第67話 罠
「どうしてそこで専属メイドって話になるんだ?!」
この文学少女っぽい眼鏡プラス3つ編みの女の子がメイド服を来てるところを一瞬想像してしまったが、罠であることが十分考えられるし、女の子ならアリアも鏡美もいる。
「あと葉は役に立つよ! この子は書き間違いを消しゴムや修正器なしで直せるんだから! それで書記で大活躍なんだよ!」
胸を張ってどや顔でいう家戸さき葉。
あ、けっこう胸はでかい。
じゃなくて。
え、なんだその微妙な能力?
「いや、うちにはメイドなんていらないから」
「そこをなんとか!
私、他に出せるものがないんだよ!
この妹くらいしかいないの!
1週間でいいからさ」
手を合わせてお願いしてくる家戸さき葉。
なんなんだ、こいつ。
他にないからって妹を差し出してくる謎の姉。
いろいろ調子の狂う展開だ。
「いらないのに、押し付けられても」
「絶対役に立つ! 絶対役に立つからさあ!」
押しの強いさき葉。
とここでアリアが出てくる。
「お前たち、何を考えている?
なにか企んでいるのではあるまいな」
アリアが家戸姉妹を鋭くにらみつける。
妹のほうは姉の背中に隠れて完全におびえている。
「こ、恐いよ……。お姉ちゃん私無理」
「大丈夫大丈夫! なんとかなるなる!」
のーてんきな姉である。
ほんとになんとも対照的な姉妹だな。
しかし、どう考えても怪しい。
「妹をこっちに押しつけないといけない理由でもあるんじゃないのか?」
「え、そんな理由なんてないよ、あはは……。あはは……」
ひきつり笑いでさき葉の様子が明らかにおかしい。
「本当のことを言え、お前」
アリアがどすを利かせた声でさき葉に迫る。
「ひぃぃぃ!」
悲鳴をあげたあと葉の瞳には涙が浮かんでいる。
と、そこでふと沸いてきた根本的な疑問を口に出す。
「あんた、自分を守ってほしいって言ったけど、俺たちはどうやって守ればいいんだ?
副会長に怯えるなら四六時中ということになるんじゃ?」
「そうね、学園にいる間はともかくそれ以外は常に一緒にいてほしいわ」
「じゃあ夜は?」
「だからここに泊めてもらおうと思って。
その代わり、妹がメイドとして全部家事をやるから」
この上なく図々しいことを臆面もなく言ってくる家戸さき葉はなかなかの大物なんじゃないかという気がしてきた。
しかも自分はなにもせず妹にさせるつもりとは。
しかし、冗談ではない。
そんなこと、鏡美もアリアも許すわけがない。
これ以上のトラブルはお断りだ。さらにややこしいことになりかねない。
ただ、こいつらが敵に回らないのなら、倒すべき相手は限られてくるのはメリットではある。
「あんたらと俺が戦う公式戦で、俺たちの不戦勝にしてくれるか?」
「え?もちろん。私たちはあんたに守ってもらうんだから当然でしょ」
さき葉は笑顔の二つ返事で了承した。
俺はアリアのほうを向き直る。
「これで公式戦でこの家戸姉妹と戦わなくてすむなら、ありなんじゃないか?」
なんて口にしてみると、アリアが視線だけで刺し殺そうとしている。
「これ以上周囲に女を侍らせたいのか、お前は!」
「ひぃぃぃぃ!」
この悲鳴をあげたのは俺である。
ちなみにこの後、俺は鏡美の前でも同じような悲鳴をあげることとなる。
それから気がつけばあっという間に1週間が経っていた。
今日も楽しく登校だ。
俺のかたわらには恋人のあと葉がいる。
3つ編みに眼鏡の彼女のチャーミングさといったら他の女子など問題にならない。
アリアという邪魔物が半径2メートル以内にいるのが難点だが。
あと、同居の鏡美もしかり。
あいつはただの従妹のくせになんか恋人面してくる。
でも、あと葉と俺の心のつながりには誰も入ってこれる余地はない。
復讐? なんだそれ、うまいのか。
今の俺は幸せだ。
誰に復讐なんかするんだ?
ん? なんかおかしいな。
気のせいか。




