第74話 異変
竜司が一方的にやられる姿を、俺は意外にも失望した気分で見つめていた。
しかも相手はアルだ。
そんなBランクで、めちゃくちゃ強い能力者というわけではないはず。
鬼灯朽長にやられているならまだしも、明らかに格下のアルにやられている竜司の姿は見ていられなかった。
弱点を突かれたらこうも一方的にやられるものなのか。
「ざまあねえな、生徒会長どの」
鬼灯朽長はアルとエルの結界に守られて安全なところから蔑む。
なんだこれは。
こんな馬鹿げた光景を生きたまま見せつけられることになるなんて。
今の竜司を見ていると、足元がぐらつくような気分になってくる。
「竜一、大丈夫か? やはり、会長の能力で頭痛がひどいのか?」
俺は何も答えずアリアの手をそっと握った。
アリアは優しく握り返してくれた。
そうすると、なんとかこの状況を見届けることができそうな気がした。
「会長、降参しろ! それとも死ぬか?」
鬼灯朽長が吠える。
竜司は血だらけになって横たわっているが、わずかに動いているから息はある。
だが、これ以上攻撃が続けば間違いなく死ぬ。
そのときだ。
竜司の全身が赤く光りだす。
「な、なんだ?!」
鬼灯朽長もさすがに驚きを隠せない。
「竜一、これは?!」
アリアが声をあげる。
「……?!」
見るとアリアの水鏡の剣が光り、震えている。
まるで共鳴しているようだ。
そして、竜司がゆっくりと立ち上がる。
「まだ立ち上がれんのか?!」
鬼灯朽長がアルに攻撃続行を命令する。
だが、アルの攻撃が止まった。
「おい、何してやがる! あいつをやっちまえ!」
しかし、アルは攻撃しない。
それが証拠に竜司はそのまま立っている。
いや、アルの様子を見るに、続けて竜司に攻撃しているようだ。
それが竜司に全く効いておらず、サイコキネシスが作用していない。
不意に竜司の足元から赤黒い木の枝のようなものが一本伸びると、猛スピードで鬼灯朽長に飛びかかった。
鬼灯朽長はそれを非常に素早い動きで回避する。
あの鎧にはスピードをあげる力があるのだろう。
赤黒い枝はUターンして背後から鬼灯朽長に襲いかかる。
すると、鬼灯朽長の鎧の背中の部分から翼のようなものが伸び、上空に飛び立って攻撃をかわす。
竜司の足元から数本の枝が飛び出し、アルやエルに絡み付いて瞬く間に捕縛する。
枝はさらに空中に浮かぶ鬼灯朽長を追跡する。
鬼灯朽長はこの追跡をすんでのところで避けると、手からいくつもの青白い光球を放つ。
それは枝に命中し破壊する。
鬼灯朽長の鎧はあんな攻撃方法もとれるのか。
3本の太い枝が鬼灯朽長の周りを取り囲むと、太い枝から細かい枝がはえだして、それらが一斉に鬼灯朽長に攻撃をしかける。
すると鬼灯朽長の赤い鎧からこれまた多数の鋭い錐のような突起が生じ、迫りくる枝を叩き落とす。
そして、残りの枝を掻いくぐると、鬼灯朽長は直下の竜司めがけて急降下したのだった。




