第58話 竜司の力の正体
俺は病院のベッドで目が覚めた。
傍らにはアリアがいた。
彼女の方が今回は軽症らしく、俺が意識を取り戻すと覗きこんできた。
「大丈夫か?」
アリアの問いに俺はうなずく。
だが、あの光景がフラッシュバックする。
「うわあああああ」
かすれた声で叫ぶ。
アリアがそんな俺を抱きしめる。
しばらくして、俺は静かになると、自分が自分でないような感覚に陥った。
「無理もない、あんなひどい記憶を呼び戻されては」
アリアが俺をねぎらってくれる。
そこへ鏡美がやってくる。
「ちょっと、アリアさん!! 何してるんですか?! お兄ちゃんから離れてくれます?!」
アリアはそれを聞くとあっさり離れる。
「すまない、お前の恋人だったな、鏡美」
「そうです! ってそんなことより、今の叫び声はお兄ちゃんですよね?!」
「そうだ」
「どうなっちゃったんです?」
「非常にショックなことがあって、精神的なダメージが大きいみたいだ。当然と言えば当然なのだが」
「そうなんですか、詳しく教えてください」
アリアは俺に気をつかってか、鏡美に耳元でささやいているようだ。
アリアから話を聞いて表情をすっかり曇らせた鏡美は、俺を抱きしめてくる。
「鏡美、今回観客にも被害が出たようだがそれは大丈夫なのか?」
アリアが鏡美に尋ねる。
「死んだ人や重体の人もいたみたい。
粛清だね。
時々やるんだよね、竜司さん。
ここまで大々的なのは珍しいけど」
その答えようは大したことが起こったわけでもないといわんばかりだ。
「あの竜司という男、人の命をなんだと思っているのか。くっ」
言いながら、アリアは頭を押さえる。
「あんまり竜司さんのことを悪く思わないであげてください。そんなことしても何も良いことないですし」
まるで、竜司をかばうような発言に、アリアは余計に苛立つが、頭痛がさらに増すばかりのようだ。
「ね、良いことないでしょ?」
鏡美はため息混じりにそう言う。そこには一種の諦めのようなものを感じる。
「鏡美、ひょっとしてお前はあいつの能力を知っているのか?」
アリアが質問するが鏡美は無視した。
「だから、やめとけって言ったのに。でもこれで分かりましたよね。
アリアさん、二度とバカなことはさせないでください!
2メートルなんて近くにずっといるんだから、お兄ちゃんが変なことしないかちゃんと見張っててください!
ってこんなこと言ってもお兄ちゃんはどうにもなりそうにないですね。
やっぱり最後の手段しかないか」
「なんだ、最後の手段って?」
アリアの問いに鏡美がいつもより固い表情で答える。
「竜司さんの力の正体を教えてあげます。
それを聞けばお兄ちゃんとアリアさんはもう無謀な挑戦をしないと思うので。
竜司さんの能力は、たとえば竜司さんのことをむかつくとか殺してやるとか思うと、思った人にそれが跳ね返ってくるんです」




