだと費用対効果が低すぎるからこの場合そうする理由もない。つまりこの子は純粋に泊めてもらいたいだけと考えていい。

 次に、何度も繰り返すけどここは地球と違って異世界だ。地球なら、大抵の人里には猛獣なんて下りてこないし、森の中で野営しても襲われた死ぬなんて事例は滅多に存在しない。けど異世界には、それこそ朝のティラノサウルスとまでは言わないにしても、それに準ずるくらいのヤツがそれなりにうようよ生息してるわけだ。ここで閉め出して、朝になったらこの子が屍に……なんてことになっちゃあ寝覚めが悪いし、何より俺自身そこまで非情になれない。

 だからお人好しにも、俺はこの子を泊めてあげることにした。


「うん。まあ、いいよ」


「本当ですか!ありがとうございます!」


「まあ、いつまでも外に立ってないでさ、中に入りなよ」


 女の子は不安そうな表情から嬉しそうな顔になって、喜ぶ。そして何やら背負っていたザックの中をいそいそと探り始めた。


「これを……心ばかりのものですがお納めください」


 手渡されたのはよくわからない謎の袋。けっこう小さい。


「これは?」


「コショウ、と呼ばれるものになります。最近流通し出した南国の香辛料だそうで、これをかけるとお肉や野菜がピリッとした味になって美味しいんです。保存にも適してるらしいですよ」


「胡椒!」


 この世界にも存在したんだ!これは楽しみだ。胡椒は全香辛料の中で一番好きだから手に入ってとても嬉しい。

 地球だと胡椒は大量に栽培されて、スーパーで安く売ってたからいくらでも手に入ったけど、この世界ではまだ流通は一般的じゃないんだろう。さっきもそう言ってたし、多分高いんじゃないかな?


「いいの?高くない?」


「いえ……、確かに少々値は張りますが、別に買えないほどでもないので問題はないですよ。それよりあのアリアナ大森林のこんなに深いところで野営せずに済む幸運に巡り会えたんですから、このくらいむしろ安いほうです」


「アリアナ大森林?」


「ええ。ご存知ないですか?この森の名前です。世界中でも最も危険な森の一つと言われてるんですよ。この森の奥深くには泉があって、そこには女神アリアナ様がいると言われてます。そこに行くと女神の雫というものが採れて、それが凄い貴重なんです。難易度が高いのも相まって、ここを踏破することはこの国の冒険者達の憧れなんです」


「へえ。ここってそんな凄いとこだったんだな」


「知らずに住んでたんですか?」


 女の子の視線が少し怪しいモノを見る目になる。


「だってこの森に来たの昨日だし」


「昨日!?」


「うん」


「そんなのありえないですよ!ベテランだって奥に入るだけで何日もかかるんですよ!行って帰ってまで含めたら何週間もかかる超高難易度の森なのに!」


「ええー、でも本当のことだしなぁ」


 嘘を言っても意味が無いので本当のことを言ったけど、全然信じてくれない。どうしたら信じてくれるんだろう。


「もし仮に1日でこんなに奥まで来ようとしたら、それこそタイラントリザードを1人で倒せるくらい強くないと無理です!それに1日でこんなに凄い家なんて絶対建てられないです。何か隠してないですか?」


「別に何も隠してないよ。それにほら、ちょっとついてきて」


 俺は証拠を見せるために、女の子を外に連れ出す。そしてアイテムボックスを開き、中からタイラントリザードの死体を取り出した。

 ドサッという音を立てて(元)タイラントリザードが地面に横たわる。


「……………………はっ!?」


 その命を失ってもなお威圧的な巨軀を前にして、女の子は言葉を失っていた。






「疑ってしまって申し訳ありませんでした……。ただでさえ泊めていただく側だというのに、本当なんて謝ったらいいか……」


「あー、うん。まあ気にしなくていいよ」


 論より証拠とは昔の人もよく言ったもんだな。さっきまで全然信じてなかったのに、証拠を見せたら一瞬で信じてくれたよ。

 別に疑われたこと自体は全然怒ってない。普通、あんなこと言われて信じる人間はいないだろう。俺だってそんな無茶苦茶なこと言われたら信じないし。

 まだチート歴2日目なんだけどな。随分ぶっ飛んでると我ながら実感するね……。


「じゃああなたは……、あー、まだ自己紹介してませんでしたね。遅くなって申し訳ないです。私、ヴァルツィーレの街で冒険者をやってます、リルといいます。よろしくお願いしますね」


「じゃあ遅まきながら俺も。えー、神坂(こうさか)(あきら)です。多分、凄いところから来ました。この国は初めてだからわかんないこととか色々訊くと思うから、そん時は教えてくれると嬉しいな。まあ他にも色々秘密というか、不思議に思うこともあるだろうけど今は聞かないでくれると助かる」


「コウサカアキラさん、ですね。私のことは普通にリルって呼んで下さい」


「じゃあ俺も景でいいよ」


「はい。アキラさん、すっごく強いんですね。尊敬します」


「尊敬って……。俺自身がどれくらい強いのか全然わかってないんだけどな……。まあ強いのにも理由はあるんだけどね。それも秘密ってことでいいかな」


「はい。出来れば強さの秘訣とか聞きたいですけど、企業秘密ですもんね」


「まあそんなとこ」


 というかこの世界にも企業あったんだな。まあ中世くらいの文明度ってことを考えるとギルドとかそういう商工組合的な互助組織なのかもしれないけど。

 それはさておき。


「腹減ってない?もう夜だし多分、食べてないでしょ」


「いいんですか!?ありがとうございます!ご馳走になります!いつかこのご恩は絶対お返ししますね!」


 そんなに感謝しなくてもいいよ。普通にありがたく思ってくれればそれで。


「食材は……あー、タイラントリザードしか無いや。それに塩胡椒かけて焼けばいいよね。塩持ってる?」


「た、た、た……」


「た?」


「タイラントリザードのお肉!?きゃあ〜〜〜……」


 タイラントリザードという言葉に驚いたのか、リルが嬉しい悲鳴みたいなのを上げて倒れた。復活するのに時間かかるかもしれないから先に肉を切り分けておこう。


 結局その後、無事復活してきたリルに塩と胡椒を多めに分けてもらい、タイラントリザードの直火炙りステーキを二人で美味しくいただいた。リルは初めてこの肉を食べた時の俺みたいに、夢中になって食べていた。うん、美味い!

痴女と野獣タイラントリザード

初めての異世界人とのコンタクトです。

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