第93話 信じて戦え
あと葉との戦いによって叔父の家、つまり俺たちの住んでいたところは半壊した。だがこの家には地下室があり、今はそこで寝泊まりしていた。部屋は2つあったので、一つは鏡美が、もう一つは俺とアリアが使っていた。
俺はその部屋のベッドに寝転んでいた。そして、体が浮かび上がるイメージを思い描くと、そのとおりにゆっくりと浮かび上がる。
「竜一、安定して能力が使えるようになったんだな」
アリアが空色の瞳を輝かせて喜んでくれる。叔父の言った通り、アリアと両想いになったことで、俺はかなり力をコントロールできるようになっていた。
これならなんとかなるのではないかと希望を持ちたいが、そんなに甘くはなさそうだ。
今日は俺とアリア、鬼灯、鏡美の4人で話し合いをすることになっていた。
鬼灯を通じて竜司から連絡があった。
わざわざ戦う場所、日時を指定してきた。
場所は結界学園。
日時は1週間後。
竜司が積極的に俺と戦おうとしていることが少し気がかりだが、俺には好都合だ。
敵は生徒会長竜司と副会長鬼灯朽長の2人。
こちらは俺にアリア、鏡美、鬼灯の4人。
数では勝るが、敵は文字通り化け物だ。
どう戦うか。
俺たちは輪になって座っている。
4人のうち、俺とアリアの2人はセット。
鬼灯朽長との戦いでは鬼灯の存在が不可欠になる。
「俺とアリアが竜司と、鬼灯と鏡美は鬼灯朽長と戦うことにしよう」
「私が鏡美さんと組むんですの?」
「俺とアリアが自由に離れられない以上、そうするしかない。それに鬼灯には兄貴に対応してもらいたい」
「私、正直自信がありませんわ」
「お前の力の本質は人を傷つけないことだ。
だからこそ、相手に怖れずに最大の力で使うことができる」
彼女は驚いたと同時に納得したようにうなずく。
「鏡美、鬼灯の力をバックアップしてあげてほしい」
「分かったよ、お兄ちゃん」
鏡美にとってもかなり覚悟のいる戦いとなるだろう。いつものおどけた感じがまるでない。
突然、大きな地震のような激しい揺れとともに地下室の天井が崩れ落ちてきた。
「きゃあああああ!」
「な、なに?! 何が起きたの?!」
「敵襲か?!」
このままだと生き埋めになる。
僕はそのときにふと思った。
落ちてくる瓦礫を全て、消し去れば。
そう思うと一瞬にして上から落ちてくる全てが消えて、目を覆うほどのまぶしさに瞼を閉じた。
目を開けると上空に人影があった。
赤い鎧を身にまとった男は鬼灯朽長だ。
こいつには借りがある。
妹の鬼灯との間がこじれたのはこいつのせいなのだ。赦すことは断じてできない。なぜこいつが出てきたのかよく分からないが、こいつ一人だけなら、なんとかなる。
そう思えた。そう思えなければ勝てない。
信じる力が俺の力だから。
俺はアリアとともに浮かび上がった。
朽長の浮いている高さに到達する。
「いつの間にそんな力を? だが、いかに力をつけても、俺の敵じゃねえ」
挑発的な口調の朽長。
「戦いは1週間後じゃなかったのか?」
「安心しろ、会長と二人がかりでなくてもお前らなんて敵じゃねえ」
どうやら、この奇襲は朽長の独断専行らしい。
銀龍と化した鏡美の頭に乗った鬼灯が、俺の隣に来た。
兄妹がにらみ合う。
「みなわ、俺とやりあおうなんて、いかに無謀なことをしているのか思い知らせてやる!」
朽長の圧力に、鬼灯は全身を震えさせる。
だが、一歩も引かない。
「お兄様、私は負けるつもりはありませんわ!」
彼女の凛とした声が響いた。




