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第88話 とある形の絆

 こいつの想いは竜司には決して届かない。

 ‎だから、俺との恋愛ごっこだ。

 ‎姉のことが嫌いなのに、これだけ姉を作って戦うのは姉を自分の意のままに操れるような気分に浸れるから。

 ‎家戸あと葉の本質は本当に得られないもののために仮初めで我慢する、自分の気持ちに嘘をつく、そういうことなのだろう。

 ‎俺は分かってしまう。

 ‎自分と似ているからだ。

 ‎今、思えば、最初にアリアに告白したときも、鬼灯に告白したときもそうだった。

 ‎まだ、自分をごまかすことから完全に脱却はできていないが、おそらくいつも側にいてお互いに心底本音をぶつけられたアリアの存在は俺にとって大きかったのだろう。

 ‎少しずつ自分という殻から脱け出しはじめている気がする。

 ‎本来、家戸あと葉は弟の竜司との叶わない恋も弟と似ている俺を代わりにする恋もやめるべきだ。

 ‎だが、今はこの方法で俺の味方になってもらう。

 ‎竜司と鬼灯朽長があまりに強いからだ。

 ‎それに今の家戸あと葉にいきなり一人でやっていけというのは俺にはあまりに酷だと思える。

 ‎アリアのおかげでようやく乗り越えはじめることのできた壁の高さは、俺が誰より分かっているつもりだ。


「家戸いや、あと葉。俺は君の気持ちが分かる。俺たちは似た者同士だから。だからこそ俺たちの間にしか生まれない絆もある」


 合わせ鏡のようにお互いを永遠に映しあい、自分とそっくりだからこそ受け入れることもできれば、受け入れられない部分もある。

 ‎俺はあと葉と手のひらを合わしていた。

 ‎それで何かが伝わった気がする。


「竜一さん、あなたに賭けます……」

 

 彼女には俺がかけた言葉で十分だったのに、誰もそれをかける人がいなかった。

 ‎それで彼女はなにか狂気じみたものを自分の中で育ててしまった。

 そんな気がする。 

 彼女のことを見るように、竜司のことも見れたらと思う。

 何かよく分からない暖かい気持ちに胸が熱くなる。

 あと葉は涙を見せていた。

 ‎俺とあと葉は微笑み合う。


 視界が急に奪われ、俺はうつむいた。

 ‎なにかが目の中に飛び込んできた。

 ‎いや、顔全体にかかったというほうが正しいだろう。

 ‎顔をぬぐうと、それはぬめぬめとして暖かく、そして赤かった。


「うううう」


 正面から音が聞こえる。

 ‎いや、声か?

 ‎目をこすって、正面を見る。

 ‎家戸あと葉の胸から棒状のものが一本突き出ていて、そこからドバドバと出血していた。


「ああああ」


 あと葉の声帯が音を出す。

 ‎それは声というにはあまりに機械的な音だった。  ‎

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