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第97話 兄弟の対決

「兄さん」


 竜司は赤い瞳で俺に一瞥くれると、今度は抱き抱えた朽長に目をやる。

 ‎

「鬼灯先輩、どうしてこんな勝手をしたんです?」


 竜司が呆れたように訊ねると、朽長は笑顔を浮かべる。


「へっ。妹をふっ切りたかったんだよ。お前にそれを弱みに握られているのが癪だったしな、会長さん」


 朽長が軽口を叩くと、竜司は冷ややかな目を向けて言い放った。


「それで僕の命令を無視したのですか? なんと馬鹿なことをしてくれたものですね」


「そんなこと言うが、お前ならなんとかなるんだろう?」


 すると、竜司は怒りに満ちたまなざしを愚かな副会長に向ける。燃える太陽のように赤く煌めく眼光。途端に朽長は苦しみ出す。


「ぐあああああ!!」


「力があるにも関わらず、それを正しく行使できないなら、もはや足手まといにしかならない。生け贄となるよりは、ましだろう」


「て、てめえええ! ぐはっ!」


 吐血する副会長。これはもう明らかに竜司が結界の出力を上げている。今の朽長には耐えられないのだろう。

 ‎だが、どういうわけか俺は頭痛一つしない。

 ‎気絶したままのアリアも、竜司の力にやられている様子はない。

 ‎あとは気がかりなのは、鏡美と鬼灯だ。

 俺は慌てて、彼女たちを探す。

 ‎道端に2人の姿はあった。

 ‎さっきの朽長の攻撃で、鏡美は銀龍から元の姿に戻って横たわっていた。

 ‎鬼灯もその横に倒れていた。


「鏡美! 鬼灯!」


 俺は2人のもとに降り立った。

 ‎大丈夫だ、二人とも息はある。

 ‎だが、苦しんでいるようだ。

 竜司の結界の力が二人を苦しめている。

 このままでは、二人ともやられてしまう。

 ‎俺は宙に浮かぶ竜司にやめさせようとした。

 ‎その意思に応えるように黒い霧が竜司に手を伸ばす。


「おっと」

 ‎

 竜司の瞳はそこで輝きを弱め、副会長を放り出し、すんでのところで黒い霧をかわす。


「もう兄さんには僕の結界は効かないね。そんなに怒らなくても大丈夫。鏡美ちゃんとみなわは殺したりしない」


「竜司、お前だけは赦せない」


「いろいろなことで怒ってるんだろうけど、大きいのは家戸あと葉のことかい?」


 不敵な微笑みを浮かべる竜司。


「なにを笑ってやがる! お前を倒す!」


「兄さん」


 さらに満面の笑みを浮かべる竜司。なにかいつもと違う雰囲気を感じる。


「このときをどんなに待ち望んだことか。この宿命から解放されるときを。兄さんがいたことで僕は何も得ることはなかった。それもこれで終わりだと思うとなんと気分のいいことだろう」


 そして、竜司は右手を高く挙げる。


「さあ、善悪の知識の木よ! あなたの狙いはことごとくうまくいかず、もう残り2つの希望にかけるしかない! 僕が希望の一つとして力を尽くそう」


 竜司の右手から俺の方に銀色の蛇が素早く伸びてくると、俺の結界にとびかかる。

 ‎赤い稲光が生じ、結界壁は蛇の侵入を許さない。

 ‎それでも蛇は離れずにへばりついている。

 ‎この蛇、もう疑いようがない。

 ‎見慣れた水鏡の剣の刀身によく似ている。

 ‎強いて言うなら、水鏡の剣のほうがほんのわずかだが刀身が赤いか。


「これがお前の切り札か、竜司?! 全然効いてないが?」


 俺が余裕を見せると、竜司はにこりと笑う。


「安心するのは早い、兄さん!」


 竜司が急速で接近してくると、両手から無数の光弾を放つ。こいつの攻撃は朽長の攻撃に酷似している。

 ‎蛇の攻撃に加えて、この光弾の威力で俺の結界は大きく揺らぐ。

 ‎まずい。突破されれば無防備だ。

 ‎アリアもまだ意識を失っている。

 ‎俺の攻撃的な意思に反応し、黒い霧が猛烈な勢いで竜司に襲いかかる。


「くっ!」


 竜司が霧に捕らわれた。

 とうとう。とうとう、このときが来たのだ。意外に呆気なかったが。これからじわじわと霧を使って体の一部を少しずつむしばんでやる。そして苦痛に満ちた表情を浮かべさせてやる。なんなら数日をかけてもかまわない。


「竜司、おい、竜司! 最高の気分だ。今から少しずついたぶってやる。生まれてからずっと、俺はお前に苦しめられてきた。お前に親も殺され、俺の尊厳の全ては踏みにじられた。楽には死なせない! ハハハハハッ!」


 俺の心の中の黒い部分が止まらない。

 ‎こいつは何度殺しても殺したりない。

 ‎地獄を見ればいい。

 ‎地獄を見ろ! そうだ! 地獄を見ればいいんだ! 


「うわああああああ!」


 霧に食われはじめ、竜司の苦しみもがく声。聞いてみるとがっかりなものだ。

 ‎こんなものでは足りない!


「ぐわああああああ!」


 そのとき、奴の背後に巨大な影が生まれる。

 ‎それは大きな木のような形を取った。

 ‎いや、頭がいくつもある竜の姿にも見える。

 ‎それぞれの竜の頭は霧を吸い込み始める。

 ‎あれは。


「善悪の知識の木」


 俺に抱きかかえられているアリアの声だ。


「この気配、やはり覚えがある。この気配は間違いない! 竜樹様だ!」


「なに?!」


 俺は彼女の発言に驚きを隠せない。


「どうしてここに竜樹とやらが?」


「私も分からない。御姿を見たこともなかった。だが、間違いない」


「じゃあ、善悪の知識の木が竜樹だというのか!」


 すると、善悪の知識の木の竜の頭の一つに乗った竜司が叫ぶ。


「その通り! 僕はこの善悪の知識の木、竜樹の核に見いだされた。僕が大きな力を持ったのはそのためだ。それは兄さんの心を圧倒的な力で完膚なきまでに崩して、兄さんをおさえるためだった。だが!」


 アリアを指差す竜司。


「そこのアリアさんが邪魔をした。いや、それが兄さんの結界の条件だったんだろう。アリアさんを懐に抱えるという条件を満たすことで圧倒的な力を発揮する。竜樹は負けたんだ、己の分身の策略に!」


「どういう意味だ?!」


 結界の条件? 己の分身の策略?

 ‎なんのことだ?


「兄さんと契約した存在こそ、竜樹の分身だって言ってるんだ」


「「なに?!」」


 アリアと俺の声が重なった。


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