第77話 赤い鎧の激闘
竜司は続けた。
「善と悪なんて難しい言葉ではなく、善は自分に都合のいいもの、悪は自分に都合の悪いものと考えたらいいです」
「お前の説明なんぞ興味ねえんだよ!!
お前をぶっ飛ばすだけだ!!」
鬼灯朽長は力任せに枝の壁に拳を突き立てる。
だが、幾重にも枝が重なった壁は極めて頑丈で貫けないようだ。
しかも枝が拳に絡まり、鬼灯朽長はほぼ動けなくなった。
「ちっ!」
舌打ちする鬼灯朽長を見て、竜司は呆れ顔でため息を漏らす。
竜司の赤い瞳がギラギラと輝いていて、遠目に見ても俺は恐ろしいものを感じたとともにどこかほっとする。
自分の感情を理解できない自分がいた。
竜司が背筋の凍るような表情する。
それはまるで俺の期待に応えるかのようだ。
「せっかくすごくためになる話をしているのに、聞く耳を持たないなんて、先輩がそこまで猪突猛進な方とは。仕方ありませんね」
竜司の口角が上がってできた微笑をみて、俺の全細胞が悲鳴をあげそうな感覚に陥る。
「本物のあなたが偽物の僕を倒せるか試してみますか?」
竜司がそう告げると、朽長を捕らえていた檻のような枝の塊がほどけていく。
「ん? お前、なんのつもりだ?」
当然の疑問を投げる朽長に竜司は丁寧に返す。
「同じ条件で真っ向勝負という意味です。僕は本来持っている力は使わず、あなたのこの鎧のみを使うことを誓います」
「ふん、後悔しても知らねえぜ!!」
まるで鏡にうつっている自分を見つめるかのように、同じ甲冑姿で向かい合う竜司と鬼灯朽長。
ほぼ同時に宙高く飛ぶ。
空中で幾度となくぶつかり合う音と衝撃が下で見ている俺たちに伝わってくる。
高速の動きに目がついていけない。
その光景を俺とアリアが見ていたが、アリアがつぶやいた。
「なんて、戦いなんだ……! 私がどうにかできる相手ではない」
アリアは俺よりは激闘の様子が見えているようだ。
だが、俺でも分かる。
この戦いはアリアにどうにかできる次元ではないことくらい。
唐突に闘技場の壁に崩れる。
壁に激突した鬼灯朽長の姿は装甲が部分的にひどく破損し、血まみれで無惨なものだ。
そこから少し離れた空中に、傷ひとつ負っておらず腕を組む竜司の姿があった。
竜司の鎧の右肩の部分が竜の顔のような形に変形すると口を開く。
そこから巨大な火の玉が鬼灯朽長めがけて放たれる。
着弾し爆発する。
土煙が去ったあと、防御しつつも満身創痍と思われる鬼灯朽長の姿が現れた。
竜司がその朽長に言い放つ。
「鬼灯先輩、これで終わりにしましょう!」
竜司が右腕を朽長に向けて突きだすと、右の手のひらが輝き、そこから白い小さな光弾が発射される。
ダダダダダダダー!!
まるでマシンガンのような音が空気を震えさせる中、無数の光弾が鬼灯朽長を襲う。
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