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第8話 アリアのいた世界

 そして、研究所につくと俺たちはまず簡単な手当てを受けた。

 その後、叔父は研究所内の奥にある自室に俺たちを招いた。


「そこにかけたまえ」


 俺とアリアはテーブルに並んで腰かける。

 叔父は俺の向かい側に座った。


「アリアくん、君の元いた世界について教えてほしいんだ。

 君も元いた世界に戻りたいんだろ? 

 なにか手がかりがつかめるかもしれない」


 アリアはまだ、叔父に対して不信感を持っているだろう。

 元の世界に帰る手がかりと言われると弱いのかアリアは話し出す。


「私の世界は危機的状況だった。

 魔王とよばれる邪悪な存在が現れ、世界を支える竜樹様は力を奪われていたのだ。

 さらには魔王は人々を魔竜にする。

 さっき見せられた絵がその魔竜だ」


 写真というものは少なくともアリアの世界にはないらしく、絵と言ったのだろう。


 叔父は顎を右手で触りながら訊ねる。


「うーん、そのりゅうじゅ様というのは?」


「竜に樹木の樹で竜樹様。

 竜樹様は私の世界にあるとても大きな木で、世界を形作っておられる。

 魔王の出現と同時期にこの竜樹様の力が弱まり、世界が崩壊しはじめている。

 それを食い止めるため、私は魔王を倒すべく魔王の居城に乗り込んだ。そして、魔王の部屋に入ったのだが、そこは竜一の部屋だった。竜一はのんきに寝ていた。それがわたしがここに来た経緯だ」


「ほう、それはまた興味深い」


 叔父は眼鏡の奥の瞳をギラギラと輝かせて俺を見る。


「君、実は魔王なんじゃない?」


「冗談じゃねえよ」


「ハハハ。

 まあそれはないにしても魔王の部屋と竜一の部屋がつながっていたと。

 ただ、世界を危機的状況にするような魔王という強大な相手にアリアくんはどうやって立ち向かうんだい?」


 するとアリアは脇に差した剣を示す。


「この水鏡の剣なら倒せると聞いた。だがこれは魔王や魔竜の気配がなければ、決して抜けない。もちろん今は抜けない」


 そして、この通りだと剣が抜けないことを実際にやって見せた。

 ふむふむと頷きながら右手をアリアのほうへ差し出した。


「その剣、少し見せてくれないか」


 アリアは眉をひそめた。


「これは大事なものだから、普段は人に触らせないが、やむを得ないな」


 そう言ってアリアは剣を叔父に渡した。


「少し借りるよ」


 叔父は剣を持ったまま、立ち上がると何歩か歩きだした。

 そのとき。


「うぐっ」


 叔父の周りが赤く発光し、叔父は剣を落とした。


「今ビリっときたよ。

 どうやらこの剣も竜一の結界から外へは持ち出せないということのようだな」


 俺は落ちた剣のほうへ歩いていき、回収してアリアに返した。

 その時、叔父は腕時計で時間を確認した。


「そろそろだな。君たちはここで待っていなさい。

 すぐに戻ってくるから」


 そう言い残して、叔父は出ていった。

 俺たち二人は並んでソファに座ったまま、しばらく沈黙していた。

 不意にアリアが口を開いた。


「さっきはすまなかった。お前を守るといいながら」


「いや、仕方なかっただろ」

 

 彼女の強力な能力も垣間見れたので良しとする。

 それよりも重大な案件を話している最中だったことを思い出し、俺は切り出す。

 

「君が大きな使命を負っていること、あとどうして俺を魔王と疑っているのかも分かった。

 だが、俺は諦めきれない。俺の君を想う気持ちのことは話したけれど、君は俺のことをどう思ってるのかな?」

 

 アリアは露骨に困惑した表情を浮かべていた。

 心持ちか顔を赤らめているように思う。


「どうしたらいいかよく分からないが、その……」


「その?」


「その……」

 

 なにかとても言いにくそうにしているアリア。

 切羽詰まった非常事態のようだ。


「どうした? はっきり言ってくれたらいいんだ」


 これはひょっとして、と内心俺はほくそ笑んでいた。


「と」


「と?」


「トイレはないか?! トイレだ!」

 

 なるほど、そっちの非常事態だったのか。


「なんだ、トイレか」


 つい呆れた様子で言ってしまった。


「お、お前、なんだとはなんだ! なんだとは!」


 頬を真っ赤にして涙目で話すアリアは客観的に見てもかわいいだろう。

 まわりを見渡すと部屋の右手にトイレがあることが分かった。


「あそこだ」


 そそくさとトイレに向かうアリアに俺もついていく。


「そうだったな、これからはトイレのときもバスタイムもお前に付き纏われるんだったな」


 人を背後霊のように言わないでもらいたいが、年頃の女の子なら当たり前だろう。

 トイレの前に着くと、アリアは恐ろしい形相で言った。


「わたしが出てくるまで、絶対耳をふさいでいろ。

 さもないと二度と耳が聞こえなくなるとしれ!」


「わかった、わかったよ」

 

 鬼神のような迫力があったし、変な趣味があるわけでもないので、耳をしっかりふさいでトイレの扉の前でしばらく待った。


 その後、再びソファに腰かけた俺たち。

 唐突にアリアが話はじめる。


「さっきの話だが、少し考えさせてもらいたい」 


 これは可能性ありだな。

 もうすぐ復讐の駒が手にはいる。

 今日祝日だったので三連休だったが、連休あけまでに彼女を陥落させたい。


 そんなことを考えていると叔父が戻ってきた。

 

「待たせたね、行こうか」


 部屋を出て、緑色の長い廊下を歩き続ける。


「どこに連れていくつもりだよ、叔父さん」


「ここだよ」


 そう言って叔父は広くて天井も高い真っ白な部屋に俺たちを入れた。

「アリア君の戦闘データをとりたい。そこでわが研究所が誇る結界使用者と模擬戦をやってもらう。

 うちにはいろんなのがいるから君たちにも役立つだろう」

 

 これはありがたいと思わなければならないだろう。

 俺が怪我しててもお構い無しなのはこの際、目をつぶるか。

 こうして、俺たちは模擬戦をすることになった。

 この模擬戦は俺とアリアの関係に大きな影響を与えることになる。

 

 

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