第83話 家戸姉妹の真実
姉妹二人の手の間にできた裂け目が、すごい勢いで周囲の物という物を飲み込みつつあった。
それどころか鏡美自体が風によって裂け目に吸い寄せられはじめる。
俺もアリアも鏡美にしがみつく。
ちなみにアリアは先ほど以上にボロボロになっていた。
さっき風で飛ばされたとき、俺と2メートル以上離されそうになり、結界の境界壁と接触したためだろう。
そんなことを思っているうちに、龍と化した鏡美自体がぐいぐいと裂け目に引き寄せられていく。
「このままじゃ、あの穴に俺たちみんな吸い込まれてしまう」
「私がなんとかする」
鏡美はそう言うとあえて距離をつめて、尻尾で姉妹に襲いかかる。
「あと葉、危ない!!」
姉のさき葉が妹のあと葉を身を挺してかばう。
さき葉のおかげで、あと葉はすれすれのところで、鏡美の尻尾に当たらなかったが。
「っっ!!」
さき葉は尾の一撃をまともに受けて、すぐ横の壁につっこむ。
あれは……かなりの重症、いや下手をすると命に関わるほどの衝撃があったのではないか。
鏡美を責めるつもりはないが、人殺しになってほしくはなかった。
裂け目は消え、風は止んだ。
俺はさき葉が突っ込んだ場所を凝視し、その安否を確認しようとした。
だが、次の瞬間予想だにしないことが起きる。
衣服の埃をはたきながら、さき葉が壁の中から姿を現す。
「派手につっこんじゃった!」
そう言う彼女はまるで傷一つ負っていないかのような振る舞いだ。
「どうなってやがるんだ?! あれは姉のさき葉の能力なのか?」
「私にもどうなってるか分かんない。死んでたらどうしようと思ったけど、生きてるからまあいっか」
俺の問いにややおどけ気味に答える鏡美。
俺たちとは対照的に妹のあと葉はさき葉の様子にあまり驚いていないようだ。
しかし、この風の止んだ一瞬に。
「行くぞ! 竜一!」
アリアは俺の手を引いて鏡美から飛び降りると、数メートル離れた家戸あと葉に一気に攻撃をしかけた。
だが、それを読んでいたとしか思えないタイミングでさき葉があと葉とアリアの間に割って入る。
アリアが鞘に入ったままの剣で容赦なく家戸さき葉を殴り付ける。
さき葉はその場で倒れるが、相手に時間を与えてしまった。
あと葉が再び目に見えない攻撃をアリアに仕掛けた。
アリアはまたしてもまともに食らってしまい、苦悶の表情でうずくまる。
「自分からまたここに入ってくるなんて……」
家戸あと葉は飽きれ気味に言う。
「アリアさんのバカ、なにしてるの?!」
頭上で銀の龍がお怒りだ。
しかも、またしても何事もなかったかのように、起き上がる家戸さき葉。
さらに、さき葉がアリアに対して手を翳すと、アリアは動けなくなった。
これがSクラスの強さなのか、姉妹でこの能力は脅威だ。
結界の能力は根本的には1人一種類である以上、かなり広い力の使い方をしているはず。
だが、なんにしても。
「アリア、どうしてこんなバカな突撃を?!」
すると、アリアはキリッとした瞳で俺に答えた。
「この家戸さき葉という娘、人の気配がしない! 直接殴ってみて確信した。これはなんらかの幻影だ!」
なんだって。
「そうですか……。アリアさんはやはり勘がいいのですね……。この姉さんは私が結界の力で過去の記憶から作り出したものです……」




