第96話 鬼灯朽長を倒せ
胸の傷の痛みがどんどんおさまっていくのを感じた。
抱きかかえたアリアの傷も治っていく。
起こっていることがどういうことか俺自身分からないが。
その様子を見て、朽長が吠える。
「いったいどれだけ強くなったか知らねえが手加減しねえ! 叩き潰す! 妹まで利用して俺に勝とうなんて汚いやり方しやがって!!」
彼は右肩の筒状の突起物から、巨大な炎の玉を連続で発射しはじめる。
10発以上の赤く燃える光の玉が列をなして、俺に向かってくる。
だが、それらは俺の目の前でことごとく爆発する。
ちょうどアリアが動ける範囲である半径2メートルの結界の境界が壁となり、奴の攻撃から俺を守ってくれた。
「全然効かねえだと?! くそったれがあ!!」
朽長は右肩からの炎の玉に加えて、両手から小さな白い光弾を無数に放つ。
だが、それもほぼ全て、俺の体に届く前に、結界で防がれてしまう。
多少の衝撃は伝わってきたが、俺はほぼ無傷だ。
「ばかな!」
さすがに朽長も栗色の瞳を見開いて焦りはじめる。
そして、奴はここで両手の装甲から剣のような突起物を出す。
さっき、俺の胸をバツの字に切り裂いた剣だ。先端には俺の血がべっとりとついている。
「これで終わりにしてやる!」
そして、急速接近してくる朽長。
俺の結界壁に鋭く剣を突き立てる。
激しい火花が散る。
だが、剣は結界壁を抜き通らない。
奴は体ごと弾き返された。
「くっ!」
そのとき、奴の剣先にこびりついた俺の血液が赤く光りだす。
「なんだ? 何が起きてやがる?」
次の瞬間、くだけ散る剣。
朽長は唖然とする。
そこで俺が朽長を攻撃しようと思うと、俺の結界壁から吹き出した黒い霧のようなものが朽長に襲いかかる。
朽長が猛スピードで逃げるが、黒い霧は広がりながら奴を追跡する。
自分の攻撃的な意識が、世界を黒く染めていくような錯覚に陥る。
霧は四方八方から朽長を取り囲み、逃げ道を完全に塞いでしまう。
周りを見渡し、逃げ道をないことを悟ると、朽長は力を放ちはじめる。
鎧がさらに赤く輝きだし、周囲に透明なバリアのようなものを作り出す。
だが、黒い霧はそのバリアを侵食しはじめる。
「ちっきしょーーーー!! なんなんだこれは!!」
バリアはもちろん、身にまとっている鎧すら霧が食らっていく。
「力がぬけていきやがる! くっそーーー!!」
吼える朽長。
そこで。
黒い人影が遠くから近づいてくると、銀色をした剣のようなもので霧を断ち切る。そして、力尽きかけていた朽長を助けだし、霧の包囲から素早く抜け出す。
「兄さん」
それは朽長と同じ甲冑を身につけた竜司だった。




