第92話 ふたり
やや曇りかけた空。雲の切れ目から差し込む光。
残された俺とアリア。
「今のは、どういうことだ?」
アリアの声に反応して俺は振り向く。
金の髪と空の色の瞳の彼女は幻想的で、今そこにいるのにこの瞬間にも消えそうだ。
「アリア」
彼女を真っ正面から見つめる。
顔を赤らめ、俺から目をそらす。
「なんだ? 私の顔になんかついているか?」
「いや、お前があまりにきれいだから見とれてるだけだ」
「なっ?! お前どうした、熱でもあるのではないか?!」
慌てふためく彼女は普段の凛々しさとのギャップもあって、ただひたすらかわいらしい。
「アリア」
「な、なんだ?」
「好きだ。ずっと俺と一緒にいてほしい。たとえこの先どんなことがあっても、いつも側にいてほしい」
俺の口から淀みなくこんな言葉が出るとは自分でも驚きだった。だけど、これが俺の偽りのない気持ちだ。以前、告白したときのような、彼女を利用しようとするような考えは全くない。
アリアは伏し目がちになり、なかなか答えてはくれない。
たとえ、彼女の返答がどうあれ、俺はそれを受け止める。俺は彼女に気持ちを伝えられたことだけで満足し、とても晴れやかな気分だった。
沈黙のときがとてつもなく長く感じられた。唐突に。
「お前の気持ちは分かった。お前が私を望むのなら、私もお前とずっと一緒にいたい」
そういって彼女は俺の手をとってくれた。
彼女の温もりが手を通じて伝わってくる。
よくもまあ、ここまで仲良くなれたものだ。
今まであった数多くの喧嘩。
お互いの醜い部分もさらけ出しつつ、それでも歩み寄れたことは奇跡だろう。
俺たちは抱きしめあう。
雲の切れ目が広がり、差し込む光は俺たちを祝福しているようだ。
そして、キスをした。
今までのどのキスとも違った。
「これからよろしく頼む、アリア」
「こちらこそな、竜一」
穏やかな時が流れる。
しかし、気づけば空は黒い雨雲に覆われていた。
次の瞬間、爆音と衝撃で俺たちは倒れこんだ。どうやら、すぐそばにあった木に雷が落ちたらしい。木が縦に裂け燃えている。
今の衝撃でお互いの手を離してしまった。
そこにポタポタと大粒の雨が降り始める。すぐに激しい天の号泣のように、それは地面を濡らす。
地面に座り、不安そうに空を見上げているアリアの顔を雨水がつたっていく。




