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第98話 竜樹と魔王

「魔王が竜樹様の分身?!」


 アリアは大きく目を見開いて、青ざめている。

 彼女にとっては竜樹は仕えるべき主、そして魔王は倒すべき敵だった。

 ‎それが本体と分身の関係だというのは衝撃的なことだろう。


「そう、魔王と竜樹は元は1つの存在だったものが2つに分かれたものなんだ。この世界とアリアさんの世界のバランスは、魔王と竜樹が力を拮抗させることによって保ってきた。まあ、そんなことはこれから死ぬことになる兄さんには関係ないけどね」


 ‎善悪の知識の木の八ある竜の頭が一斉に俺に向かって口を開く。

 ‎竜司が叫ぶ。


「いかに強力な結界であろうとも、無数の結界の源を受けて、ただではすまない!」 


 全ての竜の口から放たれる無数の銀蛇。

 それが俺の結界にとりつき、結界を食う。食う。食う。


「結界がやぶられる!」


 俺の言葉で呆然としていたアリアが我に返った。


「大丈夫だ、竜一。私がお前を守る」


 とうとう結界に一つの穴が開いた。


「アリアさん、僕の力を忘れたわけじゃないよね?」


 そこで、竜司の瞳は赤い輝きを増していく。

 強烈な頭痛が俺を襲う。竜司の結界の力だ。


「死ね!! 兄さん!!」


 そのとき、アリアの脇から飛び出した銀の蛇が、俺とアリアの腕を結びつける。水鏡の剣だ。やはり、竜司の放った銀の蛇によく似ているが、色がほんのり赤い。

 ‎そして、アリアは俺の結界の外に飛び出すと、一気に竜司の近くまで跳んだ。

 ‎竜司に蹴りをかます。

 竜司の攻撃の手がゆるんだのか、頭痛がおさまる。アリアも頭痛に襲われていたはずなのに一瞬にして竜司を押さえつけた。

 だが。


「浄化せよ!」


 竜司のかけ声によって、俺とアリアを結んでいた銀の蛇に、善悪の知識の木が放った無数の銀の蛇が一斉に巻きつく。

 ‎すると、赤みを帯びていた銀の蛇の色が徐々に周囲の蛇の色と同化した。

 ‎その瞬間、アリアは電撃を浴びたように赤い火花を全身から散らし、悲鳴をあげる。

 そして、はじかれたように俺の近くまで引き戻されてきた。

 ‎彼女は全身から煙をあげている。


「兄さんの血によってアリアさんの剣は本来の目的を忘れていたんだ。それどころか兄さんに従っていた」


「竜司!!」


「水鏡の剣で兄さんは血を流したことはなかったかい?」


 そう言われれば一度だけあった。

 ‎アリアとはじめて出会ったとき。

 ‎俺の額を水鏡の剣は傷つけていた。


「血を吸った水鏡の剣は兄さんのものとなった。そして、それが兄さんの結界の力とは別のものとして、アリアさんが結界外を動き回ることを可能にしたのだろう。だがもう兄さんの血は浄化した。その証拠に水鏡の剣は本来の色に戻っている」


 アリアを結界の外でも活動可能にしたのは、水鏡の剣が俺の血を帯びたことによるのか。そういえば、魔王が血を使えと言っていたがこのことか。

 だが、そんなことが説明されたからといってなんになるだろう。

 ‎俺はアリアを傷つけたこいつを赦せない。

 ‎ただ、それだけのことだ。

 ‎俺の怒りを受けて力を増していく結界は取りついていた銀の蛇たちを弾き飛ばした。


 そして、結界の周囲からあの黒い霧が噴き出す。


 ここにきて竜司は大きくため息をついた。


「参った、僕の敗けだ」


 竜司の発言は意外だった。

 ‎俺が言葉を返そうとしたときに、アリアが立ち上がる。さきほどまでの傷はもう癒えたようだ。驚異的な回復力。


「どうしてこんなに早く傷が?」


 彼女はそう言って自分でも不思議そうにしている。

 そこで、竜司が口を開く。


「アリアさん、いいことを教えてあげよう」


 アリアは竜司のほうを向き直る。


「善悪が簡単に互いに入れ替わるように、兄さんの結界の効果範囲も反転した。結界の中にいれば、どんな深い傷をも癒せるが、結界の外はそのための生け贄となる」


「どういう意味だ?」


 すると、竜司は下を指差した。

 指の先には、黒い鱗に全身を覆われ、赤い目をした一匹の怪物、魔竜がいた。

 ‎いつの間に?


「あれが生け贄の末路だ。鬼灯朽長だったものの成れの果て。力を吸い上げられたものは魔竜となる。黒い霧はそうやって全ての生け贄を魔竜とする。だけど結界の中は安全。そこなら、兄さんと対等だ」


 こいつは何を言っているんだ?

 ‎全く理解できない。


「なんだ、なにが言いたいんだ?」


 アリアも竜司の言葉の意味が皆目分からないようだ。


 いや違う。

 ‎そうではない。

 ‎分からないのではない。

 受け入れられないのだ。

 俺もアリアも。

 ‎そんな二人に竜司は言い放った。


「では、こう言えばいいかな。アリアさん、今こそ竜樹の巫女として使命を果たせ!

目の前にいる魔王を倒すんだ! 君が最後の希望だ!」


 そのとき、水鏡の剣の鍔の竜の口が開いた。


 アリアは俺を見た。


「そんな……そんなことが?!」


 そして、アリアはガックリと膝をつく。


「竜一が、魔王……」


 俺は彼女の言葉を反芻するのだった。


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