表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

92/99

第92話 ふたり

 やや曇りかけた空。雲の切れ目から差し込む光。

 残された俺とアリア。


「今のは、どういうことだ?」


 アリアの声に反応して俺は振り向く。

 金の髪と空の色の瞳の彼女は幻想的で、今そこにいるのにこの瞬間にも消えそうだ。

 ‎

「アリア」


 彼女を真っ正面から見つめる。

 顔を赤らめ、俺から目をそらす。


「なんだ? 私の顔になんかついているか?」 

「いや、お前があまりにきれいだから見とれてるだけだ」

「なっ?! お前どうした、熱でもあるのではないか?!」


 慌てふためく彼女は普段の凛々しさとのギャップもあって、ただひたすらかわいらしい。


「アリア」

「な、なんだ?」

「好きだ。ずっと俺と一緒にいてほしい。たとえこの先どんなことがあっても、いつも側にいてほしい」


 俺の口から淀みなくこんな言葉が出るとは自分でも驚きだった。だけど、これが俺の偽りのない気持ちだ。以前、告白したときのような、彼女を利用しようとするような考えは全くない。

 アリアは伏し目がちになり、なかなか答えてはくれない。

 ‎たとえ、彼女の返答がどうあれ、俺はそれを受け止める。俺は彼女に気持ちを伝えられたことだけで満足し、とても晴れやかな気分だった。

 ‎沈黙のときがとてつもなく長く感じられた。唐突に。


「お前の気持ちは分かった。お前が私を望むのなら、私もお前とずっと一緒にいたい」


 ‎そういって彼女は俺の手をとってくれた。

 ‎彼女の温もりが手を通じて伝わってくる。

 ‎よくもまあ、ここまで仲良くなれたものだ。

 ‎今まであった数多くの喧嘩。

 ‎お互いの醜い部分もさらけ出しつつ、それでも歩み寄れたことは奇跡だろう。

 

 俺たちは抱きしめあう。

 ‎雲の切れ目が広がり、差し込む光は俺たちを祝福しているようだ。

 そして、キスをした。

 ‎今までのどのキスとも違った。


「これからよろしく頼む、アリア」

「こちらこそな、竜一」

 ‎

 ‎穏やかな時が流れる。

 ‎しかし、気づけば空は黒い雨雲に覆われていた。

 ‎次の瞬間、爆音と衝撃で俺たちは倒れこんだ。どうやら、すぐそばにあった木に雷が落ちたらしい。木が縦に裂け燃えている。

 今の衝撃でお互いの手を離してしまった。

 そこにポタポタと大粒の雨が降り始める。すぐに激しい天の号泣のように、それは地面を濡らす。

 ‎地面に座り、不安そうに空を見上げているアリアの顔を雨水がつたっていく。


 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ