第66話 家戸姉妹
家戸姉妹のことは、鏡美ならある程度知っているはずだが、残念ながら鏡美は部活の早朝練習のために出かけてしまっていた。
今は俺とアリアしかいない。
双子のうち、髪と瞳の黄色いほうがまず明るく話しかけてきた。
「私は家戸さき葉っていうの。生徒会で会計をしているわ。
この間はろくにご挨拶もできなかったから。
それからこっちの眼鏡の子は双子の妹の家戸あと葉よ。よろしくね!」
「書記の家戸あと葉です……。よろしくお願いします……」
眼鏡をかけた紫のほうが小さな声でぼそぼそと自己紹介を済ます。
明るくハキハキしたさき葉とやや暗くもじもじとした感じのあと葉。対照的だった。
「それであんたら、何しにきた?」
俺から切り出すと、黄色いほう、さき葉が答える。
「竜司様のお兄さんの竜一さん、ちょっと訊きたいことがあるんだけど?」
「なんだ?」
「竜一さんは竜司様を倒すことを考えてるよね?
そのために生徒会の役員に公式戦で勝って、最終的に竜司様に挑もうとしてるわけよね?」
いきなり突っ込んだ質問というか、こっちのことはなんでもお見通しですよアピールというか。
俺は今さら隠しだてしても仕方ないと判断した。
「ああ、そうだ」
「潔いわね、竜一さん」
感心したようにうなずくさき葉。
「そこまで知られてて隠しても無意味だしな」
「そう。だとしたら竜一さんは副生徒会長を倒すつもりなのでしょ? 実は折り入ってお願いがあってここにきたの」
お願い? 罠かなにかかと俺はアリアと顔を見合せる。
とりあえず聞いてみるか。
「お願いってなんだよ?」
「副生徒会長から私を守ってほしいの」
なんだ、そのお願いは?
思いもよらない要求だったのでびっくりしてしまった。再びアリアと顔を見合わせる。
「どういうことだよ、それ?
俺からしたら生徒会メンバー全員敵ってことなんだ。
あんたも含めて。
だいたい竜司がいたら大丈夫だろ?
副生徒会長から守ってほしいって、そもそも副生徒会長がなんであんたに危害を加えるんだ?」
絶対権力者の竜司がいれば、なんの問題もないではないか。
副生徒会長も相当な力の持ち主のようだが、竜司に勝てるならとっくの昔に勝負をしかけて会長の座に就いているはずだろう。
「竜一さんは会長の弱点について知ってるよね?」
どうしてそのことを。
思い巡らすが答えが全く分からない。
俺が黙っていると、さき葉は続ける。
「私は会長の弱点を補うために生徒会にいるの。私には予知能力があるから」
なるほど、竜司の弱点の偶発的な事故を防ぐためにこいつがいるというわけか。
その弱点を補うための予知能力。
その予知能力を持つ家戸さき葉が狙われるということは……。
「副生徒会長は竜司を倒したがっているのか?」
うなずく家戸さき葉。
「生徒会も1枚岩というわけではないの」
あの副生徒会長ならありうる話ではある。血の気が多そうな奴だったし。
「ただでとは言わない。お願いを聞いてくれるのなら、こちらも出すものは出すわ」
出すもの? なんだ?
「お願いを聞いてくれる代わりに、あと葉を竜一さん専属のメイドとして差し出すわ」
すると、あと葉が一歩前に出て、うやうやしくお辞儀をした。
「よろしくお願いいたします、ご主人様……」
なんでこういう展開になるのか、全く飲み込めない俺がいた。




