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第75話 木

 鬼灯朽長が頭上から竜司に迫る。

 そのとき。

 地面からこれまでよりはるかに多くの太い枝が現れる。

 その光景はまるで、多数の龍が空に昇るようだった。


 闘技場の床一面に根を張り、天井を突き破ったそれは巨木だ。

 黒い枝、黒い葉。

 ‎竜司はその中に立っていた。


「なんだ?! 変な木を召喚したのか?! こんな能力あるなんてきいてねえぞ!」


 鬼灯朽長が木から距離を取る。


 巨木の一際太い枝8本の先端が少し縦に割けたと思うと口のようになった。

 ‎そして、枝の中から赤い瞳が姿を現す。

 ‎まるで8つの頭にそれぞれ2つずつの瞳をもつ竜だ。


 それらが一斉に咆哮する。


 凄まじい音で脳の芯まで響く感覚。


「あれはなんだ?! アリア、あれを見たことがあるか?」


 アリアは首を横にふった。


「見たことはない! 魔竜とも違う気配だ。だが、この気配どこかで……。いや、分からない!」


 鬼灯朽長は手のひらを合わせると巨大な光の球を作り出す。


「化け物が! これでもくらいやがれ!」


 鬼灯朽長の叫び声にしたがって、光の球は巨木のほうにとんでいくと、8つに分散する。そして、それぞれの球が8つある竜の頭に向かって高速で近づき、炸裂する。

 爆炎の光で俺は一瞬目を閉じる。

 ‎目を開けると巨木は煙で見えない。

 ‎どうなった?


 その直後、竜の頭のひとつが不意に煙をやぶって鬼灯朽長の目の前に出現すると、鬼灯朽長にかぶりついた。

 ‎避ける暇がなかった鬼灯朽長はギリギリのところで光のバリアを周囲をめぐらせる。

 ‎そのバリアに竜の黒い牙が食い込む。


「ちっきしょう!」


 鬼灯朽長が吼える。


 パリーン、と皿が割れるような音が大音量で耳をつんざく。

 ‎同時に砕けた鬼灯朽長のバリア。

 ‎閉じられる口。

 ‎鬼灯朽長は竜の口の中に消えた。

 かに見えた。

 ‎だが、口が閉じきったと思ったそのときに竜が悲鳴をあげると首を大きくふって、大口を開け、中身を吐き出す。

 ‎壁に叩きつけられたそれは鬼灯朽長だった。

 ‎赤い鎧の両腕のパーツが一部変化し、剣のように尖っている。

 ‎あれを用いて脱出したのだろう。

 だが、彼も無傷とはいかなかったらしく、体を覆った赤い装甲の一部が破壊されていた。

 壁にめり込んで動けないらしい。


 そこに他の竜の頭が1つ迫る。

 竜の頭は鬼灯朽長の手前でとまる。

 その竜の頭の上には人影があった。

 竜司だ。


「鬼灯先輩、さすがに強いですね。

 まあ半分くらいはさっきの子供のお手柄ですけどね」


 竜司は体の一部を細い枝に包まれて立っていた。

 そうしている間に、彼のみるみる体力が回復していることが分かる。


 鬼灯朽長は吐き捨てるように言葉を返す。


「お前、その木なんなんだ?! そんなの召喚できるなんて聞いてねえぞ!」


 竜司はぞっとするほど邪悪な微笑みを浮かべて言った。


「これこそ善悪の知識の木」



  


   

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