第59話 勝ち目のない相手
俺は鏡美の言葉を聞いて、ふと我にかえっていた。
「そんな能力……ありかよ……」
「お兄ちゃん、大丈夫なの?」
「竜一」
鏡美とアリアがそれぞれに心配をしてくれる。
「ああ、大丈夫だ。それより、今の話をもっと聴かせてくれ!」
鏡美はうなずいた。
「とにかくお兄ちゃんみたいに、竜司さんに復讐してやる、みたいに思ってたらあの頭痛がやってくる。
あと、少しでも嫌だと思っていて具体的に竜司さんをやっつけようとするようなことを考えたり、実行したりすると、やられちゃうみたい。
嫌いだって気持ちが強いと痛みや苦しみがまして、最悪死んでしまうみたい。
逆に私みたいに嫌だって思ってなかったら特になんともない。
それが竜司さんの能力」
なんてことだ。
それが本当なら、万にひとつの勝ち目もないことになる。
俺は憎しみをバネに戦うしかないのに、それがかえって自分に跳ね返ってくる。
叔父の言ってた心を反射する鏡というのはこのことか。
「くそ!」
俺はベッドに手を叩きつけた。
「勝ち目がない、どう考えても……」
「竜一……」
「お兄ちゃん……」
俺は鏡美を睨みつけた。
「なあ、鏡美。
それを俺に教えて諦めさせるつもりなんだろ?
わかってるぞ、そんなこと。
それで俺が簡単に諦めると思ってるのか?!」
俺が強い口調で言うと、鏡美は困惑した表情を浮かべる。
「それでも諦めないなんてどうするつもり?」
そこで俺は少し思いつく。
「ちょっと待てよ、結界の範囲外から攻撃すれば勝てるはず。どれくらい離れたらいいんだ」
だが、鏡美は呆れた表情とともに首を横に振る。
「お兄ちゃん、無理だよそれ。私もどれくらい遠くまで結界があるかわかんないけど、少なくとも日本のどこにいても、結界の範囲内らしいんだ」
「な、なんだそりゃ……」
それだと半径が数千キロとかになる。桁が違いすぎる。
「だから、警察とか国家権力も手が出せない。本当にこの国の王様なんだよ、竜司さんは」
あまりにスケールが違いすぎるからか、俺の口から思わずため息が漏れた。
「俺は諦めない! 俺はたとえ負けても」
「ふざけるな!」
アリアが怒りをあらわにする。
「全く勝機がないのに挑むなど自殺行為だ!」
だが、俺も悔しさや憤りに収まりがつかない。
「俺は復讐できない人生なんて選べない。やつがやったことを赦せると……!」
途端に両親が血まみれになって倒れている中、自分も血液で赤くそまった竜司の姿が何度も頭をちらついた。
「竜一!」
「お兄ちゃん!」
体を震わせて怒りをあらわにする俺を二人の心配する声。
しかし、こちらの憎しみに応じて、それを反射するかのように攻撃してくる能力。
どうやって倒せばいい?どうやって?
何か弱点があるはずだ、何か。
ん? こちらの憎しみの気持ちに応じて反撃……。
なら!
そのとき、ふと俺は閃いた。
竜司の弱点に気づいたのだ。




