第90話 別れは悲しいだけじゃない
鏡美の一撃。
炸裂したそれは光の柱になって雲をも貫いた。竜司は完全にその中に飲み込まれている。少し離れたところにいたエルは巻き込まれなかった。
凄まじい速さで竜司に攻撃を当てた鏡美。
今まで本気を出していなかったがよくわかる。
だが、なにかがおかしい。
違和感を覚える。
その正体はすぐに分かった。
竜司の能力が全く作用していない。
頭痛もなにもなかった。
みんな苦しんでいる様子もない。
やつに敵意があるだけで、反撃を全くゆるさないあの結界がどうして発動していなかったのか。
あいつがわざと発動させなかった?
だとしたらどうして。
しかし、なんにせよあいつのことだけは赦せない。赦してはいけない。たとえ、神が赦そうとも。今の一撃で葬れているならそれでよし、そうでないなら俺がこの手で葬る。
光の柱がその輝きを失い、小さくなっていく。
そして、そこに竜司の姿が。
な?!
その場にいたものがみな騒然となった。
確かにそのシルエットは竜司に違いない。
だが、竜司は全身銀色の鏡と化していた。
「なにを驚いているんだい?」
竜司の声だ。
すると、表面の銀が剥がれて、中から生身の竜司が姿を現す。剥がれて落ちた銀色の物体は集まると蛇の形になり、竜司の手に戻る。
竜司は今ので鏡美の攻撃を防いだのだろう。
「鏡美ちゃん、今の攻撃はさすがにやりすぎだよ。いくら強くても君は人を殺しちゃいけない。自分を正義だと思うと敵を悪と見なして殺してしまう。だけど、それは往々にして入れ替わりうるんだ」
だが、そんなこと知ったことではない。
こいつだけは赦さない!
体から力が湧き上がってくる。
「僕はこの裏切り者さえ片付けたら、次でいいんだけどな、決着は」
そこには次で必ずけりをつけるという竜司の意志が見てとれた。
「もう生徒会メンバーだからどうとかという手続きなんて不要だ。次会うときが兄さんが死ぬときだ」
その迫力に気圧された。
そこにエルが近づいてきて、竜司ごと転移して姿を消した。
エルが竜司に従っているのは、きっとアルを人質にでもとられているのだろう。
家が半壊したため、研究所の一室を借りることになった。
「お兄ちゃん、恋人としては別れよう」
唐突な鏡美の言葉に驚いた。
「急にどうした? なんでそうなったんだ?」
「お兄ちゃんには、ふさわしい人がいることに気づいたんだ」
そう言ってアリアのほうを見てウィンク。
「なんだ?」
当のアリアはいまいち訳がわかってない様子だ。
俺は鏡美をじっと見た。
「お前の気持ちにちゃんと応えてやれなくてごめん。それとありがとな」
「仕方ないよ、私がいくら頼ってほしいと思っても頼ってくれなかったのに、アリアさんのためならあっさり頼ってくれるんだもん。負けたよ」
そう言って寂しそうな笑顔を浮かべる。
俺にはまだやるべきことが残っていた。
傷つけるかもしれない、悲しませるかもしれない。
でも、きっちり心を決めないと。
今回亡くなったあと葉のためにも。




