表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

81/99

第81話 助けを求める強さ

 家戸あと葉は一切動いていない。

 ‎にも関わらず、目に見えない攻撃が次々と飛んでくる。

 ‎だが、結界の範囲は部屋の中。

 ‎出てしまえばいい。

 ‎

「部屋から出るんだ!」


 俺がアリアの手を取って、後ろに引こうとする。

 ‎だが、そのとき、あと葉の視線を感じた。


「逃がしません……」


 不意に、俺のみぞおちに強烈な衝撃が刺さった。

 息は止まり、逆に涙が止まらなくなる。

 ‎気がつけば手と膝をついて嘔吐していた。

 ‎

「竜一! うっ!」

 ‎

 アリアもさらに一撃を受けたらしいが、俺はそれを気遣う余裕もなかった。 ‎


「お兄ちゃん! アリアさん! あと葉先輩、よくもお兄ちゃんを! は、はつ……!」


 まだ部屋に入っていない鏡美。

 だが、様子がおかしい。

 ‎結界を発動しようとするが、どういうわけか発動ができないらしい。

 顔色が悪くなり、冷や汗をかきはじめる。

 やがて‎目が虚ろになって、呼び掛けても応答がなくなった。

 

「なにをした?!」


 鏡美の異常の原因は家戸あと葉しか考えられない。

 ‎家戸あと葉は俺の問いに対し、どこか嬉しそうに答えてくる。


「結界を使えないように……怖い記憶を植え付けておきました……」


 やっぱりか。

 ‎しかし、記憶をそんなふうにいじることができるとは恐ろしい相手だ。 


 その間にもアリアは攻撃を何度も受け続けていた。

 一発一発の威力はそれほどでもないようだが、見えない上に気配もないため、まともに食らってしまう。

 ‎すでに相当な回数を受けて、立っているのもやっとのようだ。


 もう見ていられない。

 ‎俺はなんとか立ち上がると、家戸あと葉に向かって突進していた。

 ‎だが、両膝を前から固い棒で殴られたような衝撃を受け、俺は床に崩れ落ちた。

 ‎

「うわあああああ!」


 ‎痛みのあまり思わず俺は声をあげた。


「竜一!」


「お兄ちゃん!」


「勇敢ですね……。でも、無謀です……」


 家戸あと葉は哀れみをこめた言葉をかけてくる。

 ‎いったいどうなっている?!

 ‎どういう能力なのか皆目見当もつかない。

 能力が分からなければ、勝ち目はない。

 ‎もしくは鏡美が結界を使うしか。

 ‎

「ぐっ……!」


 アリアはもう限界だ。

 ‎俺はこれまで一度もできなかったことをした。

 ‎

「鏡美、助けてくれ! お前が結界を使うしかアリアは助けられない! 頼む! アリアを、俺を助けてくれ!」


「お、お兄ちゃん、今なんて?!」 


 鏡美に反応があったので、俺はさらに頼んだ。


「頼む、助けてくれ!」


 鏡美は信じられないようなものを見るような目で俺を見ていた。

 ‎そして、アリアに目をやる。

 ‎鏡美の瞳にどういうわけか涙が浮かぶ。

 ‎再び、俺に視線を向けると。


「任せて!」


 満面の笑みで力強い声だ。

 ‎鏡美は深呼吸すると、迷いない瞳で声を張る。


「発動!」

 

「まさか……? できるはずがないです……」


 驚いた家戸あと葉の前で、鏡美が光に包まれる。

 それは長く太い白い縄のようになって、部屋の天井を貫き、天に伸びる。


 屋根がなくなった頭上の夜空に、月光で輝く鏡の鱗をまとった巨大な龍が舞っていた。

 ‎

 

 

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ